第三十三話「繰り返し、繰り返すって話」
「どうした、クリスたん。そんなに慌てて」
俺はクリスたんを落ち着かせようと、丁度いいところにある頭を撫でる。
フワフワでさらさらだ。
子供の髪ってなんか、幸せって感じがするよな。
いつまでも撫でていたい。
「なんか、村長が変なんだ!」
クリスたんは拳を握って、両手を振りながら大変さを表現している。
愛いやつめ。
小さい頃のクリスたんを眺めることに比べれば、ジジイが大変な事になっているなどというのは些事にすぎぬ。
だが、クリスたんが一生懸命伝えてくれているのならば聞こうじゃないか。
「爺さんが変? どういうことだ?」
グリーヴァが俺を押し退けてクリスたんを問い詰める。
む。本来であれば磔刑に処すところだが、家族の事となればグリーヴァにとって一大事。
広い心で足を踏むだけで許そう。
「なんか、村長がずっと地面を掘ってるんだ!」
わちゃわちゃと身振り手振りで説明してる。
「掘ってる? なんか埋めるのか?」
足を踏まれているのに気付かないグリーヴァは首を傾げる。
LVが上がって防御力が上がったからか?
「掘ってるっていうか、いっぱい土をひっくり返してるみたいな……」
クリスたんが上手く説明できず、しょんぼりしている。
かわゆす。
だが、子供が困っているなら手を差し伸べるのが大人のつとめ。
推し活動はここら辺にして、真面目にいきますか。
「クリスたん。教えてくれてありがとうな」
一生懸命なクリスたんにお礼を言って、切り替える。
ジジイに何かあれば、農業の進捗に支障をきたす。
どうやら、グリーヴァの恋愛相談はここまでのようだ。
「多分、ジジイは土を耕してんだろう」
「タガヤス……?」
おっと、呪い発動。
虚になったグリーヴァがおうむ返ししてくる。
耕すは野菜作りに関わるから認識できないらしい。
だが今は、その検証は後回しだ。
「とにかく急いで戻るとしよう。見た方が早い」
「うん! こっちだよ!」
「そ、そうだな!」
すぐに意識が戻ってきたグリーヴァとクリスたんの後ろに続く。
場所はわかっているが、せっかくクリスたんが案内してくれているのだ。
走ってクリスたんを追う。
坂道をぐんぐんと下っていく、整備されていないから石や木の根が所々にある。
だというのに……
……早ぇな。さすが勇者と言ったところか。
クリスたん。子供の頃から高スペックなんだな。
それなのに、シヤの身体ときたら……。
あー! 息が苦しいし、石を避けたら足がもつれる!
なんでもない坂が急斜面に見える!
足上がんねぇ! 前世の俺の方がまだ走れたぞ!
俺はアイデムボックスから、行く末ジジイからもらった、ぱやぱやの桃を取り出しひっそりと食う。これで移動速度アップだ!
だというのに、着いていくので精一杯。
だが、クリスたんの手前、俺は澄ました顔で乗り切り目的地に到着した。
「なんだこりゃぁ」
うめくように呟くグリーヴァ。
遠目からすでに見えていたが、俺たちを待っていたのは、広範囲にわたって土を耕しているジジイだった。
一心不乱という言葉がこれほどに合う場面はない。
こいつは……やべぇな。
広さもジジイも、どんだけだよ。
「あ! やっときた! シヤ……とグリーヴァ」
こちらもいるのは見えていたが、ファムがこちらにやってくる。
「やぁ、ファム。なにか大変な事になっているようだね」
俺は、よそ行きの態度でファムに声をかける。
好感度を上げないための絶妙な距離調整だ。
「うん。村長さんがおかしいの。声をかけても反応しないし、どうしようかと思ってたらマルールさんが来て、シヤなら何か知ってるかもって」
焦った表情で矢継ぎ早に説明してくるファム。
そうか、俺が畑の依頼をしたからなマルールはそれで因果関係を推測したのだろう。
優秀で聡明で美しいマルール。
いいね!
「村長さんを見てる人も必要だからって、マルールさんにはシヤの家に行ってもらって、丁度通りかかったクリスに、あの丘へ行ってもらったの」
なるほど、俺とグリーヴァが丘に行く可能性を見出せるのは、同じ幼馴染の彼女だったわけだ。
「それで、爺さんは、ずっと土を掘ってるのか?」
「う、うん。私がここに来た時からずっと」
ぎこちない態度でグリーヴァに答えるファムだが、流石に今は露骨に避けたりはしないようだな。
グリーヴァも心配が勝っている。
まぁ、二人の関係性は後回しにして、優先すべきはこっちだ。
やたら広くなった畑の歩きにくい土を踏み締めて、ビーチバレー出来そうだななんて考えながらジジイに近づく。
「おい、ジジイ。なにしてる」
俺はクワを懸命に突き立てているジジイに声をかける。
「…………」
だが、全く聴こえていないかのようにジジイは作業を続ける。
「おい! ジジイ! 聞こえないのか!」
「…………」
無反応。
聞こえていないわけがない。
気付いていないわけがない。
だが、ジジイはクワを振るい続ける。
「……おい。ジジイ、大丈夫、か?」
不気味なものを感じた俺は、ジジイの体に触れて声をかける。
もちろん体は温かく人間のそれだ。
「…………」
返事はない。
体に触れたのに、反射反応もない。
背筋に冷たいものが流れる。
これではまるで___
「NPCみたいじゃないか……」
我知らず口を出た言葉に、自分で戦慄を覚える。
ザクッ……
ザクッ……
ザクッ……
俺はこの世界で初めて見る本物のNPCを目の前にして、思考が掻き乱される。
___なぜ?
___何が?
___どうして?
目の前の繰り返される動作のように、俺の思考もループする。
「おいシヤ! 爺さんはどうしちまったんだ!」
俺はグリーヴァに肩を掴まれ我に帰る。
後ろには心配そうな顔をしたクリスがいる。
その顔を見て、俺は無理やり千々に乱れた心を冷静にさせる。
子供に不安な顔をさせるべきではない。
大人は子供の前では見栄を張って見せなければならない。
「ちょいとばっかし、俺に任せてくれや」
俺はグリーヴァの肩を叩き返し、またジジイの側に近づき観察をする。
動きは一定。
フォームの乱れもなし。
視線も固定。
恐らく呼吸も乱れなし。
移動する歩幅も等間隔。
「おい」
やはり、声をかけても触っても反応なし。
「よっと」
後ろからジジイの肩を掴み、移動できないようにする。
今度は、その場でクワを振い続ける動作を繰り返し始めた。
もう___確定でいいだろう。
ジジイは今ゲームのNPCと化している。
この世界のNPCではない、ゲームのNPCだ。
原因はわからない。
だが___解決方法ならわかる。
例えば、門があるから、門番たりえる。
例えば、川があるから、未来を案じれる。
じゃあ、土を耕すなら?
「ふぅぅぅ」
俺は呼吸を整え集中する。
ジジイの動きを観察し機を伺い___
今!
「せいや!」
俺は無刀取りでジジイの手からクワを取り上げる。
クワがあるから耕せる。簡単な帰結だな。
一応刃物がついているからな、慎重を期して対応させてもらった。
奪ったクワは即アイテムボックスにしまう。
「む? わしは一体……?」
クワを取り上げたら、すぐにジジイは正気に戻ったようだ。
キョロキョロと辺りを確認して、俺と目が合う。
「おや、使徒……しとしと雨が降りそうだが、険しい顔をしてどうしたシヤよ」
当の本人はケロッとした顔で、いつも通りといった風だ。
さっきまでの不気味さは微塵もない。
「爺さん、大丈夫なのか?」
グリーヴァが心配そうにジジイに問いかける。
彼は家族に関してナイーブだからな。
いつも以上に幼く見える。
「む、グリーヴァか。大丈夫とは一体?」
「村長さん、声をかけても何も反応せずに、ずっと土を掘ってたんですよ」
不安そうにしている、幼馴染のフォローをファムがする。
なんだかんだ、幼馴染なのだ。
「むむ。ファムまでおるのか。いつの間に現れたのだ。それに土を掘る?」
次々に声をかけられて、混乱しだすジジイ。
「村長さん周りを見てよ」
「クリスまで! どういう事だ? 周り……なんと?!」
クリスに言われ周りを見渡したジジイは、辺り一面の畑に驚く。
「なぜこんなに畑が?!」
「ジジイ、あんたが全部やったんだぜ? 覚えてないか?」
俺が説明してやるとジジイは、ますます驚き頭を抱える。
「わしが……? 覚えておらん。いや、心なしか、いや普通に腕がパンパンで痛い!」
ジジイが思い出したかのように痛がりだす。
腰も痛いし、足も痛いと喚いている。
それを聞いて他の皆が、痛いところを揉みほぐし始めた。
優しい奴らだ。
その光景を見ながら俺は考える。
思い出す。
照らし合わせる。
ゲームの仕様と、この世界の境界を。
仮説はいくつも思いつく。
だが一つだけはっきりしていることがある。
この世界の人間が、ゲームの人形になるなら。
そんな危険があるなら俺は___
この世界の住人を俺のシーケンスブレイクには巻き込まない。
俺は一人で突き進む。
そう___
思った。
お読みいただきまして誠にありがとうございます!
スネオイズムカッコ良すぎませんか。
私、生まれて初めて男をエロいと思いましたよ。
スネ夫をです。
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