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第五十三話「分けることと、説明とって話」

 

「失ったって……何をだよ! 適当なことを言ってんじゃねぇぞ!」


 グリーヴァは怒りの感情に任せてひたすら叫ぶ。


 どうやら、今日はもう冷静に話はできないようだ。


 もうこれは、退散した方が良さそうだ。


 だが、これだけは約束してもらわなければならない。


「俺の失ったものなんかどうでもいいだろ? 大事なのは今ファムが怯えて恐怖に震えてるってことだ。違うか?」


「だから、てめぇが言うんじゃねぇよ!」


 またグリーヴァが激昂して立ち上がろうとするのに被せて村長が鋭い声を上げる。


「グリーヴァ。同じことを言わせるな。その時を違えるな」


「だけど、おかしいだろ! こいつはおかしいだろ!」


 村長に静止され、頭をかきむしりながらグリーヴァが訴える。


「では彼が言っていることもおかしいか?」


 あくまで冷静に投げかける村長。


 その眼差しは厳しく自分の孫を見据えている。


 その顔を見て、グリーヴァは両手で顔を覆い、肩を振るわせ、低く長い唸り声を殺す。


「……言ってることは、間違ってねぇ」


 様々な葛藤があった上での事だろう。


 グリーヴァは吐き出すように言う。


 そしてそのまま床に頭を叩きつける。


 鈍い音が部屋に響き、その後しばらくの静寂が辺りを支配する。


「……わかった」


 グリーヴァは、そのままの姿勢で、俺の方を見ることもなく答える。


 何をとは言わなかったが、彼はファムを放っておく事はしないだろう。


 約束したなら必ず守る。


 それさえ分かれば、今はそれでいい。


 もうお暇させてもらうことにしよう。


 俺は席を立ちドアへ向かう。


 ふと、気になったことがあって振り返って村長に問いかける。


「随分厳しいんだな?」


 俺が苦悩しているグリーヴァを視線で示すと、村長はニヤリと笑みを浮かべるのみで何も言わない。


 俺は肩をすくめて外に出る。


 ドアを閉めて、大きく息を吸うと体の熱が抜けていく。


 俺は何故かそのまま家に戻る気になれず採掘場へと向かう。


 村の明かりがだんだん離れていき、月の明かりに照らされた風景だけになっていく。


 採掘場についてみれば月明かりだけでも辺りが見回せる。


「あぁ、ゲームと一緒で夜でも真っ暗にならないのか」


 ビルダーズブレイブの仕様を思い出す。


 夜でも作業ができるように、画面が見えやすくしてあるのだ。


「最初はここに何を建築したんだったっけな」


 最近は初期村周辺を整備したり、建築したりしなかったので忘れてしまった。


「自動栽培装置でも建てるかなぁ。あーでも回路が組めないか?」


 俺はどのイベントを起こせば回路を手に入れることができるのかを思い出す。


 確か最初のフラグはグリーヴァ関係のイベントだったか。


「……手に入らないかもしれんね」


 取り乱す彼の姿を思い浮かべて、そう思う。


 俺は改めて採掘場を見渡す。


 オープニング前に削れてしまった山は一体何を思うのか。


「んー? これ結構進んでるな。もうすぐ終わるじゃん」


 よく見れば大人数で作業をしたおかげか、あと数日で平らにできるだろう。


 人数の力は偉大だな。


 これなら、もう村の方の建築に着手してもいいかもしれん。


 早め早めにやらないとな。


 いつ何時、俺が村から拒絶されて追い出されるかわからんからね。


 俺は踵を返し明日の段取りを考える。


「まずは、方眼紙に図面を起こさないとなぁ」


 頭に図形を思い浮かべながら俺は家に戻る。


 ブライトとロトンドに今日の礼を改めてして、机に向かい鉛筆を走らせて図面を完成させていく。


 熱中している間に窓の外が明るくなっていることに気づいた。


 俺は一眠りすることにしてベッドに潜り込む。


 久しぶりに前世の夢を見た気がした。


「兄貴ぃ。時間だぜぇ」


 俺はブライトに体を揺すられて目が覚めた。


 ほぼ徹夜だが眠さはない。


 社会人を舐めるなってことだ。


 俺たちは顔を洗って、男たちが待つ採掘場に向かう。


「あ、そうだ。今日から採掘と村の建設と同時進行にしようと思う」


 俺は二人の方を見ながら言うと、ブライトが少し上を見て考えた後答える。


「そうだな。採掘の方はもう俺たちだけでも大丈夫だろうぜぇ。見晴らしもいいし、見張りも一人で大丈夫だろうしなぁ」


「収納もグリーヴァさんと二人なら楽勝でさぁ」


 ロトンドが何気なく言った言葉に、なぜか一瞬俺の足が止まる。


 俺は首を傾げながら二人に言う。


「あぁ、グリーヴァ多分今日から来ないから。別件で」


「……さようで。了解でさぁ」


 ロトンドの了承の言葉と同時に現場に到着する。


「おうおう。今日もむさ苦しいな」


 男どもが群れを作ってひしめいている。


 決しておしくらまんじゅうはしたくない光景だ。


「聞こえてんぞシヤ!」


 そのうちの一人から抗議があがる。


「事実だろ?」


「事実だから言っていいわけじゃねぇんだぞ!」


「そうだったのか。今度からは気をつけよう」


 適当にあしらい、朝礼で本日の流れを皆に伝える。


 朝礼をしてると前世の仕事を思い出すな。


 ……昨日の数字とか、今日の目標とか。


 よし、忘却しよう。


 俺は頭を振って忌まわしい記憶を追い出す。


 そして大体三分の一の男どもを村の方に回すことにした。


 特に報酬も変わりないので、問題もなくスムーズに進んだ。


 問題があるとすれば、村に向かう道中、俺がむさ苦しい男どもを引き連れたハーメルン状態だったことぐらいか。


 俺は城門に皆を集めて改めて仕事の内容を説明する。


「まずは土台つくり……あぁ、穴掘りがお仕事です」


 一瞬皆の目から光が消えたのですぐに言い直す。


 このNGワード感どうにかならないかな、面倒臭さしかないんだけど。


「面倒臭さしかないんだけどー!」


 一応、空に向かって抗議をしておく。


「おいおい。仕事を始める前から、面倒なんていうもんじゃないぜ」


 一番前にいた男が眉を顰めていってくる。


「違う違う、別件の叫び」


「……そ、そうか。大変だな」


 なんだか可哀想なやつを見るような顔をしている。


 失礼なやつだ。


 だが、面倒臭いのに間違いなかった事が発覚したのはすぐのことだった。


「おーい、シヤこの方眼紙ってのどっちが上だ?」


「ちゃんと城門が下に書いてあるだろう!」


「あーこれが城門なのか。黒く塗ってあるだけだからわからなかったぜ」


 これだ。


 物作りのない世界には当然、図面がない。


 よって方眼紙で作った設計図も、見たこともない未知のものだ。


 だから、男たちにはなかなか理解してもらえない。


「なんかわからんが、この辺掘ればいいのか?」


「おおい! 適当でやんな! マス目! ちゃんと数えて!」


 採掘場では目につくところを掘ればいいだけだったから発覚しなかった。


 こいつら、大雑把だ!


 絶対に矯正しなければならない!


 正確さが建築の命なのだ!


「マス目って言われてもなぁ、何マス掘ったか覚えとくの面倒だぞ?」


「目印置いてんだろうが!」


 ちゃんと5マスごとに仮ブロックを置いている。


 だが、俺一人ではこいつらを見ながら、仮ブロックを置いていくのは無理がある。


 仮ブロックを置くには冷静さが必要なのだ。


 一個ズレたら終わるからな。


「なんか聞いてたのより大変だなぁ」


 男の一人が不満の声を上げる。


 確かに、土台作りといっても、村をグルリと囲む設計なので、それはそれで大変だ。


 だが、働き手たちのやっている事は変わらないはずだ。


 ツルハシから今度はスコップに道具を変えてブロックを叩くだけだ。


 それを設計図通りにすればいいだけで!


「わかった! まずは直線だけ掘ろう!」


 底知れない不安を覚えた俺は代替案を提示する。


 これなら流石に大丈夫なはず。


 最悪掘りすぎても埋めればいい。


「だけど、図面を読めるようになってもらうときは必ずくるからな! そのつもりでいろよ!」


 俺が叫ぶと男どもからやる気のない返事がまばらにかえってくる。


 大丈夫か? いけるのか?


 特に不安なのが、ブロックを斜めに掘ったり、半円に見えるように建てる部分だ。


 これは慣れた建設士でも間違えやすい。


 あるあるなのは、斜めにするスタート位置を間違えること。


 何が最悪かって、しばらく気付かず見栄えも良く出来上がってきたあたりで、1マスズレていると気付くのだ。


 もう一回壊してから作り直すのは、流石に堪えるものがある。


 俺は廃ゲーマーだが、一般建築士なのだ。


 出来上がったものを躊躇なく壊して、次に行く一級建築士とは違うのだ。


「ブライトとロトンドと分業にしたのは失敗だったか……?」


 俺が後悔に苛まれていると後ろから声がかかる。


「シヤよ。捗っておるか?」


 振り向くとジジイがいた。


「捗ってねぇ。ちょっと村の教育なってないんじゃないか? 大雑把すぎるぞ?」


 俺がジジイに苦言を呈すると、ジジイは朗らかに笑いながら返す。


「はっはっは。おおらかと言ってもらいたいものだな」


 何一つ悪びれていない。


「はぁ、で? ご用事は?」


 俺が問いかけるとジジイは意外そうな顔をする。


「昨日の件の報告に決まっているだろう」


 そう言って髭を扱く。


「グリーヴァにお主の事を話したぞ」

お読みいただきまして誠にありがとうございます!


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