第16話 仮称 新宿召喚拉致事件 2
慎一郎はテントの中に入ると、中の皆に向かって話した。
「被害者の身元が判明したので報告しておく。藤枝孝太郎 二十一歳、木下慎吾 二十一歳、この二人は早生多大学の三回生だ。そして石田茂雄 二十八歳、彼は明日我々の所、外事五課に異動の警察官だ。橘、石田には君を指導員として考えていた。一足早い現場研修となるが、彼のことはよろしく頼む」
「ハッ、了解しました」
橘は慎一郎に敬礼を返した。
慎一郎は、四人目のメンバーである進藤竜樹と向き合うと次のように指示を出した。
「進藤は、外務省からのお二人の警護を頼む」
「ハイッ、了解しました、カチョー」
進藤は慎一郎に敬礼を返した。
その、外務省からの交渉官二人はというと、テントの中に入ると、五課のメンバーの邪魔にならない様に端により、肩に下げたダッフルバッグを下した。そしてバッグを開け、中からホルダーに入った自動拳銃を取り出すと、銃を抜き手に取った。その銃は、SIG SAUER P226 であった。
弾倉を抜き弾丸を確認するともう一度挿入し、スライドを引き薬室に弾丸を送る。デコッキングレバーを押しハーフトリガー状態にすると、セーフティーボタンを押して、トリガーが固定されたことを確認するとホルダーに戻し、そのホルダーを腰のベルトに下げた。
再びバッグの中から取り出したのは、二本刺さった拳銃の弾倉ホルダーだった。それをベストに付いたモールの左腹部に下げる。
さらにバッグの中から、今度は五十センチ程の巾着袋を取り出す。その袋を開け中から取り出したのは、機関拳銃 H & K MP5だった。バッグからもう一つの巾着を取り出すと其処から二連マガジンと二連マガジンが二本刺さった、やや大きめなホルダーを出し、ホルダーは右腹の部分につけた。残ったマガジンをMP5に差し込むと、コッキングレバーを引き、セレクターを安全位置へと入れた。
その一連の流れを、慎一郎と進藤は驚きながら見ていた。
「カチョー、この人たち護衛いらなくね」
「ああ、そのようだな。小田さん、その銃器は一体…」
慎一郎は、進藤に答えると、すぐさま交渉官の一人、小田優一に尋ねた。
すると慎一郎の問いに小田はニヤリと笑うと、
「まあ、外交官にもいろいろあるんですよ。いろいろとね」
首にかけたストラップにMP5を下げながら、そう答えた。
これは突っ込んで聞いたらいけないヤツだなと思い、この話はこれまでとした。
気を取り直し、慎一郎はイシェリナに声をかけた。
「イシェ、どうだ?。転移元へは辿れそうか?」
イシェリナはテントのほぼ中央部分で、転移元への魔力の流れをたどっていた。
ヘルメットとネックカバーを外したイシェリナは、両ひざをつき両手のひらをアスファルトの地面へとかざしている。その両手の先の地面には直径三十センチほどの魔法陣が輝いていた。
「もう少しかかりそうだけど、辿れそうよ。それと、どうもこの魔力の波動と色は、覚えのある所のようね。アノセラスよ」
慎一郎は『アノセラス』と言う名を聞いて思わず呟いた。
「そうか、アノセラス世界か…」
サングラスとマスクの下の顔は苦い顔をしているようだった。
テントの入口横に立っている橘も、マスクを下した顔をあからさまにしかめさせて、「チッ!!」と舌打ちをした。
三人の様子を横で見ていた進藤が橘に聞いた。
「ソーチョー、アノセラスってなに?」
橘は、込み上げた怒りを抑えるように、一度大きく深呼吸をすると、怒りの和らいだ目で進藤を見て言った。
「進藤には、まだこの話はしていなかったかな。俺とひふみが召喚された国のことは、話してやったことあったろ。その国と課長が召喚された国は、別々の国ではあったけど同じ世界上のことだったんだよ。どうも召喚魔法や召喚魔法陣がその世界中に拡散されてしまっててな、召喚獣ならともかく、それまでも散々人を召喚しまくっていて要注意世界なんだよ。でも、その世界自体に名前が付いてなくて、他と区別する為に課長が付けた名前なんだよ。アナザーアースをアルファベットで書いて、読み方変えたものなんだ」
橘はポケットからスマホを出すと、アプリのメモ帳で ANOTHER EATH と書くと指差しながら読み方を教えてあげた。
ANOTHEREATH
進藤は橘のスマホの画面を見ながら呟いた。
「へー、そうなんだー。でも、チープだよね」
「バカ、そんなこと言うんじゃない」
橘は進藤の口を慌ててふさいだ。
「いいんだよ、シンジ君。それは私も思っていたことだから」
橘の後ろで、慎一郎はそう呟いた。
橘は、その声を聞くと背筋が伸び、進藤の頭をつかむと一緒に頭を下げた。
「すいませんでした!」
その時、イシュリナが慎一郎に声をかけた。
「シン。捕まえました、いけます」
慎一郎はその声を聞いてテント内の皆に呼びかけた。
「よし、みんな私の近くに」
皆が、慎一郎とイシュリナを囲むように集まった。
慎一郎はイシュリナの背に手を当てると、彼女の魔力波と精神波に自分のそれを、同調させていく。慎一郎の脳裏には、今、イシュリナが感じ取りイメージしている転移先への魔力のラインが、同じように映し出された。その魔力のラインは時間と共に細くなっていき、あと幾らもしないうちに途切れてしまうだろう。その魔力ラインを安定させるために、慎一郎の魔力をイシュリナを通して送り込んでいった。そして、転移先までの魔力の安定を確信すると、
「行くぞ」
慎一郎を中心に金色に輝く二メートル程の魔法陣が足元に現れた。魔法陣はその中にいるもの全てをその光で塗りつぶすように輝くと、六人と共に消失した。




