第二十五話「人生はいつだって地続きって話」
「いやぁ、面白かったなぁ。横移動は検証したから、次は高さを変えたらどうなるか検証したいなぁ」
俺は故郷での新しい発見に、ウキウキるんるんでステップを踏み、喜びをブライトとロトンドにお裾分けする。
二人は集合場所のウケモチノカミ像の前で、水を飲みながら一休み中。
その前方で俺がダンシングナウ。
「普通は帰省すると、こんなに喜ぶんだなぁ。知らなかったぜぇ」
「大兄貴は多分違うことで喜んでるんでさぁ」
ブライトは何やら関心し、ロトンドは的確に俺が喜んでいる理由を見抜いているようだ。
「大兄貴はきっと、何か面白いおもちゃを見つけたんでさぁ」
む! 合っていなくはないけど、おもちゃとか言われると、そこはかとなく非人道的な意味に聞こえるコンセンサス的なアレだから、言い回しが大切で、だからしてつまり、
「良くないぞ、ロトンド。そんなふうに言っちゃ。お爺ちゃんに失礼でしょ?」
何本、行末案ジジイが栄養棒を食べたと思ってるんだ。
協力者と言いたまえ協力者と。
「とりあえず、良くないのは大兄貴だって事は、わかったんでさぁ」
ジト目のロトンドが、俺を苛む。
確かにちょっと、調子に乗って検証してしまったかもなぁとは思わないでもない。
だがロトンドにそんなことを悟られるわけにはいかない。
上司としての威厳が危ないからな。
しかたない。ここは俺の術式を見せるしかないな……
___虚式『うやむや』
「そんなことより、ロトンド達は村を見て面白かった?」
ふっ。どうかね?
俺の見事な話題の変換に違和感を覚える隙もあるまいて。
「まぁ、良いんですがね」
ロトンドが肩をすくめて言う。
「兄貴はいつも面白いんだぜぇ」
どうやら俺には術式が使えないらしい。
一ミリも話を逸せなかったぜ。
「だけどよ兄貴。面白かったって言う話をするなら、俺は面白かったぜぇ」
俺はブライトの言葉に興味を引かれる。
この村に面白いもんなんかあったか? そう思ったからだ。
「何が面白かったんだ?」
「いや、ご婦人方だぜぇ。なんともパワフルで魅力的な方々ばかりだったぜぇ?」
「パワフルで……魅力的?」
俺の知識の中にはホロンダ村にそんな人はいないはずだが。
しかも、ご婦人方。複数形?
「どういうこと??」
俺はブライトに体験した出来事を聞き出す。
「集団で連続攻撃……ねぇ」
何がどうしたらそんなことになるんだ?
いや、もうわかってるよ?
ここはゲームであってゲームじゃない。
NPCにも役割以外のそれぞれの人生がある。
これは決して忘れてはならない、俺の戒めだ。
「だからって、なんでそんなアグレッシブな人達に?」
俺は頭を捻りに捻る。
「俺がならずものに見えるから、村を守るために団結力を見せたんだぜ。見事だったぜぇ?」
村を守るか。
村を守る意識高い系といえばグリーヴァ君だが、村の人達も意識高い系に?
「大兄貴、これは裏が取れてないんで、俺の見た感じになっちまうんですが、村の連中は皆んな、子供を守ることに注力しているみたいでさぁ」
ロトンドが捕捉情報を教えてくれる。
そういえば、こいつは情報収集が得意だって話だったか。
「子供。子供ねぇ」
ゲーム外の話になると、とんと分からん。
しかし、この話は理由を確認した方がいいと、俺のゲーマーとしての勘が告げている。
今までも、ゲームと違うところは何か理由があったからだ。
「大兄貴、ご自分の村のことなのに何でそんなに悩んでいるんでさぁ」
おっと、ロトンドに痛いところをつかれたな。
しかし、こればっかりは誤魔化しようがないから正直に言う。
「俺、ここ最近より前の記憶がないんだよね」
「「えっ?!」」
「あ、ところどころ無いにします」
覚えているというか、知ってることはあるからね。
「……でも、大兄貴。大兄貴の胆力や自信、知識は記憶がない人間のそれとは思えないんでさぁ」
ロトンドが疑うと言うより、純粋に疑問に思ったようで聞いてくる。
「それはもう、なんか説明が面倒なので、俺はそう言う生き物だと思ってください」
別に異世界から来たことを黙っているのが不誠実なわけでもあるまいし、この二人には俺の人間性は示せているだろうから、適当で問題なし!
「ふっ! アハハハハハ! そう言う人間じゃなくて、そう言う生き物と来たか!」
ブライトが膝を打って笑う。
「ぷくくくっ! 大兄貴と言う生き物! こりゃあ新発見でさぁ!」
ロトンドですら腹を抱えて笑う。
そんなに面白かったか?
「規格外なお人とは思ってたが、種族が違ったとは思わなかったぜぇ?」
「いや。人間ではあるのよ? ちょっと毛色が違うだけ」
「随分な色違いでさぁ!」
問題なく受け入れてくれるなら、何でもいいけど珍獣扱いされてるみたいでモヤモヤする。
「と言うことで! 俺は村のことをほとんど覚えてないの!」
俺は無理やり話を戻す。
「じゃあ、大兄貴。俺が調べた事実だけをお伝えしまさぁ」
そう言って、ロトンドは見聞きしたことを教えてくれた。
村ぐるみで子供を守ろうとしていること。
それは過去に何かがあったからと言うこと。
そしてその事件には俺の父親とグリーヴァの父親が関係しているらしいこと。
二人の父親は英雄と呼ばれていること。
そこまで聞いて、ゲームの設定を思い出す。
「あぁ、わかった。仮説の段階だけど。多分それ俺とグリーヴァのせいだわ」
「グリーヴァさんてのは?」
「大兄貴の幼馴染でさぁ」
そんなことまで、調べてんのか。
ロトンド侮りがたし。
「俺らがガキの頃に、冒険のつもりで村を抜け出して、モンスターがいるあたりまで遠出して、見事にモンスターの集団に引っかかって、命からがら村まで着いたはいいが、モンスターの集団は当然着いてきていてな。こんな小さな村だ。戦える奴は俺の父親とグリーヴァの父親しかいなかった」
俺には記憶もないし、会ったことも無い親だ。
設定上知っているだけで悲しい気持ちは湧いてこない。
けど、グリーヴァの父親を悼むことはできる。
グリーヴァは友達だからな。
「そして、二人はモンスターの集団から村を守った。命と引き換えにな」
「そんな事件があったから、子供が村を抜け出さないように見張っていたんでさぁ」
ロトンドも同じ結論に達したようだ。
過去のゲーム設定が、今の村人の行動原理として働いている。
設定と今が地続きなんだ。
これは、イベントを進める上で重要なファクターだ。
過去があるから今がある。
当たり前のことを失念すると、何の地雷を踏むか分からない。
「うん。二人に村を見てもらってよかった。とても大切なことを思い出したよ」
「兄貴……」
「大兄貴……」
俺は攻略の仕方を再考し、二人は俺が親を亡くしたことを悲しんでいると思ってしんみりし、しばらくの静寂が流れた。
「そうだ兄貴。こいつを話すのは、ご婦人方に不義理を働くことになっちまうんで、避けたかったんだが、兄貴が記憶喪失というなら、仕方ねぇ。言っておかなきゃならねぇ事があるぜぇ」
突然の静寂を破り、ブライトが神妙な顔で言ってくる。
義理人情を思いの外大切にする、ブライトがここまで言うんだ、余程のことだ。
「あいや、待ってくだせぇ兄貴。多分、その情報俺も掴んでまさぁ。兄貴が不義理を働くことはねぇ。俺に任せてくれでさぁ」
泥を被るなら自分がと、ロトンドの兄貴思いなところが出る。
「しかしよぉ」
「いいんでさぁ。任せて欲しいんでさぁ」
「……わかった。任せるぜ」
長年連れ添った二人だからこその短いやり取り。
まさに、ツーカーの仲だな。
「それで、大兄貴。どうやらこの村には死神と呼ばれるお人がいるらしいんでさぁ」
それを聞いて、設定で知っていたが、ゲームであってゲームでないこの世界。
胸の内に去来するこの思い。
「名前をマルールさんて言うらしいんでさぁ。気をつけた方がいいんでさぁ」
推しが村ぐるみで、死神扱いされているこの事実。
なんと、心のうちを表現してくれようか?
村人一人一人にマルールの良さを、長文お気持ちコメントしてやろうか?
「兄貴……? 顔が何というか、猛獣のようだぜぇ?」
見ると二人は俺から数本距離を離していた。
腰も引けている。
ふぅ。
いかんいかん。
仕方ないんだ。
設定だから。
ルールだからね。
怒っても仕方ないんだよ。
アンガーマネジメントだ。
数を数えるんだ。
いー
「誰が死神じゃゴラァああああああ!!!!!!!」
「うわぁ!」
「ひぃ!」
「次言ったらお前、関節という関節全部外して、表面積倍にしてから、石で丁寧に引き伸ばして、乾燥させたあとバッグにした後焼き払うからな!!!」
「う、え、お」
「あわわわ」
「返事ぃいいいいい!!!
「「わかりました!!」
ふむ。わかったならいいだろう。
他でもないブライトとロトンドだ。
寛容さも働こうと言うもの。
「お、おお大兄貴、その、マルールさんとはどう言うご関係でさぁ?」
「お前そんな、ご関係だなんてそんな、言わば憧れ的な? 応援的な? 恋慕的な? 性的な? まぁ純粋なものだよ。純粋」
「……最後に純粋じゃないものが混じってた気がするぜぇ」
ブライトがボソリというがわかってないな。
推しと言うものが。
種類があるんだよ種類が。
推しにはな。
「で、でも大兄貴」
「なんだ?」
ロトンドがおずおずと聞いてくる。
「ファムさんていう、幼馴染さんはどうするんで? 結婚するんでしょう?」
………………………………。
「はぁ?!」
何でそんなことに?
というか、ファムの名前まで調べたんだ?
いやその前に怒りに我を忘れたが、マルールの名前突き止めたのすげぇ!
でも、とりあえず、
「ねぇから! それだけはねぇから! 冗談でも言っちゃダメだからな!」
もしグリーヴァ君の耳に入ったら大変なことになっちゃう!
「はぁ、わかったんでさぁ」
ロトンドは渋々と言った感じで了承した。
この感じ、村中でそう思われてる可能性があるな。
「…………………マァ」
ん? 何か聞こえてこないか?
「兄貴なんかこっちにくるぜぇ?」
「俺にも聞こえたんでさぁ」
二人が音の方角に向かって身構える。
「……し…………さ……ぁ」
間違いない何者かが猛スピードでこちらに向かってくる!
また門番か?!
しかし今は門を持っていない!
誰だ? なんだ?!
そうこう思案しているうちに、声の主が正体を現す!
「使徒様ぁ! このホロ村長001! 一日千秋の思いで待ち侘びましたぞぉ!!」
むさ苦しいジジイが俺に飛びかかってくる。
ブライトとロトンドは相手が老人と見て反応が遅れる。
故に俺はジジイの腕を掴み、ウケモチノカミ像の水飲み場に叩き込む。
「使徒って言うなって言ったろ!!」
これからこのジジイと農業の話しなきゃならんのに、先が思いやられる。
俺は浮いてこようとするジジイを絶妙な力加減で沈めるのだった。




