第三十二話「惚れた腫れたはフレッシュでフラッシュって話」
「でさ、やっぱりなんかファムに避けられてる気がするわけ」
俺は今、草原のやわらかな風を頬に受けながら、青少年の恋愛相談に乗っている。
柔らかな芝生が、良いクッションとなってリラックスさせてくれる。
本人にとっては大事なのだろうが、人の恋愛事情など、聞く側としては実にどうでもいい。
このまま、寝転んで昼寝でもしたい気分だ。
それでも、きちんと聞いてやるのは、グリーヴァにはファムと、くっついてもらいたいからだ。故にアドバイスじみたことも言おうじゃないか。
「グリーヴァよ一応聞くが、嫌われるような事はしていないな?」
まぁ、ないと思うが、一応聞いてみる。
案の定、彼は心外だ、濡れ衣だと顔で語っている。
「心外だ、濡れ衣だ」
口でも語っている。
「ならばグリーヴァよ。それはお前とファムの関係に変化が訪れたということだ」
「……変化?」
俺の言葉を聞き、グリーヴァの顔に不安の色がよぎる。
確かに、こと恋愛において変化はあまり肯定的な意味には聞こえまい。
しかし、俺は悲観的になることではないと、そうにらんでいる。
「ひとつずつ確認をしていこう」
「情報と分析だな!」
グリーヴァが嬉しそうにドヤ顔をしてくる。
覚えていたようでおじさん嬉しいよ。
「そうだ、これまでの情報を整理しよう。気をしっかり持てよ?」
俺はグリーヴァに言って聞かせる。
だが、どうせ凹むだろう。
「お、おう。頼むぜ」
本人もわかっているのか顔が引き攣っている。
「まずお前は嫌われていた」
「ううぅ」
「お前がガサツで大雑把で無神経で意地悪で我儘だったからだな?」
「はい……そうです」
地面に肩がめり込むくらいに、肩を落とすグリーヴァ。
「だが、今のお前はどうだ?ガサツで大雑把で無神経で意地悪で我儘か?」
俺の質問にハッとなったグリーヴァは、しばらく考えた後自信なさげに答えた。
「ガサツと無神経は治ったかは自分じゃわからねぇ。でも大雑把と意地悪と我儘は治った……つもりだ」
最初は自信なさげだったが、最後の方のグリーヴァの顔は一人の自立した青年の顔に見えた。
確かにガサツと無神経は本人には分かりづらい。
だが、残りは自分が変わればいいだけだ。
恐らく次期村長候補として、強い意志を持って自制したのだろう。
そして変わったのだろう。
だから、そんな表情を浮かべられるのだ。
元々彼は強い自制心を持った男になるのだ、根っこの部分にそれがあっても不思議ではない。
彼は自分の意思で、自分を変えていける男だ。
「じゃあ、嫌われている理由が半分以上減ったわけだ」
「そう言われればそうだけどよ。じゃあなんで避けられてるんだ? ますます嫌われてるみたいじゃねぇか」
得心がいかぬといった顔のグリーヴァ。
そこが青いというのだよ。
「まぁ、はやるな。お前はマシな奴になった。でもお前はファムに避けられている。ここまでは情報だ。そして、ここからは分析。お前の質問に答えてやろう」
グリーヴァは大人しく頷く。
「嫌いな要素が無くなったら、いきなり好きになるのか? 違うだろ?」
「うっ! 確かに……」
グリーヴァは仰け反りショックを全身で表す。
「だが、もう一つの情報が、嫌いなままだとしたら、説明がつかないことがある」
「ど、どう言うことだ?」
今にも縋り付いてきそうな、というか縋り付いてきたいグリーヴァの肩を両手で押し除けながら、俺は続ける。
「今までは嫌いでも、喧嘩はすれど無視をしたり、嫌悪感を剥き出しにしてきたことはなかったはずだ」
多分。俺の家でのやり取りからの推測なので当てずっぽうだが、俺の人を見る目を舐めてもらっては困る。あの程度のやり取りでも、ある程度は関係値を見抜くことなど容易いのだ。
「あぁ、喧嘩ばっかりだったけど、無視されたことはなかったな。逆に突っかかられることも多かったし」
……確かに。
俺の家でもファムが先に突っかかっていたな。
なら、話はわかりやすい。
「ということは……だ。多分、ファムもお前に更生して欲しい気持ちがあったんだな。いつまで経っても、バカやってるから苛立って突っかかってたんだ」
「ファムが……?」
「言っても、俺たち幼馴染だからな」
自分で言って、胸の奥がチクリとしたが、今は飲み込むべき痛みだ。
今は、俺は俺として彼にアドバイスするのだ。
「だが、最近になってお前をファムが避けるようになったと」
俺は胸中の思いなど、おくびにも出さずに分析を続ける。
「これは、ファムがお前との距離感を掴みかねている証拠だ」
まぁ、間違いないだろう。
思春期独特のわかりやすい行動だと言える。
「距離を掴みかねてる?」
「そうだ、要するに戸惑っているんだな、お前がいい奴になってきたから」
「なんで、いい奴になったら戸惑うんだよ」
グリーヴァは口を尖らせて言う。
こういうところはまだ子供だな。
「今までは、嫌な奴だったから喧嘩でコミュニケーション取ってたけど、いい奴になったら、どうやってコミュニケーション取っていいか、わからないんだろ」
まぁ、ファムもゲームだと、とても大きく、それは広く広くとらえれば、人付き合いが上手くない人間に成長するし、今がそうでも不思議ではない。
他の人間相手では断定しないが、対グリーヴァでは不器用なのは間違いない。
「普通に話せばいいじゃないか」
「なんて話すんだ? 今まで嫌いだった奴に、いきなり、最近イケてんじゃんとでもいうのか?」
「イケてる……。ふふふ」
何を想像しているのか、凄くわかりやすい顔でグリーヴァはニヤける。
「例えばの話だアホ」
「あいたっ」
男のニヤケ面は腹立たしいので頭を引っ叩く。
「要するに、ファムはどうしていいのかわからんから、避けているという説が濃厚だ」
「じゃあ、俺はどうすれば?」
迷子の子供みたいな顔しやがって。
バカが。
お前がコロコロ表情を変えるようになるなんて思いもしなかったぜ。
「やることは二つ。今まで通り、次期村長として学ぶこと。焦ってお前の方から急に距離を詰めないこと」
「本当に今まで通りじゃないか」
口を尖らせながら不満を露わにするグリーヴァ。
「違う、急に距離を詰めるなと言ったんだ」
「どういうことだ?」
疑問に首を捻るグリーヴァ。
「接触をほんの少しだけにするんだ。元気に挨拶するだけでいい。ただし、前までみたいに喧嘩腰になるなよ。簡単な日常的な会話をして、すぐに切り上げる」
押してもダメなら引いてみろという先人の知恵だな。
「そんなことでいいのか?」
「そんなことがいいんだよ。いきなり距離が開くと逆に気になるんだよ。今のお前みたいに」
「あっ!」
得心がいったのか手を打つグリーヴァ。
まさに自分が体験しているのでわかりやすかったのだろう。
「なるほどなぁ。……お前ってそういう知識ってどこで手に入れてるんだ?」
………………。
…………。
「…………秘密」
……。
「なんだそりゃ。独り占めか?」
実につまらなそうに呆れた顔をしてる。
俺はドクドクと聞こえてくる自分の血の流れを意識しながら、我が身に起こっている異変を抑え込みながら、笑顔で答える。
「お前が俺よりモテたらムカつくので秘密」
彼の死亡フラグを完全に折るまでは、グリーヴァに俺から離れられては困るのだ。
だから、今は___
「そう。秘密だ」
「まぁ、俺はファムさえいればいいから、いいけどな」
その素直さを最初から発揮してたら嫌われていなかっただろうに。
無理か。グレてたし。
「ということで、もっとファムの心を掴むテクニックをだな___」
グリーヴァが鼻息荒く俺に迫ってきたところで、村へ続く道の方から声が聞こえる。
「おーい! シヤ兄ちゃん!」
!!!!!!!!!
俺は、首がへし折れるほどの速度で、そちらの方を振り向く。
うぉう、おうおう、ふみゃうわうわう。
こ、この声は!
ビルダーズブレイブで最も聞くことになる声!
担当声優は、まさにそのジャンルのブームの火付け役となった元祖にして至高の存在。
「はぁはぁはぁ!」
そんな究極の声を持つ人物が息を切らせて駆けてくる。
あぁ! フレッシュな瑞々しさがフラッシュを放って、おじさんの目がクラッシュ!
「お、クリスじゃないか。どうしたんだ?」
「あ、グリーヴァお兄ちゃんもこんにちは」
俺の目が眩んでいる間にグリーヴァの野郎がクリスたんと会話をしている。
気配を頼りに当て身を入れてもいいが、万が一クリスたんに当たったらことだから我慢してやる。
「それよりシヤ兄ちゃん! 大変なんだよ!」
慌てた様子のクリスたんもいいな。
見えてきた我が目で、現実となったクリスたんを眺める。
ついでにグリーヴァとクリスたんの間に体を捩じ込む。
さらさら金髪のミディアムヘア。
それがちょうど撫でやすそうな高さにある。
少し下がり眉で、いつも困っているように見える。
大きな碧眼は希望でキラキラしている。
唇はピンクで柔らかそう。おじさんとは大違い。
手足は華奢だが、決して不健康そうではない。
ルートによっては小麦色になる肌は、今は透き通るように白い。
可憐な美少女ここに極まれりと言ったところか。
だが、胸はない。
確か今の年齢は、まだ12歳。
しかし、それが理由ではない。
クリスたんはエンディングまで胸が大きくならない。
なぜなら___
彼女は、男の娘だからだ。
こんなに可愛いのに女の子なわけがない。
ついでに言うと___
この子が勇者だ。
お読みいただきまして誠にありがとうございます!
十万文字超えてやっと勇者が登場だと……?
妙だな。
まるで、出すタイミングを逃したみたいじゃないか。
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