↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/69

第三十話「試練を乗り越えた先には友情が芽生えるはずって話」

 

「兄貴、これから会いにいくのが幼馴染のグリーヴァさんなのかい?」


 グリーヴァがいるはずの森に向かう道すがら、ブライトが尋ねてくる。


「そうだよ、今頃は一生懸命うりぷーを引っ叩いてるんじゃないかな?」


 青い空を見上げながら、村を出る前にグリーヴァに課した宿題を思い出す。


「一日四時間。ひたすらうりぷーを狩り続けろと言い渡したからな」


 本当は八時間でも良いんだが、村長の勉強もあるので半分にしておいた。

 文武両道。

 両方やらなきゃいけないのが、次期村長候補のつらいところだな。


「そう言えば、そのグリーヴァさんが最近元気がないらしいと聞いたんでさぁ。複数人からの情報なので、割と確度は高いと思われるんでさぁ」


 ロトンドが気になることを言い出した。


「グリーヴァが?」


 村を出る前は意気揚々だったはずだが、いったい何があったのだろうか?


「多分、兄貴にも一端があるんじゃねぇかなぁ?」


「む? なぜだ?」


 ここ数ヶ月会わなかった俺になんの原因があると言うのか。


「普通、毎日四時間もモンスターを黙々と狩っていたら元気もなくなるもんだぜぇ?」


 俺のことを、不憫な人を見るような表情で言ってくるブライト。


 ……ますますわからん。

 ここは現実と違って、数をこなせば必ず経験値という恩恵が得られるというのに。

 努力が無駄にならない素晴らしい世界だ。


「その顔はやっぱり分かってねぇなぁ。普通は単純作業を延々としてたら気が滅入るんだぜぇ」


「そんなバカな。ではレアドロップが欲しい時はどうするんだ」


 俺は驚愕と共に呆れるブライトに問いかける。

 アイテムが出るまで狩れば確率は100%に収束するんだぞ?


「大兄貴はいい加減、少し人とずれていることを自覚した方がいいんでさぁ」


 今度はロトンドが俺を諭してくる。


 俺が人とずれている?

 そんなはずはない。

 至って一般的なゲーマーのはずだ。


「はっ! そうか! お前たちは元ならず者。きっと普通がわからないんだな……」


 それしか、思い当たる節がない。

 二人とも苦労してきたが故に、一般社会に溶け込めず、俺のような良識人が理解できないのだ。


「大兄貴ぃ。俺らも普通に一般人と交流があったんですから、流石に違いは分かりまさぁ」


 ロトンドが、なおも反論してくる。

 社会人経験のある俺を前に自信満々だな。

 どうやら二人とも、どうしても俺を変わり者にしたいらしい。


「いいだろう。そこまでいうのであれば、これから会うグリーヴァに判断を仰ごうじゃないか」


 我が友グリーヴァであれば俺の潔白を晴らしてくれるに違いない。

 そう思い意気揚々と俺は、森へと続く道を行く。

 涼しげな風が頬を撫でて、日差しの暑さを和らげてくれる。


 しばらく歩いたところで、森の入り口から鈍い音が聞こえてきた。

 それと共に獣の断末魔もセットで聞こえる。

 それを奏でている、赤い鬣をした我が友人の背も見えてきた。


「おーい! グリーヴァ! 俺だ! 空前絶後の美男子にして、天元突破の知恵者であるシヤだ!」


 俺は手を振りながら友の背目掛けて走り出す。

 久方ぶりの再会だ、さぞかし感動的なものとなるだろう。


 俺の声に反応したグリーヴァはゆっくりと、こちらを向く。

 その際リポップしたうりぷーがグリーヴァ目掛けて突進するが、グリーヴァはノールックでうりぷーを盾で弾き返す。


「シ……ヤ……?」


 俺が彼に近づくにつれて、彼の虚ろな目が見えてくる。

 瞳の光が全くない。


 なんだか、不穏な空気に俺は急停止する。


 それに合わせてグリーヴァは腕を腰だめに構えると天を仰ぎ口を開く。


「シぃヤァあアああアぁ!」


 空を衝く巨大なオーラを幻視するほどの気迫。

 どうやら、日々の鍛錬は彼をここまでの域に到達させたようだ。


「うむ。強くなったなグリーヴァ。俺の采配が冴え渡ったようだ」


 俺が自分の聡明さに感心していると、突然グリーヴァが飛びかかってきた。


「お前ぇ! 心が壊れる直前だわぁ! とりあえず首を絞めさせろぉ!」


 鬼の形相で訳のわからん事を言っているので、とりあえず巴投げをお見舞いする。

 襟を掴んで、引き寄せて、お腹に足を押し付けながら、後ろにポイッだ。


 む。思いの外ぶっ飛んでいったな。

 それだけ、グリーヴァの力が強かったということだ。

 しっかりレベルは上がっているようだな。


「あぁあああ! ぐわぁああ!」


 服について土を払って立ち上がると、グリーヴァが地面をゴロゴロと転がって喚いている。

 打ちどころが悪かったか?


 俺が心配になってグリーヴァに近づこうとすると、その前にブライトとロトンドがグリーヴァに手を差し伸べる。


「グリーヴァさん。分かりますぜぇ。俺たちも同じだったんだぜぇ?」


「そうでさぁ。期間こそ短かったものの、俺たちは一日八時間でさぁ」


「お、お前たちも……?」


 二人の手を取り立ち上がるグリーヴァに理性の色が戻る。

 そして肩を抱き合って円陣を組みだした。

 何やら友情が芽生えている様子。


「うむ。仲が良くなってなによりだ」


「お前が感心するんじゃねぇ!」


 いきり立ったグリーヴァがこちらをズビシッと指さしながら、異議あり! をしてくる。


「いったい何をそんなに興奮しているのかね? そういうお年頃かい?」


 俺は大人だから、子供のそういうところにも一定の理解がある。

 信頼できる男だぜ俺は?


「何をだと?! お前がいつ帰ってくるかもわからないまま、毎日毎日うりぷーをひたすら狩り続けた俺の虚無感が今まさに怒りとなって、天を貫いた! 喰らえ! シールドソーサー!」


 何やら猛り狂ったグリーヴァが、レベルが上がったことで取得したスキルを使用し、お鍋の蓋を俺に向かって投げてくる。


 これに当たると、盾の防御力の数値により威力の変わるダメージを受ける。

 所詮お鍋の蓋なので大したダメージではない。

 なんなら、うりぷーも倒せない。

 しかし、低ステータスの俺が喰らうとちょっと痛い。


 だが、俺は慌てることはない。

 何故なら___


「ほい、収納」


 攻撃判定がこちらに届く前に、鍋の蓋をアイテムボックスに収納した。

 大体14フレームの受付時間があるから余裕でしまえる。

 仲間の装備なら自由に収納可能なのだ。

 グリッチというほどでもない小技で、あえて仲間に装備を投擲して、素早く装備を入れ替えるときに使う。

 一つしかない効果付与武器を使い回すときに利用する技だな。


「なに?!」


 驚愕に目を見開くグリーヴァ。

 しかし、手加減しているのは見てとれたが、友達に攻撃スキルを使うなんて悪い子だ。

 スキルの硬直時間で動けない間に、お仕置きをせねばなるまい。


 俺はアイテムボックスから砂の目潰しを取り出しグリーヴァめがけて投げつける。

 目を見開いているからさぞかし大量の砂が目に入るだろうて。


「ぐわぁ! 目がぁ! 目がぁ!」


 ゴロゴロともがき苦しむ姿はジジイとそっくりだ。

 血は争えないな。


 俺はアイテムボックスから水を取り出し、グリーヴァの目にかけてやり砂を洗い流す。

 そして、後はひたすら上から砂をまぶしていく。


「やめろ! 粉っぽく! 体が粉っぽくなっていく!」


 その後は俺の気が済むまで砂をグリーヴァにまぶして、事なきを得た。


「うぅう。俺か? 俺が悪いのか?」


 しばらく地面に転がった後、しょんぼりして体育座りでいじけながら、地面にのの字を書いているグリーヴァ。


 友達に鍋の蓋を投げつけたのだから、悪いのは君だ。


 しかし、ブライトとロトンドがグリーヴァに寄り添って慰め始める。


「グリーヴァさん。あんたは悪くないぜぇ。相手が悪かっただけだぜぇ」


「そうでさぁ。シヤの大兄貴相手じゃ理屈は通らないんでさぁ」


「失礼だな君たちは」


 俺ってばプンスコプンだ。

 ほっぺを膨らませて最大限の遺憾の意を表明する。

 ちなみに中の人は中年です。


「さぁ、グリーヴァさん立って。諦めも肝心なんだぜぇ」


「でさぁ」


「そうだな。ありがとう。俺はグリーヴァ。この村の次期村長候補で、一応シヤの幼馴染だ」


 一応ってなんだ一応って。


「俺がブライトでこっちはロトンド。シヤの兄貴の舎弟兼部下だぜぇ」


「でさぁ」


「舎弟……。大変だったんだな」


 グリーヴァがしみじみと噛み締めるように二人に言う。


「あんたほどじゃねぇさ」


「シヤの大兄貴と幼馴染。お察しまさぁ」


 そして残りの二人も同じような顔をしてグリーヴァの肩を叩く。

 しかし、グリーヴァはロトンドの話を聞いて、顰めっ面になりながら答える。


「いや、幼馴染だが、昔はあんなんじゃなかったんだ。最近おかしくなっちまって」


 そう言って俺の方を見るグリーヴァ。

 どうやら、グリーヴァも俺のことを変な奴だと思っているようだな。


 まぁ……仕方ないか。


 別人だもんな。


 騙しているわけでも、嘘をついているわけでもない。

 今の俺はシヤだ。


 ただ……グリーヴァの知っているシヤじゃないというだけで。


 グリーヴァにそのことを伝えたらどうなるだろうか。


 怒るだろうか? 悲しむだろうか? 呆れて離れていくだろうか。


 そう考えると、胃のあたりがキュッとなる。


 この世界に来て一番最初に、俺に俺として接してくれた友達。


 もし、縁が切れたら___


「嫌だな」


 そんな言葉が自然と口から溢れた。

お読みいただきまして誠にありがとうございます!


ちゃんと読めると思った方は下の☆ ☆ ☆ ☆☆を★ ☆ ☆ ☆☆こう!

面白いなと思ったら下の☆ ☆ ☆ ☆☆を★★★★★こう!

まだの方はついでにブックマークなどもお願いしたい!


いいねと感想もお待ちしております!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。