第五十八話「頼みと、覚悟と、決断とって話」
5.5話ストーリーに関係ないって言ったのにすいません。
出てきました。
「申し訳ない! どうしても必要だから俺たちと旅に出てくれ!」
俺はジジイの家で、グリーヴァに土下座している。
本当になりふり構わずに行く所存。
「シヤよ。それだけでは訳がわからんぞ。ちゃんと説明してもらわんと」
ジジイが、困ったような声で言ってくる。
手には俺のお手製のハーブティを持っている。
気に入ったらしい。
「た、確かに。取り乱した。でもそれぐらい緊急なんだ」
ジジイが目を細めて村長の顔になる。
「お主がそこまで言うほどか?」
「あぁ、かなりマズいかもしれん。だが、確定ではないんだ。それを確かめないといけない」
「それを詳しく話せと言うのだ」
ジジイはヒゲを扱きながら、叱責するように言う。
「そうなんだけど、それを説明するには、アレを説明しないといけないんだが」
俺は渋面でこちらを睨んでいるグリーヴァに目配せする。
その視線に気づいたジジイは唸りながら答える。
「そういうことか。村の未来に関することなのだな?」
ジジイが眉を顰めていう。
「ああ、その未来のことで、グリーヴァの力が必要なんだ」
「ふむ。具体的にはなにをする?」
俺は頭の中でロードマップを描き説明をする。
「まず、グリーヴァを強化するためのアイテムを取りに行く」
最初は適正レベル15前後のダンジョンを攻略してそいつを手に入れる。
「もうこの時点で俺とブライト達だけでは、そのアイテムがあるダンジョンを攻略できない」
グリーヴァを見ると、まだ渋面のままだ。
「なるほど、それでグリーヴァが必要と。グリーヴァを強くする為に本人が行くのは道理よな」
ジジイがグリーヴァを見るが、グリーヴァは首を縦に振らない。
それを見て俺に視線を戻す。
「して? グリーヴァを強くして何をする?」
「俺が使おうとしてた、鉄壁の防壁が使い物になるか確認に行く」
「……なぜ、グリーヴァの強さがいる?」
ジジイは不思議そうに言う。
「防壁に使うのはゲーム的なアレなんだが、それをモンスターが壊せるか確認したい。だが、生半可なモンスターじゃ確認にならないんだよ」
もしそのモンスターが鉄壁の収納箱を壊せたら、ものすごく先にある硬いブロックを取りに行く必要がある。
襲撃してくるモンスターは、生半可なブロックでは太刀打ちできないのだ。
白い石なんかでは一瞬で消し飛ばされる。
「だが、そのモンスターに会いに行く前に、俺たちは必ず死ぬ」
そいつにたどり着く前に、瞬殺だ。
ジジイは低く唸る。
「その為のグリーヴァか」
「ああ、強化したグリーヴァがいれば、そこまで到達できる」
ジジイは暫く考えた後に口を開く。
「村のことも大事。だが、グリーヴァを犬死にさせるような事は許さんぞ?」
ジジイは俺を鋭く睨む。
俺はそれに臆する事なく答える。
「死なせやしないよ。俺の矜持にかけてな。と言うか、強化が済めばグリーヴァだけは絶対に死なない」
強化アイテムで魔改造されるからな。
「ふむ。お主らに死なれても困るのだがな」
「俺も死ぬ気はないが……そうだな、万が一に備えて俺が死んだ時の事も考えておいた方がいいか」
ジジイは心配そうに言ってくるが、その可能性を考えてなかった。
防衛手順をしたためたノートでも作るか?
ブライト達は置いていくか?
でも、あいつらがいないと、かなり難しくなる。
あいつらも、しーぷん狩りでそれなりのレベルだからな。
俺が一応の備えを考えていると、横から声がかかる。
「おい。俺の話で俺を無視してんじゃねぇよ」
見ればグリーヴァが怒りの表情を浮かべている。
「俺は行くなんて言ってねぇ」
グリーヴァは俺どころかジジイも睨みつける。
「てめぇは、ファムがどんだけ怯えてるか知ってんのか? あんなファム見た事ねぇよ。お前がいつ現れるかもしれねぇって、ずっと怯えてんだぞ?」
震える声で、グリーヴァは言う。
「それなのに、てめぇはのうのうと、村の奴らとなんかやってる。何も感じねぇのかよテメェは」
グリーヴァの言葉に俺の心に、重くのしかかるものがあるが、本当になりふり構っていられないのだ。
だから、正直に話す。
「感じてるよ。心も壊れた。今も治ってない。だけど、それでも、お前に頼まなくちゃならない。俺はこの村を守るって決めたから」
「その割には楽しそうに見えたけどな」
グリーヴァが嘲笑と侮蔑を込めて言ってくる。
「大人だからな。心がぶっ壊れようが、体がぶっ壊れようが、やることをやるんだ」
グリーヴァは一瞬驚いたような顔をして、すぐに睨みつけてくる。
あとこれは言わないけど、俺はゲーマーだから。
シーケンスブレイカーだから。
それだけは、譲れないから。
この村の壊滅イベントを回避する。
「だから、頼むよこの通り。俺たちと旅に出てくれ」
俺はもう一度頭を下げる。
「……虫が良すぎるだろう」
「わかってる」
「信用ならねぇ」
「わかってる」
「許せねぇ」
「わかってる」
俺は受け入れるのみだ。
いつか乗り越えられるその時までな。
しばらくの沈黙。
「もう一つ気に入らねぇ事がある」
グリーヴァが静かに言う。
「俺が行く前提で話してんのに、テメェが死ぬかもしれねぇって思ってることだ」
俺は顔をあげグリーヴァの顔を見る。
そこにはあの日、覚悟を決めたときと同じ目をした男がいた。
「俺の前で誰もモンスターに傷つけさせねぇ。その為に毎日うりぷーを狩ってんだ」
そうか、そこまでの覚悟で俺の言ったことをやり続けてたのか。
強くなる為じゃなくて守る為に。
「爺さん。こいつは信じられねぇが、覚悟を決めてるのはわかった。だが、俺にはその覚悟が何なのかがわからねぇ」
グリーヴァはジジイの方に身を乗り出す。
「いい加減俺にも説明してくれよ」
その言葉にジジイは一瞬考えて答える。
「お前はまだ村長ではない。故に教えることは何もない」
ジジイは突き放すように言う。
だが、グリーヴァは一歩も引かずに言う。
「こいつは村を守るって言った。村の未来の為なんだろ? それで俺の力がいるんだろ? どう考えたって、俺も知っておいた方がいい」
そう言ってグリーヴァは腰を浮かす。
「それでも、説明しないってんなら、村より掟を優先するなら、あんたを引き摺り下ろして、今俺が村長になる」
そう言って獣が獲物を狙うように体を沈める。
だが、それを見てもジジイはピクリとも動かない。
それどころか、鋭い眼光でグリーヴァを威圧している。
「獲れると思うか? ワシの首を」
「村のためなら、獲る」
空気が張り詰め、実際に質量を持ったかのように重くなる。
何か言えば、それがきっかけになってしまうかもしれず、俺は何も言えない。
今にも弾けそうな重圧に、ふっとジジイが目線を横に逸らす。
そしてそれに釣られてグリーヴァの視線も動く。
その瞬間ジジイはハーブティの入っていた茶碗をグリーヴァに投げつける。
「なっ!」
グリーヴァは咄嗟に手で庇うが、お茶が全身にかかり濡れそぼる。
「それが、毒であったら、どうなっておったかな?」
ジジイはヒゲを扱きながらニヤリと笑う。
「敵から目を離し、飛んできたものを確かめもせず受け止める。判断が甘いぞ、小僧。それではこの首まだやれんわ」
「くっ」
悔しそうにするグリーヴァ。
だが、俺はそれを見てジジイの意図に気づく。
「だが、中々の覚悟よ。それに免じて教えてやろう。我が一族の使命と、この村の未来をな」
この狸ジジイ最初から説明するつもりだったな。
「え?」
鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をするグリーヴァ。
「って言うか、村の未来は俺が教えたんだろうが」
何を偉そうに言ってんのか。
「ほっ。そうであったな。では、それも含めてお主にゲームの話もしてもらおうか」
ちっ。このジジイ、どんどん切れ者になっていきやがる。
これもシナリオ通りってか。
「覚えてろよ? 次の新作ゲームはやらせてやらないからな?」
俺がそう言うと、今までの威厳はどこへやら、迷子の子供のような顔をして縋り付いてくる。
「後生じゃ、おい先短いジジイの楽しみを奪わないでおくれぇ」
「お前そんなキャラじゃないだろ」
ジジイを引き剥がしながら、俺はグリーヴァの方を見る。
「今からお前にはこの先、この村に何が起こるのか全部話す。そして俺の知識の出どころも。俺の存在は信じなくてもいいが、今から言うことだけは信じてくれ」
お茶をぶっかけられて呆けていたグリーヴァは、俺を睨みつけながら確かに頷く。
それを見て俺は、勇者や魔王の事、この村の未来のことを話した。
そしてなぜ俺がそれを知っているのか、ビルダーズブレイブの話をした。
グリーヴァは黙ってそれを聞いていたが、ポツリと言った。
「だから、村を守るって言い続けてたのか」
そして、膝をギュッと掴んでから俺の目を見て言う。
「わかった。村のためにお前らと行こう」
俺はその言葉に喜びを覚えるのを感じた。
だが、すぐにグリーヴァは言ってくる。
「だが、あくまで村のためだ。お前の事は……まだだ」
それでも一緒に旅ができるなら嬉しいよ。
よし! そうと決まればグリーヴァの為のスーパーアイテムを作らないとな!
「うん。細かい計画はまた明日な。俺は今から行くところがあるから!」
俺はドラゴンの鱗を取りに水没トラップの岩山へ向かう。
「レシピ落ちてろ〜! 頼むからレシピ落ちてろ〜!」
俺は、レッドドラゴンが低確率で落とす、ドラゴンシールドのレシピが落ちていることを祈りながら走るのだった。
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