第14話 混濁と絶望
バチバチと、視界を妙な光の線が走った。
失った、失った、失った、失った――ほぼ全てを失ってしまい、今から自分の命すら失うだろう。
ブレイダーの攻撃に剣身を砕かれた瞬間、ぼくは橋の上に崩れ落ちる。
顎に木材の硬い感触が押し付けられた。
濃霧の中で歪む視界。左ひじから先を襲う途方もない激痛と、命の雫が流れ出していく実感。口の中に血の味が広がって、残った右手の握りこぶしは握っていた力を失う。
暗くて、じめっぽくて、悲しくて、辛くて、寒くて――痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて――途方もなく痛すぎて……。
(人生の最後が、こんなにも辛くて、痛いものだなんて――)
「リアンくん……!?」
「リア~~~~ンッッッッ!!!!」
ロゼッタさんと、バルザックさんが呼ぶ声が聞こえる。きっとそう時間も待たずに、彼と彼女も同じようにこの木橋の硬い感触を頬で味わうか、底なし沼に沈んでいく絶望に呑み込まれてしまうだろう……。ぼくたちを襲った脅威はそれほどまでに圧倒的で、ぼくらに見合ってなくて、あまりにも理不尽だった。
シーアン・フォッグはやはり、冒険者が二度と帰らぬ絶望の沼地なのだ。かつての勇者が伝説を産んだかの地であり、選ばれし者以外のすべてを呑み込む絶望そのものなんだ。
(アイリ、トトくん、ロゼッタさん、バルザックさん――)
フィオーナ。栗色の女騎士の名前を思考の中で唱えようとして、ぼくはやめた。
必要のないことだと気づいたからだ。
そのブラウンの輝きは、暗き濃霧の中でも光輝いていた。
その剣閃は、全ての敵を凪払い退ける力を持ち合わせていた。
彼女だけは――現状を窮地とすらせず、その気になれば難なく離脱する……否、全員を救ってみせることさえ可能だろう。
彼女は僕らとは違う。その輝きは――まさしく僕らとは生きる世界の違う、選ばれし者の輝きなのだ――。
ぼくは――どこにでもいる普通の男の子なんだ。
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混濁する意識の中でぼくが思い出した光景は、3年前の景色――冒険者を目指し、初めてドゥーン・ロゥにやってきたばかりのことだった。




