第四十四話「壊して、思い出して、戻ってくるって話」
「よし、まずはこの畑を全部撤去する」
俺は他の三人と共に村はずれの畑まで来ていた。
ジジイが無駄に広く耕したため、色々な野菜が実りに実っている。
「む、せっかくの畑を無くしてしまうのか?」
念のため少し畑から離れさせていた、ジジイが残念そうに声を上げる。
「出来るだけ、条件を同じにするのは検証の基本だぜ?」
俺はアイテムボックスから野菜を刈り取る用のカマを取り出し、ブライトとロトンドに渡す。
当然ジジイはステイだ。野菜を収穫する間眺めていてもらう。
「こう見ると色々な野菜があるんだと感心するぜぇ」
ブライトがニンジンをカマで刈り取りながら言ってくる。
改めて見てもカマで草部分を刈るとニンジンが出現するのは意味がわからんな。
前世でも同じ事ができれば農家の皆さんは大層楽ができただろうに。
「さて、あらかた野菜も収穫したし、今度は畑を土ブロックに戻す」
俺はいつものスコップを取り出し、二人には木でできたスコップを渡し端から畑を突く。
畑は破壊され土ブロックになるので、地面は一段下がる。
「あぁ、整地って心が落ち着くよなぁ……」
平らになるのがいいんだよ。
意味なく整地して後でブロックを積み直すことになっても、整地は正義だ。
「これで心が落ち着く兄貴はやっぱり、違うんだと改めて思うぜぇ」
「でさぁ」
ちょっと離れているところで作業してる二人だが、聞こえているからな。
まぁ、二人にサンドボックスの正義を理解させるのは酷か。
いつか分かるようにしてやりたいな。
「次は土ブロックを戻しまーす」
畑を全て破壊した後、俺はブロックを手に持ち宣言し、地面にブロックを置いていく。
あぁ、ブロックって並べてるだけでもいいなぁ。
ブロックを置く。
穴が埋まる。
ブロックを置く。
穴が埋まる。
最近深刻な事ばっかり考えてたから、純粋なプレイは清涼剤として最高だ。
「やっぱちげぇなぁ」
「でさぁ」
ふふ。お前達も建築を始めればブロックを並べる喜びに目覚めるさ。
「さて、ここで実験するのは、人形化が『くらしのかたち』が原因なのかどうかだ」
「うむ。ワシの出番だな!」
ジジイが腕まくりして嬉しそうに言ってくる。
……人形化を特技かなにかと勘違いしているんじゃないか?
リスクがあるかもしれないから俺はこんなに悩んでるんだが?
「ジジイ。一応危険な実験なんだからな?」
俺はジジイを嗜めるが、ジジイはなおも嬉しそうに言ってくる。
「ワシが人形化するのは、ゲームのルールなのであろう? ならば戻るのもルールであろうよ。問題ない」
ゲームを理解したつもりのジジイは得意げに胸を張る。
「いや、ルールにない現象だから危ないって話してんだよ」
「はっはっは! お主はゲームのルールは全部知っておるだろうが、この世界のルールを全て知っておるわけではあるまい。ゆえに検証するのだろう? その検証の主役はワシ! 単独トップ!」
だめだ、ジジイは人生ゲームに脳を侵されている。
俺はジジイの発言は無視して説明を開始する。
「まず、農家のくらしが発動する条件を説明するぞ?」
俺は改めてクワを取り出し地面を耕す。
「まず、今この畑になった四角い部分を1マスという。今後重要になってくる概念だから覚えておいてくれ。1ブロックが一マスだ」
そのまま6マス耕し三人の方を振り返る。
「これで6マスの畑ができたわけだが、ここに農具をおいても『農家のくらし』にはならない」
俺の推測が正しければ、この状態でジジイにクワを持たせても人形化しないはずだ。
「つまり、ワシが人形化しないと言う事だな!」
ジジイはいいながら俺からクワを奪い取り畑の上に立つ。
「お、おい!」
「みろ! 人形化しておらぬぞ!」
ジジイが得意げに言う。
「……クワは危ないから、水桶にしろ」
水桶とクワを交換した俺は、クワを土に突き立てる。
「二人ともジジイを見ていてくれ」
そして、俺が8マス目を畑にした時にブライトが素早く動く。
振り向けばジジイから水桶を取り上げながら、水をぶちまけるブライトの姿があった。
「人形化したぜぇ」
8マスの畑と農具。農家のくらしのエリアの完成条件だ。
ジジイの方を見るとすでに正気に戻っており、真剣な表情で口を開く。
「シヤよ。自分が人形化した瞬間を認識できたぞ。お主が地面を畑にした瞬間で間違いない。そこで意識が途切れた」
「やはりそうか。くらしのかたちが人形化に関係してるのは、ほぼ確定と言って良さそうだが……」
絶対と言えないのがもどかしい。
答えはそこにあるのに手が伸ばせない感じだ。
俺は苛立ちをぶつけるように、畑にスコップを叩きつけ土ブロックに戻す。
「なぁ、兄貴。この『くらしのかたち』ってのはゲームのルールなんだよな?」
ブライトが畑を見ながら思案顔で聞いてくる。
「あぁ、そうだが?」
「人形化するのもゲームのルールなのかい?」
ブライトがジジイと同じようなことを聞いてくる。
「いや、だからゲームのルールと違う挙動なんだって。バグっていって、ゲームを作った奴が意図してない動きなんだ」
「兄貴が知らないバグなんだな?」
「……そうだな」
ブライトは俺の顔を見て言ってくる。
彼が俺に何をいいたいのか考えながら俺はそれを聞く。
「俺たちは俺たちの世界のことしかわからねぇ。だから、分かることを言わせてもらう。俺たちが生きてきた中で人形化した奴なんかいなかったよ」
「そりゃ、バグ使ったりシーケンスブレイクする奴がいなかったからだろ」
俺が余計なことしなきゃ、何も起こらないだろう。
その代わりこの村は滅ぶが。
「俺たちはバグとやらをみた事がねぇよ」
「そりゃ、何にもしてないのにバグってたら、クソゲーオブイヤーにノミネートされちゃうから、普通はバグなんかでないよ」
開発陣だって命削ってデバッグしてるんだ。
そうそうバグなんて……。
いや、それでもあるんだけどな。
「なぁ、兄貴。多分あんたは俺たちのことを気遣いすぎて、考えがごっちゃになってんだよ」
ブライトは自分のドックタグを俺に見せながらいう。
「バグが発生するってことは、ゲームの駒だって証拠だろ」
俺はブライトの口から出た言葉に動揺し、否定の言葉を出そうとする。
しかしブライトは俺の胸に指を突きつけながら有無を言わさない。
「あんたの優しさはいいところだぜぇ? だけどよ、今は俺たちをゲームの駒だと思って考えてみなよ。|この世界がゲームだと考えたら、見えてくる事があるんじゃねぇか?」
他でもないNPCからの言葉に俺は頭を殴られたかのような衝撃を受ける。
それと同時にぐちゃぐちゃだった考えが一つ一つ浮かんでくる。
「この世界……ゲーム。ビルダーズブレイブ。バグ……。プログラム」
彼の発言はいつだって俺の進む道を示してくれる。
この世界の住民は人間だから、人格があるから、特別な反応が起こっていると思い込んでいた。
だから、この世界の法則を見つけて安全策を探していた。
___ちげぇだろ。
まずは、ゲーマーとして開発陣と勝負だろ。
俺はブライトの胸を拳で軽く叩き歩き回る。
現在俺は今オープニング前をプレイしてる。
開発陣はまさかそんな奴のことは想定していない。
だから、容量を軽くするためにこの村に無駄なプログラムは組んでない。
断言できる。
そんなのに容量を割くなら、ビルダーズブレイブの開発陣は一つでも多くのアイテムを作る。
じゃあ、今動いてる正常なプログラムはなんだ?
物作り。くらしのかたち。農業。
根幹となるシステムは生きてる。
オープニング前から用意されてないとゲームが始まったと同時に一気に負荷がかかるから。
じゃあ、人形化はなんのプログラムが悪さしてる?
くらしのかたちだ。
くらしのかたちが住人に作業させるというプログラムだ。
ブライト達とジジイの違いはオープニング後に生きているかどうかだと以前推測した。
なら、それがどんなプログラムの違いをうむ?
「そうか……」
ここの住民はプログラムが完全じゃないんだ。
普通のNPCが処理する行動ルーチンが、ここの住民には埋め込まれてないとしたら。
例えば、プログラムからの農業をしろという強制をプログラムが受け取っても、終了条件が組み込まれてなかったら?
強制停止するか、ループするかだ。
ゲームでもイベントを飛ばすことで同じセリフしか言わなくなるNPCがいる。
そして逆にオープニング襲撃終了後も生き残ってる、行く末案ジジイや門番はプログラムに介入しても自動でルーチンが完結する。
つまり役目に引っ張られるんじゃない、通常のNPCとしての行動が完結できないから人形化するんだ。
作業台を触ると発生する理由は、物作りができるようになるから。
プログラムが指令できるフラグが立つからだ。
人形化が起こるのは、この村の住民だからが理由じゃない。
ゲームでちゃんとプログラムが組まれてないからだ。
ビルダーズブレイブの開発陣ならそうする。
開発陣の名前とプロフィールを全員分言える俺なら断言できる。
そして俺は今開発陣の想定外にいる。
なんのことはない。
俺は既に。
とっくの昔に超大型シーケンスブレイクの真っ最中だったわけだ。
じゃあ、この不具合も俺の得意分野だ。
「とりま、城壁でも作るか?」
俺は建築したくなったのでそう呟く。
俺はビルダーズブレイバー廃人だからな。
作らせてもらうとしよう。




