第四十二話「開始の合図と、与えてもらうって話」
「それでは豪華立食パーティーを開始する!」
ジジイが住民全員に行き届く大声で宣言する。
宣言と共に広場に集まった住民から大きな拍手が上がる。
どの顔にも笑顔が浮かんでいる。
なんといっても、料理を食べられるとなれば、人生で数えるほどの機会。
それもタダとなればボルテージも振り切ろうというものだ。
「お父さん、りっしょくパーティってなぁに?」
「父さんも聞いたことがあるだけで、実際に見たことはないが、なんでも料理をたくさん食べるパーティらしい」
そばの親子がそんな会話をしている。
子供は不思議そうな顔をしているが、父親は鼻息荒く並ぶ屋台をガン見している。
周りを見渡せば、目を血走らせている大人たちと、ただ雰囲気を楽しんでいる子供が対照的だ。
すでに、ウケモチノカミの周りでかけっこをしている子供もいれば、用意されたテーブルに着き風車で遊んでいる子供もいる。
うむ。みんな風車を気に入ってくれているようだ。
全員に配った甲斐があるというものだ。
「そもそも、料理やその他のドロップアイテムというのは、女神様の___」
ジジイが校長先生よろしく長い演説を打っている。
それを聞きながら、住民がジリジリとお互いを牽制しつつ、屋台へとにじり寄っている。
……初動を間違えたら暴動が起こるかも。
俺は急いでブライトの屋台へと走る。
「おい、ブライト最初に出しておくパンの数倍にしておけ。やばそうだ」
俺は革の前掛けをエプロンの代わりにしたブライトに声をかける。
「どうやら、そのようだぜぇ。さっきから野獣の群れに放り込まれたみてぇな視線をビンビン感じるぜぇ」
既にブライトも感じていたか。
話す間にも、木箱から出すフリをしながらパンをアイテムボックスから取り出している。
「数は充分なはずだが、油断はするなよ。怪我なんかされたら目も当てられないからな」
今回の目的は物作りの良さを、あらかじめ知っておいてもらうための先行投資。
マイナスイメージは避けたい。
「兄貴ぃ。心配するなって、ご婦人方がまとめてくれるぜぇ?」
ブライトは広場中央で、万全の臨戦体制といった風のご婦人方に手を振る。
気づいたご婦人方も笑顔で手を振りかえす。
「お前本当に気に入られたんだな」
「どうかな。だとしたら嬉しい限りだぜぇ」
まったく、男前なことだ。しかも謙虚ときた。
だが、ご婦人方に会場整理を依頼するのを思いついたのはブライトだ。
俺は何を大袈裟にと思ったが、どうやらブライトの予感が的中したようだ。
このままなら整列するだけで混乱が起きていただろう。
「おっと、ロトンドの方にも行ってくる」
「あぁ、お互い頑張ろうぜぇ」
互いに手を挙げ激励とする。
少し離れたロトンドの屋台の前まで行くと、既に店頭には予定の倍のポタージュスープが置かれていた。
「ども、大兄貴。勝手ながら初動の数を増やさせてもらったんでさぁ」
すでに……行動は完了しているだと?
ロトンドの洞察力と観察力がすごいのは知っていた。
だが、まさか俺より先に人の流れを読み、準備を済ませているとは。
「ロトンド。やっぱりお前すごい奴だな」
「ありがたく受け取っとくんでさぁ」
はにかみながら腹太鼓をポンと一叩きし、鼻の下を指で擦るロトンド。
有能で愛嬌もあると。
ブライトとロトンドは任せてもいいだろう。
俺はその場を後にし自分の屋台に入り、バレないようにアイテムボックスから料理を出す。
俺が出したのはジャガイモステーキ。
ジャガイモを焼いただけの代物で彩りがなく華がない。
そこで取りいだしたるはこちら!
「トマトケチャップー!」
俺はアイテムボックスからそいつを取り出す。
こいつはトマトと鍋で生成できる最強格の調味料。
そいつをジャガイモステーキにチョチョイと絞れば無敵のジャガイモ料理の完成だ!
俺はケチャップを乗せたジャガイモを見て、悪くないと思いながら、じゃがバタ食いてぇな。と思った。
畜産も早く進めたいなぁ。
問題が解決しないとなぁ、と思いながらジジイの方を見るとまだ話してる。
ちっ。本作戦のイメージが悪くなるだろうが。
俺は苛立ちながらジジイの元に向かう。
「ジジイ、じゃなくて村長! そろそろご自身の準備の時間ですよ!」
「む! そうであった! ワシが一番時間がかかるのであった!」
ジジイは急いで演説台の木箱から飛び降りると、自分の屋台に走っていく。
ジジイはシステムで作った料理じゃなくて、手作り料理の野菜炒めをお出しするため、準備時間が足りなかったのだ。
ゆえに足りなくなったら作り足さなければならない。
あのあと、ジジイは料理を続けても人形化しなかったが、万が一包丁とまな板で事故が起こるかもしれないので、屋台内部に住民が入れないように、厳重に隙間を埋めた。
ジジイが屋台に入ったら入り口も埋めるつもりだ。
本作戦完了までジジイは軟禁されるが、本人は乗り気なのでヨシっ!
ジジイが禿げた頭に手拭いを巻くのを見届けた俺は、自分も屋台に戻り皮の前掛けを装備する。
もうすぐそこで住民が蠢いている。
「スタートだ!」
恐怖に負けてジジイが早々に開始を絶叫する。
瞬間、イメージしたのは土石流だ。
でかい塊が俺の方に押し寄せてくる。
「二個だ! 二個くれ!」
「こっちは三個だ!」
「ちょっと、引っ張んないでよ!」
「ママァ、どこぉ?」
「八個食べるブー」
「こっちは四個おくれ!」
次から次へと殺到する注文に、だが俺の心はさざなみほどの揺るぎはない。
既に! 俺は接客業モードに変わっているんだぜ。
店頭に百人並んだ程度で、この俺を動揺させられるとでも思ったのかぁ!
「はいどうぞ、はい二個ね、はい三個、八個は多いから二個ね、はい四個どうぞ、はいお次どうぞ」
ぬるい、ぬるい、ぬるい!
このシヤにかかれば、配るだけなど、赤子の腕をひねるより容易いことなのだぁ!
「シヤのお兄ちゃん、三個ください」
屋台の台からちょこんと頭が飛び出た、小さな子供が一生懸命背伸びしながら注文してきた。
「ん? 三個持てるかなぁ? 人にぶつかっちゃうかもしれないから、お兄ちゃんが一緒に持っていってあげようね」
俺は即座に屋台から飛び出ると、お子様の頭を撫でながら提案する。
お子様がおつかいに来たのなら、話は変わってくる。
お使いを成功に導いてやらねばならぬ。
それが大人のつとめ。
俺はお子様に一つ料理を渡し、残りを両手で持つ。
後ろを振り返り、群がる住民に一言告げる。
「勝手に取ってってください。あ、子供もくるので全部持って行かないように」
釘を刺しながら、お子様の目的地のテーブルへ到着する。
そこには他に二人のお子様が座って待っていた。
「シヤお兄ちゃんありがとう!」
「ちゃんとお礼ができてえらいねぇ」
俺はまたお子様の頭を撫でる。
「おにぃちゃ、あいがとう」
「あんがと」
恐らく兄弟だろう、ちみっこいお子様二人もちょこんと頭を下げてお礼を言ってくる。
「おうおう。えらいねぇ」
二人の頭をワシャワシャとなでる。
「よしよし、偉いからお兄ちゃんがご褒美をあげよう」
俺はポケットを漁るフリをしながら、アイテムボックスから積み木をテーブルに乗せる。
「これなーに?」
「いろいろ並べて遊ぶんだよ」
遊ぶと聞いた瞬間三人の顔がパァっと輝く。
「遊ぶ!」
喧嘩にならないように多めに渡すか。
「ありがとう!」
「あいがとう!」
「んとう!」
よきよき。子供の笑顔は癒されるわい。
接客業をしていれば尚更な。
俺は、周りを見渡す。
そこかしこから、うまいうまいと歓喜の声が聞こえる。
涙を流す老人すらいるじゃないか。
___この景色を俺たちで作ったんだ。
俺はその光景をしっかりと目に焼き付ける。
この光景を失わせないのが俺の役目だ。
となれば、もっと笑顔を増やそうじゃないか。
俺は腕まくりをして屋台へと戻る。
他の屋台を見たが混雑でごった返していた。
特にジジイのところが芋洗い状態だ。
まぁ、一番料理っぽいしな。人気も高いか。
リピーターも含めてガンガンくばりまくった結果、人の波も収まってきた。
するとそこに見知った顔が現れた。
「シヤ、私も貰える?」
ファムだ。
「もちろん。断る理由なんてないよ」
俺は笑顔で彼女に料理を渡す。
「ありがとう。それにしても、こんなにたくさんの料理を配ってお金は大丈夫なの?」
ファムが上目遣いで心配そうにこちらを見てくる。
「うん。大丈夫だよ。特別な方法で手に入れてるんだ」
俺がぼやかして答えると、ファムはますます心配そうな顔をする。
「ねぇ本当に大丈夫? なんだか最近シヤ……」
ファムはそのまま俯き言葉を止める。
むぅ。仕方ないこととはいえ、邪険にしすぎたか。
子供が悲しんでいるのはよろしくない。
なので、ご機嫌をうかがおう。
俺はアイテムボックスからアイテムを取り出し渡す。
「これは?」
ファムは突然手渡されたそれに驚いた顔をする。
「うん。かぼドンのぬいぐるみ。極太の眉毛と深い彫がチャームポイント」
子供にはぬいぐるみだ。間違いない。
「ふ、ふふふふふ」
ほらみろ! ファムが口を押さえて肩を振るわせている!
俺の理論は間違いではなかった!
「子供じゃないんだから、ぬいぐるみで誤魔化されたりしないんだからね?」
なん……だと?
「ご、誤魔化したりしてないよ? 大丈夫だ問題ない」
ファムは俺の顔をじっと見つめてくる。
な、なんだ? かぼドンではダメだったか?
「うん。わかった。このぬいぐるみに免じて今日は許してあげる」
何かわからないが、許されたらしい。
ファムが笑顔でぬいぐるみをポンと叩く。
「あ、そうだ! ファムにお願いがあるんだ」
俺は屋台の陰から取り出したように見せかけて、料理を取り出す。
「あとで、いいからこれをグリーヴァに届けてくれないか?」
「う、この状況で頼み事? しかもグリーヴァって。シヤって割と無神経?」
「一応神経は通ってると思うよ」
なんだか分が悪そうだが、笑顔で乗りきって見せようぞ。
「もう! わかった、シヤは忙しそうだから頼まれてあげる。今度なにか埋め合わせしてよね!」
乗り切れたらしい。ちょっとファムのほっぺが膨らんでるのを除けばだが。
「わかったよ」
埋め合わせに関しては、ぬいぐるみの在庫はまだあるので問題ない。
「あれ? これ私のと違う……」
ファムがグリーヴァ用の料理を見て声を上げる。
そりゃそうだ。それは俺が手作りしたジャガイモのトマト煮だ。
ゲームにもない俺のオリジナル。
この世界だから作れる新しい組み合わせ。
ゲームと現実の混合作品だ。
「うん。頼むよ」
「……うん。わかった」
ファムは何か言いたげだったが、最後は頼みを聞いてくれて去っていった。
俺はファムの去っていく背中を見送り、なんだか疲れてしまい広場のテーブルに腰をかける。
隣では先ほどのお子様たちが、積み木で遊んでいる。
「たのしいかい?」
無邪気に遊ぶお子様に、何気なく聞いてみた。
「うん。おもしろい! みてお家!」
みてみると四角と三角で家を作っている。
「うんうん。お家だね」
朗らかな気持ちでお子様の作品を見ていると、袖をクイクイ引かれる。
弟くんだ。
「どうしたかなぁ?」
「こえ、おしろ」
見ればお姉ちゃんよりも立派なお城が築かれている。
「おぉ、上手だねぇ。お城ができてるねぇ」
「うん、並べるとお家やお城になるの」
こういう創造性がいつか建築家を生むのだ。
「上手でびっくりしちゃったよ」
「やったー!」
ふふ。微笑ましいばかりだ。
「すいませーん。一つください」
屋台の方から声が上がったので、俺は席を立ちそちらへ向かう。
……
…………
………………
「今なんて言ったぁああああ?!!」
俺はお子様たちが遊ぶテーブルに頭から突っ込む。
「きゃぁ!」
「ひっ」
「むっ」
よく考えろ、積み木で何している?
お家を作ってる。
お城を作ってる。
でもこの子達はなんていった?
「お嬢ちゃん、積み木は一体どうなったのかなぁ?」
「ば、バラバラになっちゃったけど……」
なんだと?! なぜそんなことに!
俺は急いでテーブルと積み木を整える。
「さぁお嬢ちゃん。あそんでごらん」
「う、うん」
なんだか怯えている気がするが、人形を後で山ほど渡すから許せ。
そして、俺が穴が開くほど見る中で、お嬢ちゃんが四角い積み木の上に三角の積み木をのせる。
「できた」
お嬢ちゃんが、ポツリと呟く。
「うんうん。できたね。これは何がどうなったのかな?」
わかりにくい質問だが、この質問の仕方でなければ、欲しい回答がもらえない。
「えっと、うんと、積み木がお家になった」
グレイト。
光明が見えたぜ、この俺のまなこにバッチリよぉ!
俺はアイテムボックスから人形をこれでもかとテーブルに出しながらガッツポーズを取るのであった。




