↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/69

第二十九話「プロジェクトの開始は緊張が走るって話」

 

「さて、それではいよいよ農業の開始をここに宣言する!」


「うおぉおおおお!」


 俺が耕された畑の前で堂々たる宣言をすると、ジジイの喝采と残り二人のまばらな拍手が俺を讃える。


「どうした二人とも?! テンションが低いぞ!」


 どうにも煮え切らないブライトとロトンドに問いかけると、二人は顔を見合わせて言いにくそうに口を開く。


「いやぁ、兄貴が空元気で無理やりテンション上げてるんで、見てられねぇと思ったんだぜぇ」


「多分、何かしでかしたんでさぁ」


「おふぅ……」


 二人のクリティカルな言葉の刃に俺は倒れ伏す。

 流石は俺が見込んだ二人だ。

 マルールとの初対面で初動をしくじったことを見事に見抜いてきおったわ。


 あぁ、地面がひんやりしてて気持ち良い。

 このまま俺は朽ち果てて、やがて栄養となり一輪の花を咲かせるのだ。


「どうしたシヤ?! マルールと何かあったのか?!」


「げふぅ!」


 くだらんところで聡いジジイが死体蹴りしてくる。

 心配そうにこちらを覗き込む顔もいっそムカつく。


 俺は目の前にあった畑の土を掴んでジジイの顔に投げつける。


「うわぁ、何をする! 目がぁ目がぁ!」


 もがき苦しむジジイを見て溜飲を下げた俺は立ち上がり服についた土を払い落とす。

 当たり前だけど、この世界では服は汚れるんだな。


 そういえば、奥様方が洗濯しているのを毎日見るな。

 当たり前の風景で気づかなかったが、ゲーム的には不思議な光景だったわけだ。


 俺は日常にもゲームと現実の境目があることを改めて認識しながら立ち上がる。


「さて、お遊びはここまでにして始めよう。失敗することはないと思うが、これが成功すれば、お前たちに約束した、他では食うことができない絶品の食い物を食わせてやれるだろう」


 俺はブライトとロトンドを見てそう告げる。

 ブライトとロトンドは感慨深げに頷く。


「考えてみりゃぁ、短いようで長かったぜぇ。ここまでよぉ」


「でさぁ。裏路地で大兄貴に絡まれて以来、怒涛の数ヶ月だったんでさぁ」


「待ちたまえ。絡んできたのは君たちだよ」


 確か俺のスコップを狙ってのことだったはずだ。

 思えば奇妙な出会いだった。


 俺は二人の顔を改めて見る。

 頼もしい顔をしている。


 出会った時は利用してやろうぐらいの気持ちだったが、まさかこんな仲になるとは夢にも思わなかったな。


 なんだかくすぐったい気持ちになった俺は二人に背を向け、畑を見ながら改めて宣言する。


「さぁ、農業開始だ。……ジジイのたうちまわってないで、しゃんとしろ」


「うぅ。わしが一体何をした……」


 ジジイが何か言っているが、無視して進めることとする。


「いいか? 農業の順番はこうだ。まず先ほどのようにクワで土を耕す。そしてその畑に水をまき、そして種を植える。あとは時間が経てば野菜が育つはずだ」


「たったそれだけで、野菜を作れる(・・・)と言うのか?」


 ジジイが驚きながらも懐疑的な表情で言ってくる。


「……そのはずだ。こればかりはやってみないとわからない」


「おぬしでも分からぬのか……」


 ジジイがショックを受けたように言う。

 狂信する使徒様がわからないことに驚いているようだ。


 だが実際にやってみないとわからない。

 ゲームでは今言った手順で野菜は育つ。


 だが現実の野菜はそんなに簡単なものではない。

 俺は詳しくはないが、それでも農家の皆さんが弛まぬ努力と苦労の末に野菜を作っていることぐらいは知っている。


 もしかしたらこの世界が、その手間暇を現実に落とし込んでいる可能性だってあるのだ。


 もしそうだとしたら、料理をすることも商売をすることも一筋縄では行かなくなる。


「わからないことは、やってみるのが一番の近道だぜぇ?」


 俺が逡巡を見せていると、ブライトが肩をすくめて言ってくる。


「そうでさぁ。トライアンドエラーは大兄貴の、日課でさぁ」


 ロトンドも追従する。


「そうだな、まずは検証。やってみなくちゃな。それにどんな結果になろうとも、お前たちに美味いものを食わせるのは、確定した未来だ。そこは変わらない」


 二人の励ましに弱気な心も奮い立つ。

 柄にもなくビビっちまったぜ。

 ここから始まる俺のサクセスストーリーだというのに。


「では、まずは水やりだ! みんなで盛大に、でも限りがあるので配分を考えて、畑に水を撒くのだ!」


「「「おー!」」」


 俺の号令で、皆が別れて畑に水をまく。

 言っても10メートル四方だ、大した面積でもない。

 すぐに終わるだろう。


 俺も畑に水を撒いてみる。

 するとどうだろうか。

 ひとすくいの水で畑が一気に湿ったではないか。


「いや、割合おかしいだろ」


 試しに畑の土を掘ってみると、ふかふかだった土がずっしりとした手応えを返してくる。

 掘り進めてみると、深さ三分の二程度まで土が湿っているのが分かった。


 いや、水増えすぎだろ。

 どっから湧いて出た水だ?


 しかしこれで、どうやら希望が見えたな。

 物理法則を無視したこの現象。

 農業はゲーム仕様である可能性が高い。


「兄貴、あっち側は終わったぜぇ?」


「こっちでもでさぁ」


「うむ。終わったぞ」


 三者三様に水やりの終了を告げてくる。


「よし。今回は細かい検証は後回しだ。とりあえず種を植えて育つかだけをみる」


 俺はゲーム内で一番育つのが早い野菜の種を取り出す。

 キャベツから足が生えたモンスター「シューベッツ」から乱獲したものだ。


 三人とも興味深そうに覗き込んでくる。


「こいつは一日で一気に成長する。……はずだ」


 ゲームでは簡単に作れる野菜として重宝した。

 こいつが明日になって実っていたとしたら、農業はゲーム仕様であると、一応の結論としてもよいだろう。


「一日で育つとは、不思議な植物なんだぜぇ」


「俺もそう思うよ」


 農業が主体のゲームならもっと時間がかかるんだろうけどな。

 目を丸くするブライトに俺は同意する。


「じゃあ、栄えある最初の種蒔きは、村長にやってもらおうかな?」


「わ、わ、わしか?!」


 びっくり仰天を絵に描いたような驚き方で跳ね上がるジジイ。


 なるべく農業体験をしてもらって、良い印象を持ってもらわないとな。

 村人にお勧めしてもらわないといけないのだから。


 これできちんとキャベツが育てば、これが成功体験となりドーパミンドバドバジジイ、略してドパジジとなって大層協力的になることだろう。


「さぁ、この種を手に取り土に植えるのだ」


 俺は厳かにジジイの手を取ると、仰々しく種を渡す。


「おぉお。わしが野菜作りの第一歩を……」


 ジジイは震える手で種を取り、畑の土に種を植える。

 すると1ブロック分の畑にこんもり小山ができた。

 畝は……関係なかったようだ。


 その後もゆっくりと確実に種を植えていくジジイ。

 その様はまるで、何かの神事に従事するかのような厳かさがあった。


 ゲームなら、この時点で村人が農業をすることはない。


 それどころか村長が農業をすることもない。


 なんなら、オープニングすら始まっていない。


「くっくっく」


 俺は溢れでる笑い声を抑えられずにいた。


 開発陣よ見ているか? 今まさに俺はシーケンスブレイクの極地に立っているぞ!


 なんせこの光景はプログラムの向こう側だからなぁ!


 俺は開発陣が歯噛みする姿を夢想しながら、ジジイが種を蒔く姿を眺めるのだった。


「終わりましたぞ」


 大役を成し遂げた歴戦の兵士のように報告してくるジジイ。

 まぁ、その気持ちもわからんでもない。


「よくやってくれた。これはこの世界の新たな歴史の一ページとなるだろう」


 俺も茶化すことなく、ジジイを労う。

 ジジイはそれを聞いて感極まったかのように身を震わせ、目を赤くする。


「とうとう、わしも物作りを……。一族の悲願を……」


 拳を握り締め、感慨に耽るジジイ。


「おいおい。感動するにはまだ早いぞ。そいつはキャベツがちゃんと育ってからに取っておけ」


「そ、そうですな。どうも老人は気が早くていけませんな。わはははは!」


「そうだぞ。このまま明日の朝五時まで観察しなきゃだからな」


「……は?」


 ジジイが大口を開けてフリーズする。


「ちゃんと育つか観察しないと。種植えたんだから最後まで責任持たないと」


「わしが……、ですか?」


「他に誰がやるのさ」


 ゲームでの一日は朝五時で切り替わる。

 五時を跨いだら一日経った扱いだ。

 大袈裟な話、4時59分に種を植えたら、その一分後には野菜が生える。


 これがこの世界でも有効なのか、とりあえずは検証してみないといけない。

 特にそうだったから、なんだって話だが、ゲームと同じ仕様であることを確認しておくのは大事なことだ。


「そう言うわけだから、あとは頼んだぞホロ村長001。水の補給は忘れずにな。椅子とテーブルもここに置いておく。栄養棒も置いておこう。汗を拭く用の手拭いも用意しておくし、日除も設置しようじゃないか」


 次々にアイテムボックスからアイテムを出す俺にアワアワするジジイ。


「いや、その、使徒様?」


「使徒じゃないでーす」


 だが、老体にはそれなりの負担になろう。

 なのでご褒美も用意することにした。


「ここに作業台を置いておくから、好きに物作りをして良いからね」


 最後に作業台を出して暇つぶしができるようにしてやる。

 原木ブロックをいくつか渡しておこう。積み木でも作るがいい。


「も、ももももも、物作りを自由に?! あひゃぁ!」


 奇声を上げるジジイを尻目に、俺はブライトとロトンドと共にその場を後にする。


「しっかり見張っといてねぇー。もし突然生えたら報告に来てねぇー」


 俺はジジイに手を振りながら、本日最後のイベントへ向かう。


 久しぶりの再会だ。

 どれくらい成長したかね?

 我が親友くんは?


 俺たちはひたすら、うりぷーをしばき回しているであろうグリーヴァの元へ向かうのであった。

お読みいただきまして誠にありがとうございます!


ちゃんと読めると思った方は下の☆ ☆ ☆ ☆☆を★ ☆ ☆ ☆☆こう!

面白いなと思ったら下の☆ ☆ ☆ ☆☆を★★★★★こう!

まだの方はついでにブックマークなどもお願いしたい!


いいねと感想もお待ちしております!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。