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第五十七話「誤算と、説明と、必要性とって話」

前話のあらすじ。

人から拒絶されることがトラウマになったシヤは、マルールの元を訪れる。

シヤは彼女と大切な人の消失という共通点を見出しす。

自分に必要なのは、拒絶されない方法ではなく、それを乗り越える方法であると気づく。

そしてシヤは定期的にマルール宅に訪問することを目論むのであった。

 

「え? みんな図面読める様になったの?」


 俺はブライトの得意げな顔を見て驚愕する。


「ある程度だぜぇ。完璧とはいかないが、マス目を数えるくらいはできるようになったぜぇ」


 昨日の休日の間にブライトは改めて、作業者に図面の見方を指南したらしい。


 マジか……


 俺、前世で教育係とかもしてたのに。


 ゴロツキに負けた……


 前世の部下たちよ、わかりづらい教育をした俺を許してくれ。


「お、おい兄貴、崩れ落ちてどうしちまったんだぜぇ?!」


「気にしないでくれ、俺に部下の教育なんて烏滸がましかったんだ」


 崩れ落ちたまま、地面にのの字を書くことで精神の安定をはかる。


 最初にこれを流行らせたのは誰だろう?


 高橋留美子先生かな?


 子供の頃は五代君の優柔不断さが許せなかったなぁ。


 俺も未亡人狙いだから、今はわかるよ五代君。


 難しいよね。


「大袈裟だぜぇ。ただ単に、作るを理解できない気持ちがわかるから、説明がうまく行っただけだぜぇ」


 ブライトが俺の肩に手をおき、慰めてくれる。


「なるほど、俺の経験不足だったというわけか。ならば仕方ないな」


 俺はスコップを杖にして立ち上がると、現場を確認する。


「まぁ、いいけどよぉ」


 床を張る為の穴は結構掘れているようだ。


「入り口付近はあらかた終わったか?」


「ああ。直線がほとんどだったからな。あとは斜めの部分だけがネックだったが、わかってもらえて良かったぜぇ」


 うむ。それは本当に良かった。


「だが、どうやって理解させたんだ? 斜めに掘るじゃ、全然伝わらなかったのに」


 疑問に思った俺は、ブライト先生に一手教えを請う。


「斜めがわかりにくかったからな。直線で説明した。3マスの直線を、1マスずらして重ねていけって、具体的に説明しただけだぜぇ」


 それなら、俺も配信者さんを参考に同じ様に説明したのに。


 何が違うのだ。


「図面の見方がわかったことが、一番の要因だぜぇ。それと、これからはその掘り方のことを、段ずらしと呼ぶことにしたぜぇ。固有名称をつけた方が、現場では早いからよぉ」


 優秀がすぎる。


 ゲーム知識では譲るつもりはないが、現場監督ではブライトの方が上手ということか。


「ふ……負けたよ」


「適材適所ってことだぜぇ」


 まぁ、この子ったら謙遜もせずにさらりと認めたわ。


 それなのに鼻につかないのが、男前の証。


「お前モヒカンやめれば、めちゃめちゃモテると思うぞ?」


 俺は最大限の賛辞を込めて忠告する。


 するとブライトは不思議そうな顔をして言う。


「何言ってんだぁ? 悪りぃが、これでも俺はモテるんだぜぇ」


 悪びれることなく言うブライトの腹に、正拳突きをお見舞いする。


「これはモテない男たちの魂の叫びだ!」


 だが、しーぷんでレベル上げしたブライトに、俺の攻撃は1ミリもダメージを与えられなかったようだ。


 微動だにしない。


「兄貴だってモテないわけじゃねぇだろうに、理不尽だぜぇ」


 ブライトは呆れて言う。


「確かに、前世で彼女はいた事はあるが、モテるというほどではなかったよ」


 結局、ここに来る直前は彼女いなかったし。


「ほーん。意外だな。兄貴ほど頼りになる奴は女が放っておかないかと思ったぜぇ」


 本当に意外そうにいうブライトに、面映い気持ちになる。


「頼りになる? 精神崩壊寸前までいって、部下と惚れた女に迷惑かける俺がか?」


 自嘲しながら肩をすくめる。


「責任感の現れだろうぜぇ。まぁ、人のもんまで背負うのが悪い癖だがよぉ。俺たちのことも、その体の元の持ち主のこともだぜぇ」


 その言葉にどきりとするが、その胸に指を突きつけブライトは言う。


「それって、女神様の責任だろぉ? 兄貴の責任じゃねぇよ」


 言われりゃ、そうなんだがね。


「ま、お前の言うとおり、中々割り切れないのが俺の悪いところなんだろうよ」


 このお話は、もうおしまい。


 これからは二週間に一回マルール先生のカウンセリングで改善していく予定なんで。


「あ、そうだ。肉。肉が欲しいんだよな」


「なんだい藪から棒に。唐突だぜぇ?」


 いや、大事なことなのだ。


 マルール先生のカウンセリングは、現状(仮)なんだ。


 二週間後にもう一度、相談に乗ってもらって、その後をどうするか決める事になった。


 そして、俺はそれを定期開催にすべく、更なるうまい料理で籠絡するつもりなのだ!


「マルールにうまいものを食わせたい。それだけのことだぜ」


「かっこいい風に言われてもなぁ。それにしてもやっぱり惚れたんだな」


 ブライトはニヤニヤしながら言ってくる。


「おうよ。惚れないでか。俺はチョロいんだよ」


「チラリと話したが、おのお方は難しいぜぇ?」


「俺はモテなかったが、口説けなかったことはないんだよ」


 俺の言葉に肩をすくめるブライト。


 浮かぶ表情から応援自体はしてくれるようだ。


「で、話を戻すが、肉なんて高級品難しいぜぇ」


 確かに街で買うと、毎日の食卓に乗せるには高い。


 肉をドロップするモンスターの強さが、一般人には手が余るからだ。


「だが、肉を落とすモンスターは、レベルが上がったブライトとロトンドならば倒せるレベルだ」


 俺の私情に巻き込んで申し訳ないが、肉を使った料理はバフ効果もあるので、どのみち手に入れる予定ではあるのだ。


「まぁ、俺らはいいけどよぉ。兄貴……死んじまうぜぇ?」


 そこなのだ。


 貧弱脆弱即死モブボーイの俺ではついていけない。


「グリーヴァ……ついてきてくれねぇかな?」


 グリーヴァがタンクをしてくれれば、取りにいけるアイテムがいくつもあるのに。


「流石に、兄貴の恋愛のためには無理だと思うぜぇ?」


「そうだよなぁ。無理だよな。ついでにグリーヴァがいないと攻略が滞るんだよなぁ」


 絶対死んじゃうマンの俺のせいで、行動範囲が限定されているのが悪い。


「悩ましいねぇ。ま、まずは村に貢献して、信頼を勝ち取ろうぜぇ?」


 バシバシと肩を叩いてくる、ブライト。


 激しく痛い……ん?


「なんで俺がグリーヴァと最悪! 険悪! 劣悪! なのを知ってんだ?」


「村長殿に聞いたぜぇ。知っておいた方が色々都合がいいからって言ってたぜぇ」


 むぅ。おしゃべりハゲヒゲジジイめ。


 だが、一理あるか。


 主要キャラと、疎遠なのは問題があるからな。


 その割には仲裁してくれないのが気になるお年頃。


「ま、お前のいう通り、やれることをやっていこう」


 気にしてもしょうがない、俺は周りに見られぬように、アイテムボックスからブロックを取り出す。


 そして掘られた穴に近づき埋めていく。


「外側3マスは資材節約のために白い石で、その中は石の床にしてぇ、やはり土より作ったブロックの方が、映えるなぁ」


 俺がうっとりしていると、ブライトが声をかけてくる。


「なぁ、兄貴なんでそこ3マス分白い石なんだぜぇ? 図面を見ると真ん中を開けて壁を二重にするみたいだがよぉ?」


 バッチリ図面を読み取れる様になって良きかな良きかな。


「いいところに気づいたね? ここは人から見えないから節約で白い石にするのと、壁に空洞があるのは、最強の防壁を作るためだ」


 ふふふ。とあるグリッチを使うと、魔王以外は突破できない最強の壁が出来上がるのだ。


 個数制限があるけど。


「また、何かゲームの仕様を使った技を使うわけなんだぜぇ?」


「さよう、今見せてやろう。最強、最高、最硬(さいかた)の不壊アイテムの存在を!」


 声高に宣言しつつ、周りの目を気にしながらアイテムボックスから二つ収納箱を取り出す。


「ん〜? 収納箱だぜぇ。それが最強なのかい?」


「ふふふ。木で出来た柔な箱に見えるだろう?」


 俺は適当に有り余っているハーブを片方の収納箱に収納する。


「さぁ、ブライト君まずは何も入っていない収納箱を殴ってごらん?」


 俺はスコップを渡しながら、ブライトを促す。


 ガツンガツンという音と共に収納箱は破壊される。


「では、次にアイテムの入っている方を殴ってみなさい」


 ブライトは言われるがままに収納箱を叩くが、今度は何度叩いても破壊されない。


「おぉ、壊れないんだぜぇ」


 収納箱を叩き続けながら、感心した様に言うブライト。


 ふふふ。凄かろう。


「これを沢山設置すれば、どんな村も街も鉄壁になるんだぜぇ」


「残念ながら、そうはいかないのだ。何故なら、収納箱の設置上限というものがあってだな、500程度しか置けない。だから、世界中の防壁を鉄壁には出来ないんだ」


 実は収納箱の処理は結構重くて、ゲーム負荷を減らすための仕様だ。


「そいつぁ、残念だぜぇ。もし出来てたら英雄扱いだったぜぇ」


 スコップを肩に担ぎながら、言ってくるブライト。


「俺はゲーマーだからな。英雄扱いはごめんだね」


 村長ですら断った俺だ、仕事が増えるのは嫌です。


「でも、なんでアイテムを入れると壊れなくなるんだぜぇ?」


「いい質問だね。ビルダーズブレイブの世界では破壊されたアイテムが存在できる上限は512個。それを超えると、古いものから消えてしまうんだ」


 ブライトは俺の話を聞いて首を傾げる。


 何かわかりづらかったか?


「つまり、モンスターが収納箱を壊せてしまうと、一気にアイテムが溢れ出して、意図せず他のアイテムが消滅してしまうから、それに対策するために壊せない様にしているんだ」


 わかった?


 俺が説明を終えても、ブライトは首を傾げている。


「わかりにくかったか?」


「ん〜。分かるには分かったんだぜぇ」


「じゃあ、何をそんなに首を傾げるのかね」


 しばらく考えてからブライトは口を開く。


「なぁ、兄貴。それってブロックも含むんだぜぇ?」


 む、いい着眼点だ。


「含まれる。だから整地前にはアイテムをきちんと設置するか、収納しておく必要がある」


 せっかくの素材が消えてしまうのは整地中のあるあるだ。


「今も、山削ってるけどよぉ、同じように世界中でブロックを壊している人がいると思うんだぜぇ」


 そうか、この世界は現実だからチャンクもないし、勝手にブロックを壊してる人もいるだろう。


「なのに一度も、俺たちの白い石が消えなかったのは、たまたまかよぉ」


 ……確かに。


 ブライトのいう通りだ。


 という事はだ。


 アイテムは512個で消えない可能性が高い。


 すると、収納箱が壊れない仕様の大前提が変わってくるってこと?


「検証……したのかよぉ?」


「してない……」


 なんという事だ、ゲーマーとしてあるまじき事である。


 いくら情緒不安定であっても、この部分はおろそかにしちゃダメだろ。


 俺の芯だろ。


 っていうか、普通にマズいじゃん!


 俺はさーっと血の気が引くのを感じる。


「すごくマズい! 確認が必要だ!」


 ブライトは壊せなかった、じゃあ、通常の住民は?


 物作りができるようになったジジイは?


 メインキャラのグリーヴァは?


 そして何よりモンスターは?!


「ぐ、グリーヴァ! マジでグリーヴァの力がいる!」


 俺たちだけでは、アイテムを破壊できるモンスターの生息地までいけない。


 うりぷー程度ではアイテムは壊せないのだ!


「ジジイ! ジジイだ! 流石に一緒に冒険に出るよう説得してもらおう!」


 俺は現場を放って、走り出す。


「あわわわ! 大変じゃよー! 一大事じゃよー! なりふり構わない俺のターン!」


 後で聞いたが、この時の俺を村人みんなが奇異の目で見たらしいことだけつけ加えておく。

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