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第五十話「距離と、幼馴染とって話」

 

「はいはーい。きちんと並んでくださいねー」


 俺は目の前に並ぶ、一仕事終え、汗と泥に塗れて熱気を撒き散らす男どもに、昼食のスープをよそっている。


「ありがてぇ。これがまたうめぇんだ!」


 寒村の村人とは思えぬ二の腕を軋ませながら、血管の浮き出る手でスープを受け取る男。


 同じ村人なのに、何故俺はこの筋肉を持ち得ないのだろう?


 不公平ではないだろうか?


 そう思いながらも、まだかまだかとじれている男たちに、おたまでスープをよそう。


「兄貴の手作りスープは大好評だな。俺も大好物になったんだぜぇ」


 隣でパンを配っているブライトが、俺の料理を褒めてくれる。


 一人暮らし時代に自炊していた程度の、なんてことない料理だが、この世界の人間には極上の食い物に感じるだろう。


 だって、今まで食べてたのが砂の塊みたいな、栄養棒だけだったんだから。


「大兄貴の手料理の日は、みなさん大張り切りで仕事をしてまさぁ」


 これまた隣で皿の用意をしてくれているロトンドがいう。


「休み前はダレるからな。うまいものがあると思えばやる気もでるさ。な?」


「おうともさ!」


 目の前の村人に聞けば即答だ。


 やはり、休み前の昼食のスープを手作りにしたのは正解だった。


 作るのは大変だが、こんなもので士気が上がるなら安いもんだ。


 それにスープなので一気に作れる分ましだしな。


 俺は具が偏らないように鍋をかき回しながら、そんなことを考えていると、目の前に赤髪の少年が立っていた。


「おう、グリーヴァお疲れ様」


 俺の挨拶にグリーヴァの顔が仏頂面から渋面に変わる。


「気安く話かけんな」


 けんもほろろだが、負い目から疎遠になるのでは、何の進展もない。


 まずは仕事上の話だったとしても声をかけて、今の俺を見てもらわないとな。


「大盛りでいいか?」


 そう言いながら、答えを聞く前に俺は多めにスープを皿によそう。


「おい。何のつもりだ、ご機嫌取りでもしようってのか?」


 渋面から今度は怒気を孕んだ顔に変わったグリーヴァだが、俺は気にせず皿を突き出す。


「いや、育ち盛りなんだから食わないと。飯は力だぞ? 力、いるだろ?」


 俺はもう一度皿を突き出す。


 グリーヴァは俺を少し睨んだ後、スープに目を落として結局受け取る。


「……いつも飯をよこしやがるのも、そのためか?」


 スープに目を落としたままグリーヴァが呟く。


 俺が料理をグリーヴァの家に毎日届けていることを言っているのだろう。


「うん。言ったろ? 村を守るって。その為に必要なことは全部やるさ」


 ゲームでは食い物で筋肉がついたりはしないが、ここは現実でもある。


 栄養をたくさん摂った方がいいに決まってる。


 ちなみにジジイに栄養棒も合わせて食うことを厳命してある。


 舌が肥えたジジイの顔が、梅干しみたいにしかめられるのは面白かった。


「チッ。不味かったら食ってねぇところだが、仕事として受け取ってやる」


 ぶっきらぼうに言い放ち背を向けて離れていくグリーヴァ。


 言外に飯が美味いと言っているのと同じであることに気づいているのかな?


「なぁ! 料理、水より美味いだろ?!」


 俺は遠ざかる背中に問いかける。


 少しだけ止まる歩み。


 だが、答えは返ってくることなく、そのまま彼はまた歩き出す。


 この距離が今の俺と彼の距離なんだろう。


 だが、悲観はしない。


 マルールに激励してもらったからな!


 そう言えば、マルール立食パーティに来てなかったな。


 お礼もまだだし、これはご自宅に伺ってフルコースを提供しなければ!


 畜産してないからまだ肉ないけど!


 ……肉取り行くか?


「なぁ」


 ブライトとロトンドがいれば安全マージンは取れるか。


 グリーヴァがいれば100安全だったんだけどな。


「なぁってば」


 明後日の休日にいくか?


「おい!」


「なんだよ。考え事してんのに」


 俺は考え事を遮ってきた目の前の男に文句を言う。


「いや、こっちは腹すかしてスープ待ってるんだが?!」


 おっとそうだった。


 俺ちゃん給食係だった。


「すまんすまん。ちょっとだけオマケしてやるよ」


「グリーヴァは大盛りだったろ」


「大の大人が育ち盛りの子供と比べんなよ」


「こっちは働き盛りだっての」


「はいはい、わかったよ」


 俺はニンジンを気持ち多く入れてやる。


 まったく、スープって均等に配るの大変だって言うのに。


 文句言いやがって。


「なぁ」


 男っていつも食べるばっかりで、文句言ってやになっちゃう!


「なぁってば」


「今度は何だよ」


 もう、追加はやらんぞ?


「お前とグリーヴァ喧嘩してんのか?」


 心配そうな顔で聞いてくる男。


 まぁ、小さな村だ。


 みんなファミリーみたいなところあるからな。


 子供が険悪になってたら心配もするか。


「青春してんだよ。気にすんな」


 だが、俺は軽く返す。


 心配してくれるのはありがたいが、手助けしてもらえる内容でもない。


 それなら、気にしないでもらった方がいい。


 名も知らぬ村人だとしてもな。


「そうか。なら気にしねぇ事にするよ」


「おう」


 一歩下がって見守る姿勢。


 大人だね。


 その男がどいた後に続く男たちも、何だか生暖かい眼差しを向けてきた。


 ……なんか勘違いされてる気がする。


 これは前世でお局様が若い子たちに混じって恋バナしてる時の眼差しと同じだ。


 こいつら、ファムとの恋愛模様だと思ってやがるな?


「ちげぇぞ?」


 新しく並んでいる男に言う。


「うんうん。わかってるって」


 わかってないやつだ。


 うぜぇ。


「ちげぇぞ?」


「うんうん」


 変わる変わるスープを受け取る男たちに言っていくが、結局最後の奴も頷くだけだった。


 俺は不服に思いながらも、ブライトたちと自分たちの分の昼飯を用意する。


 ふふふ。


 俺たちはアイテムボックスから出した、あったか〜いスープだぜ。


 まかない的な? 給食係の特権だ。


 そんな特権階級である俺たちが飯を食っていたら、数名の男たちが近づいてきた。


 む? まさか、スープの暖かさに気づいたか?


 咄嗟にスープを脇に隠すと男たちが口を開く。


「なぁ、午後からの作業だけどよ。多分ツルハシが足りないんだよ」


 どうやら、スープじゃなかったみたいだが、どう言うことだ?


 ツルハシは少しバッファをもうけて作ってあるはずだが?


 俺が疑問に思って聞いてみると、男が答える。


「なんか、すげぇ硬い石があんだよ。それを叩いてるとすぐ壊れちまうんだ」


 あぁ! しまった!


 そうだ、この山は真っ白い石の他に化石木という、ただ硬いだけで、見た目も悪く建築の役にも立たない、整地を邪魔するだけのブロックがあるんだった!


 存在を忘れていたわけではないが、叩く回数の事を失念していた。


「結構足りない感じ?」


「アイツを避けて作業するなら問題ないけど、結局はどけるんだろ?」


 むぅう。


 実際には放置してもいい。


 使わないから。


 だがっ。平じゃないのは整地じゃない!


 いや、今回の目的は整地じゃないけど、それでも嫌だ!


 そうだ、もしかしたらここに何か建てるかもしれないし。


 うん。じゃあ退けなきゃダメだ。


 俺は真理を得たところで男に返事する。


「ああ、どける。石ツルハシは用意しとくよ」


「おう。頼むわ。てかどっから手に入れてんだ?」


 男が不思議そうにするが、言ってもわからんからね。


「企業秘密だよ」


 俺は立ち上がってその場を後にする。


 食べ終わった皿をアイテムボックスにしまいながら、作業台を置けそうな場所を吟味する。


 住民に見られて万が一触られでもしたら事だからな。


 俺は周りを見つつしばらく歩くが、なんだかんだ人通りがある。


 採掘は別に強制じゃないので、午前中だけで帰るやつとかもいるのだ。


「うーん。家に帰った方が安全か」


 俺はもっとも安全な方法を選ぶ。


 ぱやぱやの桃を食べて移動速度を上げると一気に自宅へ戻る。


「ぜぇ、ぜぇ」


 なんでシヤすぐ息が切れてしまうん?


 俺は全身で息をしながら作業台を出す。


 さっさと作って現場に戻らなくては。


「はひー、はひー」


 いくつかツルハシを作ったが、全然息が整わない。


 水だ、水を飲まにゃダメだ。


 俺の足は家の奥の水の入った壺に吸い寄せられるように進んでいく。


 コップを突っ込んで!


 一気飲み!


「ぷはー! これこれー!」


 喉が潤うぜ!


 でも本当はビールが飲みたいぜ!


 ビルダーズブレイブにビールないんだよなぁ。


 いや、待てよ?


 ないなら作ればいいんじゃね?


 確か酵母がうんたらかんたら___


 そこで、木が擦れるような音が後ろからした。


 振り返るとファムがドアを開けて立っていた。


 手には洗濯物を持っている。


 洗って届けに来てくれたのだろう。


 だが___タイミングが悪い!


「なにこれ?」


 案の定、近くにあった作業台に触れようとする。


「触るなっ!!」


 びくりと体を跳ねさせて飛び退くファム。


 俺は叫びながらファムと作業台の間に体を滑り込ませる。


「あの……洗濯物……」


 不安そうな顔で呟くようにファムが言う。


「あぁ、いつもありがとう。助かるよ」


「その……ご、ごめんなさい……わか……わからなくって」


 だんだんと声が震えて、目に涙がたまり出すファム。


 その顔に怯えのようなものを見つけて、自分がどんな顔をしているか気づく。


 警戒をあらわにした今の俺の顔は、目の前の少女には激怒しているように見えるだろう。


「いや、僕こそ怒鳴ったりしてごめんよ。ちょっと危ない物だったから」


 俺は急いで笑顔を浮かべて少女を安心させようとする。


「……やっぱり、シヤ……っ」


 少女は何かを言いかけたが、言葉は嗚咽に変わり出てこない。


 ファムは洗濯物を俺に押し付けると、走って家を出ていく。


 俺が不注意だった。


 なのにそのうえ怒鳴って、少女を泣かしてしまった。


 これは早々に謝らなければ!


 俺は洗濯物をテーブルに置くと、作業台を回収して家を飛び出す。


 周りを見渡すがすでにファムの姿はない。


 前も思ったけど、どんだけ足が速いんだよあの娘!


 とりあえず、俺はファムの家に向かって走り出すのだった。


お読みいただきまして誠にありがとうございます!


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