四十三話「ゲームはどうなるかわからないって話」
「もう、言葉にならぬほど大好評だったぞ!」
立食パーティーの翌日、俺はブライトたちと一緒にジジイの家に来ていた。
俺たちが座るや否や、ジジイは鼻息荒く大興奮でこちらに詰め寄ってくる。
キモいから戻って欲しい。
「村人たちも次はいつかなどと、気の早いものもいる始末! これはもはや恒例行事として、年に一回、いや二回はやらねばな。そう例えば、野菜炒め祭りなどどうだろうか?!」
手柄独り占めしてんじゃねぇよ。
パンもスープも出してんだよ。
俺はジジイを蹴り戻しながら、料理が好評だったこと自体は良かったと思った。
しかし、思考はずっと別のことを考えている。
「む。シヤよ目が真っ赤ではないか。調子でも悪いのか?」
ジジイが座り直しながら、聞いてくる。
調子は悪いどころか、高速大回転中だ。
「兄貴は一睡もしないで、一晩ずっと深ぇ思案にくれておられました」
ブライトがジジイに説明する。
「ブライト殿。もはやワシらは仲間であろう。そのように固い話し方ではなく、同等に扱ってはくれまいか?」
「いや、しかし……わかりやした。これからは普通に話させてもらうぜぇ」
「ロトンド殿もお願いできるかな?」
「光栄でさぁ。こちらこそよろしくお願いしたいんでさぁ」
それぞれがお互いをリスペクトしていることがわかる会話が聞こえてくる。
大きなイベントを終えて、ますますの結束を見せる我がチーム。
喜ばしい限りだ。
「シヤよ次回は、どんな料理を作らせてくれるのだ? 他にもまだまだあるのだろう? わかっておるぞ、お前が一気に知識を放出するものではないことはな」
ジジイが、もう次のことを考えている。
気の早いことだ。
「むぅ? シヤよ本当に大丈夫か? 先ほどから一言も喋らぬが」
ジジイが心配そうな顔をしている。
イベントが大成功した余韻に水を差すのは無粋と思い黙っていたが、一通り盛り上がったのならもういいだろう。
「光明が見つかったかもしれん」
俺が一言そういえば、ジジイは村長の顔になる。
ブライトとロトンドは、俺の後ろから横に座り直し車座になる。
「人形化が解決できそうということか?」
ジジイが探るように、いや注意深く聞いてくる。
「いや、人形化はまだ解決出来ていない」
「……では、なんの光明だというのだ?」
ジジイは当然の疑問を口にする。
「この村の防衛を村人に手伝ってもらえる可能性を発見した」
ジジイは目を細め少し訝しげにした後、言ってくる。
「……お主のことだ、ただの可能性だけでは、そこまで思案するまい。聞かせてくれ、その光明とやらを」
「あぁ、俺が見つけたこの世界の穴。グリッチを伝えよう」
俺は三人を見渡し、昨日起こったことを伝えた。
三人は俺が説明している間一言も発することなく、各々で考えている様だった。
「……つまり、子供は作業台を触っていないのに、お家を作った。物作りをしたということかい?」
最初に口を開いたのはブライトだった。
聡明な彼はすぐに俺の言わんとしていることをわかってくれたようだ。
「しかも、物作りをしても人形化せなんだと。料理をしたワシと同じように」
ジジイも続けて言う。
こちらに聞くと言うより、考えをまとめるための独り言のようだ。
「俺が見ていた範囲で、おかしな行動をしていた住民はいなかったんでさぁ」
ロトンドが、追加情報をくれる。
あの忙しさの中で、広場を観察していたのか?
俺はまだロトンドを侮っていた様だな。
これで、少なくともあの場で観測できる異変はなかったとわかった。
「しかし、それは作業台を住民に触らせれば同じことではないか?」
ジジイが確認する様にいう。
「当然、ジジイもそのリスクはわかっているな? 作業台に触らせることは人形化のリスクが上がる」
だからこそ、今回の事が光明となり得る。
「先に俺が考えた結論を伝えようとおもう。物作りと認識できないようにするだけで、住民に物作りをさせることができる可能性が高い」
これが俺の仮説、この世界の理、システムの穴、グリッチだ。
「その仮説が正しいのであれば、確かに住民に手伝ってもらえるであろうな」
ジジイが、一つ頷くがすぐにギロリとこちらを睨む。
「だが、解せぬ。お主が机上の仮説だけで事を進めようとするはずがない。なにか説明していない事があるな? 決定的な違いをお主は見つけているのであろう」
村長モードのジジイは実に鋭い。
そう、とうとうその時がきた。
もはや俺だけでは管理できないし、決めることもできない。
だから、俺の正体を伝える時が来たのだ。
俺は、急に緊張に乾いた喉を唾で湿らせ、唇を舐める。
一瞬グリーヴァの顔が浮かんだが、首を振りそれを追い払う。
「……信じられないかもしれないが、俺はこの世界の人間じゃない」
俺の告白に三人は微動だにせず、真剣な顔で沈黙している。
やはり、受け入れてもらえないか……
俺がそう思ったとき、ブライトがおずおずと口を開く。
「あ、兄貴? 今更そんなこと重大なことみたいに言われても、困るんだぜぇ?」
「う、うむ。ものすごく深刻な顔をするから、どれほどの話かと思ったわ」
「でさぁ」
……ん?
「え、みんなと違う人間なんだよ? なんかないの? こう……気味が悪いとか」
思ったリアクションと違うものが返ってきた。
どういうこと?
「いや、ワシは使徒様だと思っとるし、使徒様この世界の人間ではないし」
「俺たちも村長が使徒様だって言ってるの聞いているし、今までのことも納得いくなぁとしか思わないぜぇ?」
ああ、そうか使徒様か確かに使徒様は違う世界の人間……なのか?
「違う違う、おれはここじゃない世界の一般人だったんだ。この世界でいうただの村人だな」
「一般……人?」
今日一訝しげな顔が返ってきた。
「ええい! そこは大事じゃないんだ! 大事なのは俺の世界でこの世界はゲームとして存在していたってことなんだ!」
勢いに任せて大声で言い切る。
自分たちが作られた存在だと知った彼らは一体どう思うのか。
恐る恐る顔色をうかがうと、一様にハテナ顔。
「げぇーむとはなんだ?」
おう、そうですねゲームわかんないですよね。
「あー、ゲームっていうのはぁ、物語の登場人物を自分で動かす遊び?」
「人形遊びってことかい?」
ブライトがピンときてない顔で言ってくる。
「そうじゃなくて、自分でできないことを代わりにやってもらうというか」
「何が面白いんでさぁ?」
ロトンドがピンときてない顔で言ってくる。
「絶対にできない事をやってもらうから面白いというか」
「応援するということか?」
ジジイがピンときてない顔で言ってくる。
「いや、しらねぇよ! ゲーム知らないやつにゲーム説明なんてできるか! そんなの接客でもしたことないわ!」
「うわぁ! 突然叫ぶのではない!」
ジジイが後ろにひっくり返るのを横目に俺は決めた。
「よしわかった! ダラダラ説明する前に実行だ!」
俺はアイテムボックスから使えそうなものをダバダバ取り出す。
アーエスト名物の鉛筆が今回は活躍するぜ!
「うおりゃぁあああああ!」
俺は紙にマス目を書いたり、爪楊枝を細工したり、鉛筆の後ろを削って数字を書いたり、色々細工をしていく。
「おっしゃ出来た! 刮目せよこれが、日本の誇るボードゲームの最高峰、人生ゲームだ!」
まばらに聞こえる拍手。
「徹夜の俺が頑張ったんだから、もっと大きな拍手!」
ちょっと大きめな拍手。
「そんなことより、今からお前たちには人生を遊んでもらいます」
一同が首を捻る中、俺は人生ゲームのルールを説明する。
一周目はチュートリアルということで、ゆるくアドバイスをしながら。
そして二周目からはガチで。
幸いにして三人とも頭が回るので、すぐ飲み込んでそして、ゲームに飲み込まれていった。
「数字の出目の期待値から考えると、ここは右の道が良さそうだぜぇ」
「ここで転職するのはリスクが大きすぎるんでさぁ」
「株だ! 株は資産を増やす近道だ!」
三者三様、らしいプレイスタイルで楽しんでくれているようだ。
俺は製作者の特権で、高確率で勝てるルートを選んでる。
「よし! 俺の勝ちだぜぇ!」
「三位ならまぁ、いいんでさぁ」
「なぜだ?! なぜワシの株が紙切れに?!」
いい大人が四人集まって熱心に真剣に遊んでいる。
ふふ、この世界でもゲームの魅力は変わらないのだ。
「次だ! 次こそはワシが単独一位を頂かせてもらう!」
ジジイが興奮しながら、コマや紙幣を片付けながら配り直そうとするのをチョップで止める。
「まてい。目的を失うんじゃない」
「目的とな?」
不思議そうな顔をしながらイベントカードをシャッフルするな。
「ゲームだよ。ゲーム。これが俺の言ったゲームだ」
「はっ! そうであったゲームの説明であったな」
ジジイは今思い出したという顔をする。
どんだけ気に入ったんだよ。
「……俺たちのやったのがゲームで、この盤面がこのゲームの世界。この駒が登場人物で、このイベントカードがこれから起こること、職業カードが役目、サイコロを振って駒を進めて何かをしなくてはならないのがルール。このゲームの世界の理だ」
一つ一つ俺は指差しながら丁寧にこの世界に照らし合わせて説明する。
今度こそ深い沈黙に当たりが包まれる。
各々自分なりに消化しているのかもしれない。
「お前たちが納得できるかどうかは、俺にはわからない。だから俺は事実を話す。そこから導き出される仮説も」
三人が俺に注目する中、俺がビルダーズブレイブの廃プレイヤーであること、ゲームとしてのビルダーズブレイブのほぼ全てを知っていること。
この世界にはビルダーズブレイブに出てくる人物が存在すること。
この世界の過去に起こった事が俺の知るものと同じであること。
ただし、この世界がゲームではない事。
思いつく限りのことを語った。
きちんと順序立てて話せていなかったが、三人は黙って聞いてくれていた。
「それで……。そんな感じだ」
もう、話すことがなくなって三人の反応を待つ。
「シヤよ。ワシの私的な質問だが、ひとつ教えてくれぬか?」
ジジイが俺の目を見ながら聞いてくる。
俺は首肯する。
「いわば、何も関係ないお主が何故この村を守ろうとする?」
最初はシーケンスブレイクのため、建築可能エリアにするため。
だが今は___
「好きだからじゃね?」
素直にそう思うよ。
「ふむ。では、先ほどの発言は訂正しよう。お主は関係ない人間ではない。この村の住民だ。改めてようこそ。ここはホロンダ村だ。今後ともよろしく」
俺は最初ジジイの言ったことがわからなかったが、ジワジワと理解が追いつくにつれ顔がにやける。
「言っとくけど、俺が女神とやりとりできるのは嘘じゃないからな。特別扱いしろよ?」
「おお、これは失礼いたしました使徒様。次の人生ゲームでは手加減しましょうぞ」
ニヤリと笑うジジイ。
手加減も何もドベだだろうが。
「さて、ちょっと遊びすぎたり説明したりと、遠回りしたが、本題は次だこれをお前たちにも念頭に考えてもらいたい」
俺が姿勢を正し三人に言うと、三人も佇まいを正す。
「ビルダーズブレイブには、『ひとそろい』『くらしのかたち』というシステムがある」
俺はアイテムボックスから紙を出して、そこに畑とデカデカとかく。
「これだけならただの畑。ここにクワや農具を置くと『農家のくらし』というエリアになる。特定の場所とアイテムの組み合わせでできるのが『くらしのかたち』だ」
俺は紙にクワや桶を描きたし、そこに人間を書き込む。
「今回の人形化は『農家のくらし』の空間に入って農具を持ったから起こったことだと思ってる。絶対じゃないが、それしか思いつかないんだよ」
グリグリと農家の部分に丸を何重にも重ねて強調する。
「……ひとそろいってのは、なんだい?」
今まで黙っていたブライトが口を開く。
「例えば、調理器具一式をキッチン台に置いて、手拭いを壁にかけて壺を二個置けば調理場になる。アイテムだけで作る小さな、くらしのかたちみたいなものだな」
「ってことは、そいつにも役目が関わってるってことかい?」
さすがブライト鋭い。
「ああ多分、全部揃えて、包丁を持たせたら役目が料理人になって人形化する」
「……やはりなにが、人形化の引き金になるのかわからねぇのは、厄介だな」
ブライトは腕を組みながら唸る。
「何のために俺の正体を話したと思ってんだ。言ったろ俺はビルダーズブレイブを全部知ってるって」
ブライトは片方の眉を上げて怪訝な顔をする。
「この村から全ての『くらしのかたち』と『ひとそろい』を徹底的に排除して、役目に関わるものをなくした上で、本人達が認識しないでもいつの間にか建築できている。これが俺の計画だ」
昨晩思い出したんだよ。
俺が最初この世界に来た時に、原木ブロックを持ってた村人がいたんだよ。
あれ、なんかに使ったってことだろ?
やっぱり本人が認識してないだけで物作りしてたんじゃないかってさ。
「俺だけじゃ無理だからな、お前達にも覚えてもらうぞ」
なぁに、200組みくらいさ大した数じゃない。
ちょっと、引き攣った顔をした三人に俺は頭を下げる。
「もうこれ以上は俺の知識だけじゃ無理だ。お前達の力を貸してくれ」
頭を下げた俺の肩に手が三つ置かれる。
「検証かい? 実験かい?」
「観察なら任せてほしんでさぁ」
「人形化なら任せろ。そろそろ克服できそうだがな!」
俺は頭を上げると宣言する。
「んじゃ、因縁の畑から攻略するかね」
一人一人にハイタッチして俺は次の段階にやっと進んだと実感した。




