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魔法使いの弟子 ~警視庁 公安部 異世界対策課~  作者: 鷹羽 樹
第1章 新宿召喚拉致事件

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第17話 アノセラス 1

 そこは、王の執務室としては、いささかみすぼらしさを感じさせるような部屋だった。調度品は磨き上げられ整えられてはいたが、華美と言えるようなものはなく、それだけで、その国の国情を察してしまう者もいるだろう。その王宮は敷地だけは広く庭園も屋敷前の一部だけで、まるで練兵場のような空き地が広がっており、その建物も王宮とは名ばかりで、周囲の大国の中位貴族の屋敷程であった。


 その国の名はディケル王国と言った。かつては、この国と周辺四カ国とで、一つの王国であったのだが、二十年前に起きた大陸動乱を切っ掛けとした内戦により、五つの小王国に分裂してしまったのだ。

 今では大陸内国家からは、かつての国名のまま、ディセリーク小国家群などと呼ばれ、どの小王国も周辺大国から、これまで正式に独立を承認されたことは無かった。


 北のヴェルディフ帝国は、魔道王国侵攻開始時にディセリークへゆさぶりをかけ、調略した北部国境二領とその周辺領、今の北方二国に今でも大きく影響力を残している。

 その状況を危ぶんだ、ディケル王国とは大河を挟んで面するサラスナート王国と、西の大国である、エルンディナード魔道王国は南方三国に対し、経済的援助を申し入れるが、三小王国は大陸動乱と国家分裂のきっかけを作ったサラスナートからの申し出を援助ではなく、正式な謝罪と賠償金を要求し、そして、動乱終結へと導いた魔道王国へは援助を願い出た。


 周辺大国の思惑の中で北方二国と南方三国とで、それぞれ同盟関係を結び、危うい軍事バランスを保ちながらも、大きな発展は望めないながら各国共に安定化を進めて今日に至る。

 しかし、その様に分裂したそれぞれの国であっても、その中の多くの者が、かつてのディセリーク王国復活を望んでもいたのだ。



 ディケル小王国は、かつてのディセリーク王国時には、ディケル公爵領として南方の守りのかなめを担っていた。その公爵位で分かる通りディセリーク王家の分家筋にあたる。

 現ディケル王であるベレス レグ ディケルの父親ウォルド レアム ディケルは、ディセリーク王の側妃の生んだ三男であった。当時伯爵位であり跡を継ぐ子供が女児しかいなかったディケル家に、王家は南方守護の要としての不安を覚えた。その梃子入れとして王家の三男を臣籍降下させ、公爵位を与えたのである。

 それは、大陸動乱の二十年程前のことであった。


 

 サラスナート王国が二人の勇者を召喚した、と言う情報を大陸内の各国が得た時、国際情勢は緊張しサラスナートに対し警戒心を強めた。勇者とは、いわば戦術兵器であり、その持てる力によっては戦略兵器ともなり得るのである。まさに一騎当千いや、一騎当万とも言えた。もっと解りやすく現代風に言えば、勇者の広域魔法一発が小型の核兵器に匹敵する。

 これまで過去に勇者召喚はそれぞれの国で、幾度か行われてきたが、その力は戦争での兵器としての利用のみであった。ファンタジー小説に出てくる、倒すべき世界を滅ぼす魔王などと言う存在はこの世界にはおらず、魔王と呼ばれるのは、エルンディナード魔道王国の王のことであった。


 勇者召喚から一年後、各国が危惧していた通りサラスナートの魔道王国への侵攻が始まった。それと同時にディセリーク王国に対しても牽制として、歩兵八百名、魔法師二百名を夜間の暗闇に乗じて、三百艘の小舟にて上陸しディケル公爵領へ急襲した。


 ディケル公爵を筆頭とした南部国境の三領軍がサラスナートの侵攻を食い止めている時、突然の王都からの急使が来た。王城が何者かに襲撃を受けているとのことだった。公爵は愕然とし、考えた。そして兵士二十名を王都の状況をすぐさま調べ、こちらに伝えるよう送り出した。

 王都の襲撃は、おそらくヴェルディフだろう。ここの所の軍備の増強や北方領での麦の価格の値上がりなどの兆候から警戒はしていた。それが、いきなりの王都急襲である。数百の兵を王都近くまで気付かせずに侵攻させるなど、普通はありえない。恐らく北方二領のどちらか、いや、その両方がすでにヴェルディフに攻略されていたのだろう。



 サラスナートの深夜の侵攻から二日目の夜明け前、サラスナート軍は撤退を始めた。ディケル公爵は撤退するサラスナート兵の追撃は行わせず、国境守備を再編し、その守りを堅牢なものとする。そして王都に向かう五百の兵を急ぎ編成している時、王都の調査に向かわせた兵の一人が戻ってきた。

 その報告によると王都は、ほぼ壊滅状態で、王城は倒壊したとのことだった。国王はじめ王家の人々は全員行方不明とのことであった。

 公爵はその報告が信じられずその場で呆然とするしかなかった。しかし、その後の報告にさらに衝撃を受けた。勇者が二人襲撃に加わっていたと。

 呆然とした状態から気を取り直すと、公爵はまずは最優先でしなければならない事を考えた、そして考えたくはないが、最悪の状態であった時の事も。

 公爵は許せなかった。我が国を己の欲のためにいいようにする、サラスナートとヴェルディフを。そして、自分の家族に手をかけた二人の勇者を。この落とし前は必ず付けてやると心に刻む。

 公爵は国境の警備を二領主に任せ、五百の兵と継嗣であるベレスを連れて、王都へ急ぎ向かった。



 王都に着いてその状況を見た公爵は驚愕した。王都北側の門から王城までが瓦礫の山と化している。たった数百の兵がわずかな時間でできるような状態ではない。これが勇者と言われる存在の力なのか。


 王城《《跡》》では、宰相であるサイリウス侯爵が、王家の安否捜査と王都の治安回復の指揮を取っていた。彼自身も左足を骨折したらしく、杖を突き息子のリムレウスに介助されている。

 公爵と宰相はお互いの無事を喜びあった。そして、その場の指揮を息子たちに任せると、これからのことを話し合うために、宰相の屋敷へ足を運んだ。その宰相の屋敷も北側の一棟が倒壊しており、家人によって瓦礫の撤去と下敷きになっている者の救出作業が行われている。


 屋敷の無傷であった棟の一室に入ると、宰相が切り出したのはヴェルディフの事であった。襲撃直後に魔道王国へと侵攻を開始したらしい。そして、その状況を監視させ今も報告させているとのことであった。


 公爵と宰相は、まず王都に居て無事であった領主たちの招集を行った。王都内各領主館へと人を走らせそのことを伝えた。そして、そこで分かったことは、北部国境領主とその周辺領主の屋敷がもぬけの殻となっている事であった。

 在都領主の確認を済ませると、不在の領主のもとへ手紙をしたため、急ぎ人を走らせた。出来るだけの領軍を連れて王都へ参じるようにと。


 公爵と宰相の共通の認識としては、ヴェルディフとサラスナートは《《今は》》我が国を占領しようとはしないだろうと言うことだ。どちらの国も、今は魔道王国攻略に戦力を集中させたいだろう。出来ればこのままディセリークには混乱したままでいてほしい。内乱になれば、なお望ましいことだろう。

 おそらく、北部領軍がヴェルディフの援護を受けて王都へと攻め寄せて来るだろう。近衛・王軍・領軍と編成を急がなければならなかった。


 そして内戦に突入した結果、それは泥沼化していった。


 平穏な時が長く過ぎたせいか、国境三領以外の近衛軍・王国軍・領軍全てにおいて練度不足であった。そしてそれは北部周辺領軍も同じで、一進一退を繰り返すばかりで、お互いの軍を損耗させていくばかりであった。

 公爵は南部国境領主のエレム伯爵、ダレス伯爵を中心に軍の再編を行い、そのことで幾分の勢いを取り戻し、北部領軍を王都より北へ押し戻すことができた。そして、そのまま膠着状態となった。


 魔道王国の新たな情報が伝えられたのは、そんな時であった。

 新たな魔王が立ち、魔道王国軍がヴェルディフ、サラスナート両軍を押し始めたということだった。

 その魔王の膨大な魔力量と強力な範囲攻撃魔法、頑強で広範囲に(わた)る防御魔法によって戦線は徐々に押し戻していった。


 そして、もう一人魔道王国にとって大きな存在となる人物がいた。常に魔王と共に前線にあり、その癒しの力によって前線を支え、聖女と呼ばれた女性が。聖女は、その見目の美しさと、治癒の力は欠損部位さえ蘇らせたとされ、前線の兵士たちの大きな支えとなった。

 


 ディセリーク国内の南部と北部との前線が膠着した中で、《《元》》王都では王族八人の仮葬儀が行われた。王族全員の安否は確認されておらず、未だ行方不明とされたままだが、恐らく倒壊した王城の瓦礫の下だろうと考えられた。しかし、元王都は前線に近く王城の瓦礫の撤去も遅々として進んでいない。


 この仮葬儀の事は宰相であるサイリウス候からの提案であった。全ての王族がいつまでも安否不明というわけにはいかない。公爵という王家直系の血族がいることを国内外にアピールしなければならない。近く王位継承の儀も執り行いましょうと。

 宰相の言うことも必要なのだろうと、公爵は思う。内戦によって疲弊し、これからの国内の立て直しに不安が残る中、名ばかりの王家となっても『国王』という名が国民の心の支えになれればとも思う。


 北部領側がヴェルディフ帝国の後ろ盾を得ているのに対して、こちらの南部領側はどこの後ろ盾も得られていない。援助を求めようともヴェルディフとサラスナートは敵側で以ての外であるし、東側の隣国は山脈と大森林をはさんで遠方であり、今回の動乱に関しても様子見を決めていて、あてにできそうもない。魔道王国は動乱当事者であり、それどころではないだろう。

 最悪は国を割ってそれぞれに立て直しをはかっていくしかないかもしれない。これは、サイリウス、エルス、ダレスと四人で話し合わなければなと公爵は考えた。


 宰相サイリウスのもとに、魔道王国の新たな情報が入ってきた。

 魔王がヴェルディフ、サラスナート両国の勇者を倒し、動乱は収束に向かうだろうとのことだった。さらに魔王はこれから立ち合いのもと、両国の召喚陣の破壊、召喚に関する魔導書の破棄を確認し、召喚魔法を禁術とすると宣言したとのことだった。





 その部屋は王の執務室というには、あまりにも質素な部屋であった。その執務机に病に倒れた王の代理として、若き王太子が座っていた。その横には王太子と同年代の側近が立っている。

 執務机の前には、その国の宰相が立ち王太子と言葉をかわしていた。しかし、王太子のとある一言で、宰相は顔色を変え声を張り上げた。


「なりません! それだけは絶対になりません! それは禁術です!」


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