第四十話「一からつくるもの、増やしていくものって話」
「グリーヴァは森に行っとるぞ。お主が言いつけたのだろう?」
そうジジイに言われた俺は、うりぷーの無限湧き場所へ向かった。
森が近づくにつれ、鈍い音とうりぷーの断末魔が聞こえるようになってくる。
先日と同じように赤い鬣の青年の背中が見えてきた。
よどみなくうりぷーを屠るグリーヴァを見ながら、声が届く距離で足を止める。
「随分と……効率よく狩れるようになったんだな」
ビクリと肩を振るわせたグリーヴァは、しかしこちらを振り返らず前を向いたまま、うりぷー狩りを続ける。
俺もそれ以上は何も言わず、それを黙って見ていた。
半刻ほどたった頃、グリーヴァは背を向けたまま、無機質な声を響かせた。
「よく顔を見せられたな」
「おっさんだからな、面の皮が厚いんだ」
俺がそう答えると、またグリーヴァは黙って狩りに戻る。
俺もまた黙って、それを見守る。
昨晩俺はたくさん考えた。
それはもう、考えた。
だが、俺が友達になってくれと頼んだだけでは、どうにもならないと気づいた。
だから、今日も拒絶されるのは分かっていた。
「ちょっと、話がしたいんだけどさ」
「お前と話すことなんかない」
にべもなく即答される。
全身から拒絶の意思が伝わってくる。
もう、先日までの関係に戻るのは無理だと思う。
何故なら俺はグリーヴァが求めるシヤじゃないから。
やはり寂しい気持ちを覚えながらも、新たな決意が胸に灯る。
だったら___これからは『俺』を見てもらうしかない。
「一言だけ言っときたくて。俺はこれからもこの村を守るし、みんなを守る。それだけは変わらないから。これは確定した未来だから」
失った信頼は、行動で取り戻す。
それが俺の出した結論だ。
「じゃあ、それが言いたかっただけだから」
俺は言うだけ言って踵を返す。
背後から何かを殴る重く鈍い音が聞こえてきた。
俺はその音を胸に刻みながら村へと戻る。
必ずグリーヴァも死なせはしない。そう心に決め、俺は家へ戻った。
「帰ったぞー」
「お帰りなさいだぜぇ」
「お帰りなさいでさぁ」
「うむ、おかえり。邪魔しとるぞ」
部屋の中に入れば、ブライトとロトンド、あとジジイが俺を出迎える。
ジジイは先ほど家に来るように伝えておいた。
「それで、ワシらを集めたということは、解決方法が見つかったのか?」
俺が椅子に座ると、ジジイが口火を切る。
「それについてだが……」
俺は勿体つけるように、一人一人を見回す。
人形化問題もついでに昨日考えた。
そして俺が出した答えはこれだ。
「人形化問題は一旦保留とします!!」
「「「はぁ?!」」」
三人が驚きに目を見開き、大口を開けている。
「だって、もうね。詰み。どうしたって、リスクを避けられないです。仮説は立てられたけど、立証までの危険が危ないです。なので保留!」
何にも思いつかなかったんだもの。
仕方ないよね。
「し、しかし、それでは村を破滅から守るためにはどうすれば……?」
ジジイが迷子の子犬のような顔をしながら聞いてくる。
「しばらく畑仕事と農具の扱いは、俺とブライト、ロトンドでやります。防衛の準備は、リスクのないところだけヴェッキオにも手伝ってもらいます」
「そんな悠長な事を言っていられるのか?」
ジジイが今度は焦りだす。
「大丈夫です。村が襲撃されるのは私の知識だと三年後です。猶予はありますのでご安心ください」
「なんとも、具体的な数字で断言するな」
ジジイが怪訝な顔をする。
今日もジジイは百面相で忙しい。
「おう。俺はこれから世界で何が起こるか知っているからな」
「知っている……?」
「うん。知ってる」
三人とも三者三様の表情を見せるが、今日の本題はこれではない。
「俺の正体とかは、今はどうでもよくて、今日皆に集まってもらったのは他でもない、料理を住民に配って物作りの印象をよくしよう大作戦のためだ!」
「どうでもよくないのだが……」
ジジイが呟くが、今はできる事をするのだ。
マルールが言っていたからな。
「兄貴。どうでもはよくないぜ」
「うむ。料理が終わったら、きちんと説明してもらおう」
「……わかってるよ。ちゃんと話す。話すけど、今日はちょっと待ってくれ」
……今日、全部話すつもりだったが、グリーヴァの顔がチラついて、誤魔化してしまった。
ちゃんと話す。先に進めないから。
でも、今日は___
「だけどまずは、料理を住民に配って物作りの印象をよくしよう大作戦の内容を説明する!」
俺は天を仰ぎながら宣言する。
「いや、兄貴。聞かなくてもわかるぜぇ」
呆れた顔で言ってくるブライト。
流石聡明な男、作戦名だけで俺の意図に気づいたか。
「ふっ。やるな」
俺は自分の頬を撫でながら、優秀な部下を褒める。
「はぁ。ありがたく受け取っておくんだぜぇ」
部下を褒められる俺も優秀だと思うがどこもおかしくはない。
「して、料理とはいったい、どのようにするのだ?」
ジジイが興味津々に聞いてくる。
そうか。聞きたいのか。
俺がすでに検証を行った、この世界の料理というシステムを!
「あぁ、大兄貴があの顔してまさぁ」
「あぁ、長くなるぜぇ」
二人の声が耳に入ってくるが、心までは届かない!
俺は検証結果を披露したいんだ!!
「まず、料理を簡単に言うと、食べ物を使って、より美味しいものにするという、物作りだ」
前世で言えば、意識が高い系か、哲学者だと思われる事間違いない説明を三人にする。
「ふむ、魔物からドロップするものとは違うのだな」
「そうだ、一応あれも料理と呼ばれているが、以後我々の間では、料理といったら今言ったものを指すと思ってくれ」
「うむ。了解した」
聞き分けの良い生徒のようにジジイはうんうんと頷く。
「そして、この世界には料理をする方法が二種類ある」
今回俺が気づいた大きな発見がこれだ。
「まずは、世界の理を使った料理を見せる」
俺は言いながら、家の奥に設置したパン釜まで三人を誘導する。
「まず、料理の元となる物を用意する。これを食材という」
俺はアイテムボックスから小麦を取り出す。
まずは俺からやってみせる。
その後、ブライトとロトンドにも体験してもらうつもりだ。
ジジイはどんな反応が起きるかわからないので様子見。
多分、アイテム単体だったら大丈夫だと思うけど念のため。
色々検証してる間にも作物は育っていたので、そこそこ収穫できているのだ。
そして三人がパン釜の前まで行くと驚きの声を上げる。
「うぉお! こいつぁ、なんだ?!」
「光ってるんでさぁ!」
「め、女神様の祝福かッ……」
俺もパン釜の前まで行くとそれは現れた。
目前の空中に現れた半透明のモニターのようなもの。
ゲームではおなじみのゲームウィンドウ、この世界でも健在だ。
というか、ジジイにもウィンドウが現れたのか。
物作りを覚えたのなら当然の仕様なのだが……特に変わった様子はないな。
ちょこちょこ、ジジイの様子を見ながら俺は続ける。
「こいつはゲームウィンドウといって、世界の理を使う便利な道具だと思ってくれ」
詳細は俺も知らん。
だが、もちろんこのままでは終わらせんぞぉ?
色々弄ってやるからなぁ?
「ぐひひひひ」
「……いつも通りみてぇで良かったぜぇ」
優しい眼差しで俺を見るブライトにドキリとさせられる。
まぁ、気づくよな。同居人が死人みてぇなツラしながら帰ってきてたらさ。
「おう。俺はこれからもいつも通り。俺は俺のままさ」
ブライトの胸を拳で軽く叩きながら、俺は宣言する。
ブライトはニヤリと笑って、胸を叩き返してきた。
「使徒様! これからどうすればよろしいのですかッ!」
興奮したジジイが空気を読まずに、取り乱しながらあたふたしている。
呼び方もまた使徒様になってるし。
「ジジイはまだ見るだけ。触っちゃダメ」
俺はショボくれるジジイの横を通り過ぎブライトのところへ行く。
そして、大体の場所を指差しながら説明をする。
「いいか? 俺にはブライトのウィンドウは見えないけどこの辺に『入れる』って書いてあるだろ?そこを手で触ったら、右上の……四角……」
俺はそこまで話して猛烈な違和感を覚える。
脳がありえないとガンガン前頭前野を叩いてくる。
そして、その違和感の正体に気づいた時、俺は一気に頭に血が上って鼻血を噴きそうになる。
「なぁ、お前ら全員ウィンドウ出てるのか?」
俺は自分の前に出ているウィンドウとひとつしかないパン釜を交互に見ながら、三人に尋ねる。
「みえてるぜぇ」
「でさぁ」
「見えておりますぞ」
俺は三人の返答に応えず、震える手で小麦をウィンドウに入れる。
「なぁ、お前たちのウィンドウの右上に小麦が出てきてないか?」
唾を飲み込み乾いた喉で無理やり声を出す。
「出てきたぜぇ」
「でさぁ」
「出てきておりますぞ」
まだだ、まだ笑うな。
この後だ、この後が重要なんだ。
「なぁ、ブライト。その小麦の部分に触ってみてくれないか?」
「お、小麦が手に出てきたぜ?」
「俺の小麦は消えちまったんでさぁ」
「ワシのも消えてしまった……」
ジジイの寂しそうな呟きを聞きながら、俺は自分のウィンドウを凝視する。
俺の小麦も消えている。
俺はもう一度アイテムボックスから小麦を取り出し、ウィンドウに入れる。
「お、また出てきたぜぇ」
「なぁ、ブライト。今度は俺と全く同時に小麦に触ってみてくれないか? 寸分の狂いもなく」
「寸分の狂いもなく? それだったらロトンドの方が適任だぜぇ。ロトンドは観るのが得意だからよぉ」
この際どちらでもいい、早く、早く!
「じゃあ、ロトンド。1、2、3で触るぞ、3で触るんだからな?」
俺はロトンドに念を押す。
「大兄貴、目がバッキバキでさぁ、了解でさぁ、寸分の狂いもなく合わせてみせまさぁ」
少し怯えた表情のロトンド。
自分でも鼻息が荒いのがわかる。
「1、2、3!」
俺はゆっくりと自分の手を見る。
そして手に握られた小麦を見た後、ロトンドの方を見る。
彼の手にも小麦が握られている。
「ちなみに、俺の小麦はウィンドウから消えてるぜぇ」
俺はロトンドの手から小麦を取り上げると、二つを見比べる。
見比べているうちに、体が震えて熱くなってきて、もうはや、矢も盾もたまらぬ!
「増殖バグだぁああああああ!!!!!!」
俺は叫びながら扉をブチ開けて外に飛び出す。
「イヤァアアアハアアアア!」
地面をゴロゴロ転がりながら、どうしてくれようかと、さまざまなことが浮かんでは消え浮かんでは消え、もう、どうしようかしら! もう!
「ワシの天下じゃあああああ!!!!」
俺は空に向かって声を張り上げるのであった。




