↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/69

第五十四話「伝えて、気づいて、誤魔化しきれないって話」

 

「それと、頼まれた通りにファムと家族に伝えたぞ。少なくともお主の悪い噂が流れることはないだろう」


 流石ジジイだ、他の人間ではこう上手くいくまい。


 一体どうやって、人の体を乗っ取っている化け物を秘密にさせられるのか。


 想像もつかんが、ありがたい事に違いはない。


「すまない。助かったよ。ありがとう」


 俺は頭を下げ感謝を伝える。


「改まるな。村にとっても重要なこと。当然のことをしたまでだ」


 不敵な笑みを浮かべながら言うジジイ。


 さも当然のように言ってくれるが、これは俺の問題で俺の失態だ。


 これは借りとして覚えておこう。


「だが、ファムに近づかない事に加えて、家族にも近づかない事を約束させられた」


 言いにくそうに言うジジイだが、気にすることはない。


 当然だろう。娘にトラウマを植え付けた野郎なんか顔も見たくもないだろうし。


「かまわないよ」


 俺は一言返す。


 縁が切れた人間が、一人から三人に増えただけだ。


 生きてりゃ縁の切れる人間なんていくらでもいるさ。


「……大丈夫か?」


 ジジイの主語のない問いかけ。


 俺は肩をすくめるだけで返す。


 ジジイは俺の顔を見てため息をつくと、首を横に振った。


 しばらく二人で掘削作業をしている住民を眺めてから俺は聞いた。


「グリーヴァは……なんか言ってたか?」


 聞いたところで何が変わるわけでもない。


 だが、聞かずにはいられなかった。


 少しだけ早まる鼓動を感じながら、返答を待つ。


「なにも言わなんだ」


 そう言うジジイの言葉に落胆を覚える。


 そして次に、そう感じた自分に嫌悪感を覚える。


 ___同情でもしてもらえると思ったのか。


 ___許してもらえるとでも思ったか。


 我知らず嘲笑が漏れる。


 我ながら鬱陶しい野郎だ。


「だが、何かを考えておったよ。眠りもせず朝方までな」


 振り向いてジジイの顔を見ると、やはり不適な笑みを浮かべている。


「我が孫も愚かではない。いや、愚かでなくなったというべきか? なぁ、シヤよ」


「どういう……意味だ?」


 俺が惚けて聞くとジジイは俺の肩に手を置き言う。


「前世を含めようがワシよりも若造の小童よ。悩むがいい。その時に選択を違えぬようにな」


 そう言うとジジイは踵を返しその場を離れていく。


 俺はその言葉を反芻して、意味を考える。


「チッ。意味深なこと言いやがって」


 結局、自分らで解決しろって事じゃないか。


 しかも、グリーヴァがもしかしたら、話し合いの席に着いてくれるかも知れないみたいな希望まで持たせて。


 だが、そんな言葉で気持ちが軽くなっている自分も現金なもんだ。


 何一つ解決してないってのにな。


「さて、現場監督を続けましょうかね」


 俺は肩を回すと、穴を掘っている奴らの元へ向かう。


「ちゃんと数えてるか?」


 俺の問いかけに男どもが振り返る。


「おう! ちゃんと数えてるぞ。5マスずつだろ?」


 うむ。ちゃんとやっているようだ。


 俺はそう思いながらも、掘られた穴を数えていく。


 念のためだ。


「1、2、3、4、5……6」


 もう一度数える。


「1、2、……6」


 俺はゆっくり息を吐く。


 しかしこめかみがピクピクするのを止められない。


 再びゆっくり息を大きく吸って言う。


「ズレてんじゃねぇか!! 初っ端から!!」


 何のための仮りブロックだと思ってんだ!


 どうして間違えられる?!


「えー。あってるよ。いいか、いーち、にー、さーん……」


 そう言って、男は仮ブロックを指差し、隣のブロックに指を動かしながら、いーちと数え始める。


「違う! このブロックが1! このブロックも含めて5! その数え方だと次が6になっちゃうでしょ?!」


「ちょっと何言ってるか分からない」


「なんでだよ! 基本だろ!」


「そう言われてもなぁ。なぁ?」


 男は後ろにいる皆んなを振り返り同意を求める。


 そして、男どもはうんうんと頷いている。


「むきぃ……」


 いや、待て。


 俺の中のゲーマーが、俺自身を戒める声をあげる。


 俺が初心者だった頃を思い出せ。


 まだ何も上手に作れなかった頃。


 一級建築士の真似をして作ろうとしたオシャレなハウス。


 あの時の俺は同じ過ちを犯さなかったか?


 何故か左右が対称にならなかったあの日を思い出せ。


 なんてことだ、俺は誰もが通るミスをあげつらって、ご新規さんに厳しい言葉を放ってしまった!


 これではこのゲームが過疎ってしまう!


 俺は慌てて笑顔を浮かべると、急いで口を開く。


「なーんてね☆ 冗談だよ冗談。誰にだって分からないことはあるさ。全然気にしないでね♡」


 ウィンクをバシンバシンかましながら、男の方に腕を回す。


「やだ……気持ち悪い」


「誰が気持ち悪いだ!」


 ドン引きする男の膝の裏に蹴りを入れる。


「いてぇ!」


「座学! まずは座学を行います!」


 俺は頭の上で腕を大きく振り男どもを集める。


「なんか、乱暴になったよな。シヤ」


「あぁ、なんか人が変わったっていうか」


 こそこそと、話す男たち。


 その内容に体温が下がる感じがする。


 気にしないようにしても、どうしても聞き耳を立ててしまう。


 俺はアイテムボックスから椅子とテーブルを出しながら、そちらに耳を向ける。


「うぉお! お前今、どっから出したんだそれ!」


 その瞬間すぐ近くの男が引くほど驚く。


 っ。


 しまった。


 奇異の目で見られないために、村の連中には見せないようにしていたのにミスった。


 男たちがざわめき出す。


「なんか変じゃね」


「なんの魔法だ?」


「シヤって魔法使えたっけ?」


 たくさんの目が俺を見ている。


 品定めするように、観察するように。


 手の先が痺れ、息が浅くなる。


 先ほどよりも、もっともっと体温が下がる。


 ___またか?


 心の奥底から呟きが聞こえる。


 だが、営業マンは心の内を見せない。


 もはや、俺の生き方といっていい。


 だから、俺は拳を強く握るとニヤリと笑って見せる。


「ふっ。忘れたか? 俺が街に数ヶ月行っていたことに」


 俺の言葉に男たちは怪訝な顔をする。


 俺はそれに肩をすくめて見せる。


「男が街に一人で行ったら……どこにいくだろうなぁ?」


「ま、まさか!」


 男たちは何かに気づいたように、そして心当たりがあるように驚く。


「男が変わる事など、まっこと、たやすきことよ」


 俺は遠い目をして街の方を見る。


「なるほど……納得がいったぜ」


「そうか、大人に……なったんだな」


 男達の眼差しは生あったかいものに変わり、力強く頷いている。


「大人になったのなら……魔法も使えるか?」


「いや、どうだろう?」


 おっと、雲行きが怪しくなってきた。


 追加で誤魔化そう。


「ふっ。男が一番物を覚えられる時っていつだろうな?」


 その言葉を聞いてまた男達は息を呑む。


「まさか……相手は魔術師っ」


 後退りながら驚きをあらわにする男に、俺は肩をすくめて答える。


「こりゃ、村のみんなに知らせないと!」


 不穏なことを口にしながら、駆け出そうとする男に俺は、アイテムボックスから砂の目潰しを投げつける。


「めがあぁ!」


 俺は素早く近づき何個か目潰しを喰らわせる。


 ひとしきり男を砂まみれにした後、俺は立ち上がり辺りを見回す。


「えー。今の話を女性の皆さんにいった場合は制裁を加えます。少なくとも二度と料理を食えると思わないで下さい」


 ニッコリと笑顔で伝えると、男達は素早く頷きを何度も返してくれる。


 マルールの耳に入ったら好感度下がっちゃうかも知れないしね。


 うん。平和的に解決できて何よりだ。


 ___上辺だけだが。


「ではみなさんご着席ください。建築のいろはを最初からお教えします」


 素直に着席する男達に、俺はまずマス目の数え方と、豆腐建築についての講義を開始する。


 やはり難しかったらしく、今日は講義で終わってしまった。


 しかし、ご新規さんを囲うためだ、優しく教えていかないとな。


 そんな事を考えながら、家路についていると周りに家がなくなってくる。


 家の光がなくなってくると、人の声もなく、静かな木々のざわめきだけが聞こえる。


 ふと、ファムの恐怖の顔とグリーヴァの怒る顔。


 そして今日の男達の奇異の眼差しが脳裏をよぎる。


 俺は歩みを止め目を強く閉じた後、息を止める。


 拳を強く握り締め、毛穴がザワザワするのをやり過ごす。


 鼻から息を大きく出すと、強く結んだ口を緩める。


 ___うん。大丈夫。


 そのまま家に帰りドアを開ける。


「ただいまー」


「おかえりだぜぇ……」


「おかえりでさぁ……」


 俺より早く帰ってきていたらしい、ブライトとロトンドが出迎えてくれる。


 しかし、二人とも訝しげな顔だ。


「またかい兄貴ぃ。いや、今回はちょっと違うか?」


「でさぁ、今回は多分お友達関係でさぁ」


 二人は顔を合わせて、よく分からないことを話し出す。


「なんで、そう思うんだぜぇ?」


「今朝の時点で、反応がおかしかったんで」


 俺を置いて話し続ける二人。


 そして、ブライトが俺の方に来て背中を押してテーブルに着かせてくる。


「こりゃあ、俺らじゃだめだな」


 俺の顔を覗き込むようにしながら言うブライト。


「でさぁ」


 ロトンドも同意しながら頷く。


「な、何の話だ?」


 俺が困惑して尋ねると、ブライトが指を突きつけていってくる。


「死人みてぇなツラしてんぜぇ」


 どきりと心臓が跳ねる。


 だが、そんなはずはない。


 営業マンは内心を外に出さない。


「大兄貴ぃ。それができないくらいに顔に出てるってことでさぁ」


 ロトンドがまるで俺の心を読んだかのように言う。


「いや、俺は……」


「こういう時はあれだな」


「それでいいと思うんでさあ」


 俺の言葉を無視して二人は何かの結論に達したらしい。


 もう一度ブライトは俺の鼻先に指を突きつけると言ってきた。


「兄貴。明日は休んで、マルールさんのところに行ってこい。これは部下からの命令だぜぇ」


 俺は混乱しながら、部下からの命令って矛盾してるよなとだけ思った。


お読みいただきまして誠にありがとうございます!


ちゃんと読めると思った方は下の☆ ☆ ☆ ☆☆を★ ☆ ☆ ☆☆こう!

面白いなと思ったら下の☆ ☆ ☆ ☆☆を★★★★★こう!

まだの方はついでにブックマークなどもお願いしたい!


いいねと感想もお待ちしております!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。