「第二十一話「ゲーマーの言うシステム、システム屋のいうシステムって話」
バァアン!
扉を彼方にシュゥーーーーート!
「すいません、お宅の壺を割らせてください!」
と言いつつも、俺はダイナミック不法侵入。
中では目が点になった三人のご家族が、食卓で団欒中のご様子。
栄養棒だけでも一家団欒ってできるんだなぁ。
それを横目でみながら壺へまっしぐら俺。
「ちょっ、ちょっと待ちなさい! なんだい、いきなり!」
お父さんが椅子を蹴飛ばしながら、勢いよく俺の前に立ち塞がる。
まるで不審者に対する、勇気ある父親の行動だ。
しかし、俺は不審者ではない。
なのでもう一度お願いをきちんとする。
「壺を割らせて欲しいんです!」
「どういうことなんだ?! 意味がわからない!」
混乱の極致といったふうでも、部屋の隅で怯える妻と娘を背の後ろで守る父の鏡。
「えー、割った壺の分は新しい壺を弁償します」
「そういう問題じゃ……!」
「ちょいと、お待ちぃい!」
お父さんがなおも断ろうとしたところで、その後ろから断固とした声が上がる。
先ほどまで怯えていたお母さんだ。
こちらに指突きつけながらのっしのっしと歩いてくる。
「よく見りゃ、シヤじゃないか、アンタみたいな子がなんでこんなことを……。いや、それよりも大事なことはだよ、アンタ新しい壺って言ったね?」
もはや、お母さんの中では今までのやり取りは小事。
何故ならもっと大事なことがあるからだ。
「ええ。完全新品の未使用のピッカピカの壺です」
「割った壺と同じ数だけ、くれるのかい?」
「ええ、なんなら一つおまけしてもいい」
俺がそう答えると、お母さんがプルプル震え出す。
「オォォォオォ___」
血の底から響いてくるような声がお母さんの口から漏れてくる。
こ、怖ぇな。
おかげで、すみっこの娘さんがますます怯え出した。
可哀想なので風車をあげた。
笑顔が戻って何よりだ。
「全部わっちまいなぁ!」
突然お母さんが天に向かって大音量で叫ぶ。
覇気で部屋が吹き飛ぶ勢いだ。
「ちょ、お前何言ってんだ?!」
「馬鹿かいアンタ! 新品の壺なんて一ついくらすると思ってるんだい! 売ったら、もしかしたら憧れの、マ、マグカップが買えるかもしれないんだよ?!」
夫の胸ぐらを掴みながら力説する妻。
そして風車で遊ぶ娘。
うん。平和な団欒が戻ってきた。
「じゃぁ、壺割りますねぇ」
そうして俺はいよいよ壺の中前に立つ。
「お兄ちゃんこのつぼ、わっちゃうの?」
興味を持ったのか娘さんがやってきた。
ふむ。ちょうどいいかもしれん。
「あぁ、壺は割られるために存在しているんだよ」
「でも、私はつぼがわれてるの、みたことないよ?」
だろうね、壺を割るのはプレイヤブルキャラクターだけだから。
ついでに良い情報。
アイテムに経年劣化による破損なし。
「選ばれたものにしか割れないんだ」
「へぇ、じゃあお兄ちゃんは、えらばれたものなんだねぇ」
「うんそうなんだ」
俺は受け答えしながら、壺の中を覗き込む。
……おっとぉ? 中に何も入っていない。
試しにお嬢ちゃんに覗いてもらっても何も入っていないと言う。
「んじゃ、試しに割ってみようかね?」
「うん! みよう!」
俺は壺を持ち上げ地面に叩きつける。
「あ! なにかでてきたよ!」
お嬢ちゃんの言うとおり、薬草がオン・ザ・床。
「何もなかったのにふしぎだねぇ」
なるほど。
破壊をトリガーにアイテムが出現するのか。
だから普段は見えずにNPCに取られる心配もないと。
辻褄は合うね。
「どこから、でてきたんだろうねぇ?」
お嬢ちゃんが純粋な疑問をくちにする。
……確かに。
___アイテムってどこからきてるんだ?
魔物ドロップも、この壺のアイテムも。
女神がよこした呪い避けの指輪も。
虚空から生まれてるのか?
興味深いが、恐らく現段階では解き明かせないだろう。
俺は、気づきをくれたお嬢ちゃんに竹トンボをあげた。
悔しいが次行こう。
「あの壺は僕が子供の頃からあった壺でおもいでがッ!」
「思い出は心の中にしまっておいて、マグカップは戸棚にしまうんだよ!」
隣の壷にもアイテムが入ってるから、再検証。
「あ、お嬢ちゃんこの壷試しに割って見てもらえる?」
「えぇ? できるかなぁ?」
持ち上げるのを手伝いながら、お嬢ちゃんに壺を放り投げてもらう。
「……割れないな」
「われないねー」
その後も試したが、壺は割れなかった。
ふむ、やっぱりNPCには割れないみたいだな、壺の破壊条件に誰が割るか見たいのが入ってるんだろう。
壺でいっぱい並べたら、防壁になるかな?
いや、割れないだけでどけられちゃうか。
「んー、いまいちパッとしないなぁ」
それは、何気ない動作だった、何かを考えてのことではない、なんとなくの行動だった。
俺は壺に薬草を投げ込んだ。
そしてお嬢ちゃんも真似してその辺のゴミを入れ出した。
そして壺を___割ってみた。
「あれ?」
床に落ちているのは木の皿。
この壺から出るアイテムだ。
だが、薬草は……ない。
お嬢ちゃんが入れたゴミも。
「やくそう、なくなっちゃったねぇ? おさらと、とりかえっこになっちゃったのかな?」
取り替えっこ?
俺はこの言葉に大きな引っ掛かりを覚えた。
「取り替えっこ……交換……変換……。書き換え!」
この世界はゲームだけどゲームじゃない。
それがまだ、分かりきっていなかったか。
まず、ゲームでアイテムがドロップするプロセスはこうだ。
アイテムのドロップ抽選に当選したら、システムは膨大なアイテム一覧を参照して、該当アイテムのデータをドロップするはずの空間に書き込む。
ゲームでは、そこに何も無いのでなんの問題もない。
でも、今回は薬草が消えた。
先の話を現実に当てはめてみる。
アイテムが、空中に書き込まれる。
でも、ゲームと違ってそこには、現実ならではのものがある。
そう。空気だ。
この世界のシステムは、アイテムをドロップさせるために、壺の中の薬草と空気を消した。上書きしたのか、置換したのか。
ゲームを現実でそれっぽく再現した結果だ。
これは、ますますこのギャップに対しての注意が必要だ。
だが___
もっとも重要な情報は!
アイテム一覧のデータベースがこの世界にある事がほぼ確定したこと!
「きっとアイテムには番号が割り振られてるんだろうなぁ。うっかり、その番号が書き換わっちゃったら、イベントアイテムも作れちゃうかもなぁ! いやアイテム欄にイベントフラグいれちゃうかぁ?!」
「きゃあ!」
突然、大声を出した俺にお嬢ちゃんが、びっくりしてしまう。
これは失礼。
うりぷー人形をあげよう。
これは人に見せると盗まれるので家の中だけで遊ぶように。
高いから。
「さぁて、なにをGETしようかなぁ?!」
とその瞬間。
指が焼けるように痛み出す。
「痛てててててて!」
呪い避けの指輪がキツく締まっているのだ。
「いやちぎれるって! なくなっちゃう!」
抜けないし! なんだこれ!
あ、痛い! 超痛い!
いや、これあれか?!
「やんない! ACEはしない! 世界破壊系はしないから!」
天に向かって俺が叫ぶと、指輪の締まりがなくなる。
くっそ痛かった。
俺はその場に座り込む。
くそ、言葉に出したのが悪かった。
神のやつめ、ケチくさい。
ACEが世界を壊せる技ってだけで、アイテム改竄くらいなら許せよ。
俺は心配してくれるお嬢ちゃんに、赤べこをあげ、壺をいくつか置いてその場を後にする。
「うむ。壺は有意義だったんだが、そうでなかったんだか、わからんかったな」
まぁ、それでもいくつかは悪いこと思いついたから良しとしよう。
さて、次はNPCの習性をチェックに行きますか!
俺は家の壁に立てかけていた、村の門をブンブンと振り回しながら村の中へと向かうのであった。
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