第四十六話「ズレと、違いと、安全とって話」
「これで〜、完成!」
俺は城門の最後のブロックとなる、尖塔の一番上にブロックを置いて宣言する。
これで、城門の完成だ。
まぁ、城門て言っているだけで実際には、城門に見える建物ってだけなのだが。
城門と言った方がかっこいいから、城門でいいのだ。
「さて、降りるか……」
俺は足場にしているブロックの脇から地上を見下ろす。
「怖えぇ……」
リアルで見ると20ブロックの高さは恐怖でしかない。
ここから落ちて即死しない勇者の肉体はどうなっているのか……。
俺はガクガクと震える膝を宥めながら、足場のブロックを壊しつつ地上を目指す。
もっとも気をつけなくてはならないのは、足元のブロックを壊すことだ。
隣のブロックを壊しているつもりで、真下を壊して落下するのはサンドボックスあるあるすぎる。
ゲームならダメージですむが、多分俺は死ぬ。
「ふいぃ〜。怖かったぁ」
俺は地面のありがたさを噛み締めつつ、その場に座り込む。
「兄貴、お疲れ様なんだぜぇ」
ブライトが俺に手拭いを渡してくる。
見れば手汗や脇汗でビショビショだ。
「ありがとう。しかし、努力の甲斐あって中々の出来に仕上がったな」
俺は城門を見上げながら言う。
白の大理石を思わせる質感と光沢のブロックが神聖さをかっこよく演出している。
ドーリア調の柱を等間隔に立てることで立体感を出しつつ、奥行きをもたらした。
一番目を引くのは入り口の真上に設置した女神像。
村に入ろうとすると、女神像がこちらを見下ろす形になっており、実際より城門を高く見せている。
ゲームで作ったなら物足りなさを感じただろうが、実物で見ると圧巻の一言。
「作って正解だったろ?」
俺はブライトにどうだと問いかける。
「まぁ、兄貴が言った通りかっこいいのは認めるぜぇ」
「これなら女神様も満足してくださるんでさぁ」
ブライトは苦笑いで、ロトンドは笑顔で応える。
「あぁ、我が村に女神様がおいでくださった。我が村は女神様に祝福されたのだ」
ずーっと一人でブツクサ言いながら平伏しているジジイ。
いっときは正気を取り戻し建築を手伝ってくれたが、完成された城門を見るや、また狂信者モードに戻ってしまった。
こうなったらしばらくどうにもならないので放っておこう。
「しかし、高所での作業は気をつけなきゃならないな。足場のブロックはあえて何度か叩かないと壊れないブロックにしよう」
俺は二人を振り返りながら提案する。
ゲームで足場といえば一回叩けば壊れるブロックで組むのが当たり前だが、この世界だと危なすぎるので、これは厳密にルール化しておこう。
「了解だぜぇ。今後の建築ルールの一つとして控えておくぜぇ」
ブライトが紙を取り出しながらメモを取る。
今回実際に建築してみてわかった事を書き留めておいてもらっているのだ。
記念すべき一行目は、しゃがんでいてもブロックから落ちるだ。
しゃがんでいれば、ブロックから足を踏み外すことはないと思っていた俺の尻の痛みと引き換えに刻まれた一行だ。
永劫に残しておきたい。
「大兄貴ぃ。ちょいと無粋なことを聞くようで申し訳ねぇんですが、聞いてもいいんでさぁ?」
ロトンドが申し訳なさそうに聞いてくる。
なんだろう? 俺はロトンドに先を促す。
「実際に完成したのを見たからか、この部分が気になるんでさぁ」
ロトンドは柱と柱の間の壁に取り付けた、木の窓を指差しながら言ってくる。
中々鋭い意見だ。
ロトンドには建築家の才能もあるに違いない。
「あぁ、そこは本当ならステンドグラスをはめ込みたいんだが、現状手に入れられないので、木の窓をつけたんだ。俺らはこれを『見立て』と呼ぶ」
俺は茶色の朴訥な木の窓を触りながらロトンドに説明する。
「見立て……でさぁ?」
ロトンドが首を傾げる。
「うむ。我々建築家は作りたい建築物に合う素材がない場合、他の素材で代用することで、そう見えるように工夫するのだ。この代わりの素材を何でどう表現するかも一級建築士の腕の見せ所だ」
この城門の塔の屋根も石の階段で屋根を表現している。
「ははぁ、奥が深いんでさぁ」
「うむ。深いのだ」
いつか、皆も新しい素材を見つけるたびにあそこに使えるんじゃないか? と思うようになるだろう。
ふふふ。皆で語らうのが楽しみだ。
「兄貴。これで村の門はできたんだぜぇ?」
ブライトの言葉で俺は思い出す。
そうそう、このままだとただの素晴らしい建築物のままになってしまう。
ちゃんと、村の門としての機能をつけないとね。
「真の完成はこいつを設置してからだった」
俺はどかしておいた木の門を叩いてアイテム化する。
こいつを設置して本当の完成だ。
「よし、これをここに設置して……」
俺は入り口に木の門を設置して血の気が引くのを感じた。
もう一度木の門を叩いて左に1マス横にずらす。
もう一回右にずらす。
「………………」
俺は木の門の左側のマスを数える。
「1、2、3」
右側のマスを数える。
「1、2、3、4」
「なんか、バランスが悪いんでさぁ」
「ぎゃああああああああああ!!」
ロトンドの致命の一言に俺は地面をのたうち回る。
「木の門3マスだぁ! あぁあああ! 偶数で入り口作ったぁ!」
真ん中に置けない! 真ん中に置けないぃ!
「こっちに置いたら、こっちが狭いの! こっちに置いたら、こっちが広いの!」
俺は何度も木の門を置き直しては、現実に抗う。
「うわぁあ! この俺が! こんな初歩的なミスを?!」
門を設置するたびにうろちょろする門番を蹴り飛ばし、俺は怒りとも焦りともいえない独特の思いを乗せて絶叫する。
「あ、兄貴? 落ち着くんだぜぇ?」
ブライトが宥めてくるが、お前にはわかるまい!
この、1マス間違えた建築を終えたゲーマーの気持ちが!
「木の門を置かないと、門として機能しないの! このかっこいい城門は、ただのかっこいい穴の空いた壁になっちゃうの! ……壊すしか、壊すしかないぃ!」
せっかく苦労して作った、この世界初の建造物を壊すのは断腸の思いだが、1マスズレてるのは、矜持が許さない。
「まてぇい!」
俺がスコップで壁を破壊しようと振りかぶったところで、後ろから待ったがかかる。
「ジジイ!」
先程まで女神像を拝み倒して、体の前面が土だらけのジジイがそこにはいた。
「話は聞かせてもらった! シヤよ、この建築を壊す必要はない!」
謎の迫力を持って断言するジジイは勇者を導く賢者のようにも見えた。
「ワシも人生ゲームをマスターした男。ゲームについては多少わかるようになってきた!」
いや、お前最下位以外取ったことないだろ。逆に才能だよ?
だが、言っていることはともかく、その自信には興味を惹かれる何かがある。
俺はジジイの言葉に耳を傾ける。
「木の門がなければ門の役目を果たせないなら、果たさなければ良い! 横に壁を作って本当の入り口はそちらにすれば問題はない!
……
…………
…………
「お前天才か?」
確かに、大きな城門の横には、実際に人が出入りする小さな入り口があるもの。
そこを村の門で作れば、見た目も変わらないし、見立て的にもいい。
まさに一石二鳥……っ!
「ジジイ、建築知識のないお前が、なぜそんな発想を思いついた!」
俺はジジイに指を突きつけ糾弾する。
「ふ、知れたことよ。この城門を壊すということは、また女神様を叩いて壊すということ、それを許さぬワシの信仰心に天啓が降りてきたのだ!」
逆に俺に指を突きつけ不敵に笑うジジイ。
「くっ。俺の建築士としての魂が信仰心に負けたと言うのか……」
謎の敗北感に思わず膝をつく俺。
「なんか、テンション高いんだぜぇ」
「なんだかんだ、完成までこぎつけたのが嬉しいってことでさぁ」
おい。見透かすのやめろよ。
はしゃいでいたのが恥ずかしいじゃないか。
「んっ!んん。それじゃあ、これを村のみんなに見せて、問題がないか、異常がないかを確認した後、協力者を募ろう」
俺は咳払いをしつつ、膝の土を払いながら立ち上がる。
「そしたら、まずは防壁作りだな」
「でもよ兄貴。神殿の壁はもうないぜぇ? 流石に土ブロックじゃねぇだろぉ?」
「ふむ。ブライトもわかってきたようだな。当然そんな美しくないことはしない」
「だったら、どうするんだぜぇ? 神殿の壁はもう手に入らないんだろぉ?」
その通り、同じ壁は作れない。
だが、ないなら見立てればいいのさ。
「神殿の壁は手に入らないので、似た色をしたブロックで代用する」
「……この辺では見たことがないんでさぁ」
ロトンドが思い出すようにいう。
さもありなん。普通じゃ見つからないだろう。
「あっちの山肌を3マス削ると、真っ白い石というブロックが出てくるのでそれを使います」
俺は村の西側にある小さな山を指差しながら言う。
「あの山を……削る?」
ブライトが一歩下がる。
「真っ白い石は、かっこいい建築によく使うので、あの山は平らにします」
「山を……平らに? ……でさぁ」
ロトンドが二歩下がる。
「大丈夫全部で3000ブロックぐらいだよ。村人にも手伝って貰えばあっという間さ」
大丈夫今回は単純作業じゃない。
真っ白い石以外のブロックも混じってるからな、味変が楽しめる。
この世界の人間にも優しい作業だ。
なにより上から順番に全部更地にしないと、落下が怖いからな。
安全第一!
「何も問題なし!」
俺は宣言するとブライトとロトンドの襟首を掴んで、人数分のピッケルを作りに自宅へと戻るのであった。




