第15話 仮称 新宿召喚拉致事件 1
その日、地上波テレビ放送局の全てで緊急事件速報として、ほぼ一斉にテロップが流された。
『本日 午前十時頃 新宿歌舞伎町一丁目路上にて 衆人環視の中 三人の人物が消失する事件が発生しました』
とある放送局の朝のワイドショーでは、番組内容を中断してこの速報を司会者はつたえた。
「えー、速報が入っています。本日、午前十時頃、新宿歌舞伎町一丁目で多くの通行人の居る目前で三人の人物が消失する、という事件が発生しました。これは、未確認情報ではありますが、三人は男性三人であったという情報も入っています。それと…。これは、警視庁詰めの記者からの情報ですが、庁内ではこの事件の事件名がすでに出ている様です。それは、『仮称 新宿召喚拉致事件』と言われている様です。〇〇さんこの事件について、いかがですか」
司会者は、コメンテーターの一人である、元警視庁刑事であり現在、犯罪アドバイザーをしている人物にコメントを求めた。
「詳細な情報がまだ何も出ていないので、何とも言えませんが、ただ一つ引っかかるのが、本庁内で事件名がすでに出ている事ですね。通常は事件が発生して所轄の警察署、今回の場合は新宿署ですが、捜査本部が置かれます。それから事件名が決められ発表されます。しかし、今回の場合、本庁で記者が取材してこちらに情報が届いた時間を考えても、本庁内ではすでに名称が決められていたと考えられます。これは、この事件が起こる事の事前情報が、本庁内にあったのではないでしょうか」
「〇〇さん、ありがとうございました。そう言えば、以前ご紹介した話題の動画の中に、新宿の発光現象と言うのがありましたね。
動画用意できる? そう。 えっ、事件のものが?
どうやら事件の動画が入手できたようです。そちらをご覧頂きたいと思いますが、その前に新たな情報が入りました。
警視庁と政府は今回の事件において、合同の記者会見を午後一時三十分より開くことを発表しました。警視庁と政府は今回の事件において、合同の記者会見を午後一時三十分より開くことを発表したとの事です。
さて、この動画は偶然そこに居合わせた方がスマホで撮影されたものだそうです。それでは、ごらん頂きましょう…」
インターネット上では、SNSを中心に午前十一時頃より事件の動画は拡散し始め、その日の昼十二時には、『新宿人体消失』、『新宿事件』などがバズワードのトップに躍り出ていた。
そして、その動画は瞬く間に全世界へと拡散されていくのだった。
茂雄たち三人が消えた現場前の靖国通りは、区役所通りを中心に東西五十メートルずつ、左側二車線規制され、PCを始め警察車両が路肩に列んでいる。その車線規制により、四車線道路が二車線へとなったボトルネック状態で徐々に渋滞も始まってきていた。
現場に面する反対車線の路肩には、報道関係の車両が列びカメラを現場へと向けてその動きを注視していた。
三人が消失したと思われる場所には、三メートル四方に、パイプで骨組みが組まれテントの様にブルーシートで覆われて中の様子を隠している。今はそこに鑑識課員と思われる職員が出入りしていた。
その現場に新たなサイレン音が聞こえてきた。音の切れ目のずれから二台がこちらに向かって来ていると思われた。明治通りから靖国通り交差点を抜けていくパトランプの回転灯が現場からも見えた。どうやら渋滞を避けて、五丁目交差点から区役所庁舎前まで抜けてくるようだ。サイレン音とパトランプの光が区役所通り上を徐々に現場へ近づいて来る。サイレン音が止まると、二台の覆面パトカーは現場前の横断歩道手前にとまった。その一台は白の小型のセダンで、パトランプを外してしまえば一般の乗用車にしか見えないだろう。もう一台は、これも白いワンボックスカーでパトランプが無ければ営業車両にしか見えない。
前にとまった白いセダンから、運転手が降りてきた。外事五課長の神宮寺慎一郎であった。彼は紺色のキャップにサングラス、黒いサージカルマスクをしている。ネクタイをしているが、スーツのジャケットの代わりに紺の防刃ジャケットを羽織っていた。その背中には、S . A . C . T . Summoning and Abduction Countermeasures Team とあった。
セダンからは、さらに二人が降りてくる。二人ともアサルトスーツにブーツ、防弾ベスト、ヘルメット、そしてネックカバーをし、それを目の下まで引き上げて顔の下半分を隠している。手には武器の類は持っていない。
後ろのワンボックスからも三人が降りて来る。運転席から降りてきたのは長身の男で、前の二人と同じ装備を付けているが、唯一彼だけが八九式自動小銃を持っていた。後ろから降りてきた二人は、スーツにネクタイ姿の上から防弾ベストにヘルメットを着けている。そして、二人とも肩からダッフルバッグを下げていた。彼ら二人は、外務省から派遣されてきた加害国家との交渉官だ。
彼らの仕事は、外事五課が三人を救助した後からが仕事となる。今回の召喚拉致した相手が個人や犯罪組織であった場合は、そこの国の官憲に引き渡し、そこからその国に対し、我が国の国民がこれだけの被害を受けたと訴えて、被害者と、そして我が国にたいしての保証を《《有利に最大限》》引き出すよう交渉しなければならない。これが、被疑者が国家であった場合は二つのパターンが考えられる。一つはまともに交渉できる場合。これはこのまま交渉に入れば良い。しかし、もう一つの場合。相手がもともに交渉できない、ならず者国家であった場合だ。この場合、相手は力ずくでこちらを消しにかかってくるかもしれない。その時は外務省の二人だけでは力不足であるので、五課の力を借りることになっていた。
「それでは、状況開始する」
慎一郎がメンバー全員に声をかけた。
今回のメンバーは総勢で六名。外事五課から四名、外務省から二名である。五課の残りのメンバーは事務所での警戒待機となっている。まだ渋谷、上野と、ここ新宿と同じような残留魔力を残している要警戒地点があるためだ。
その、残留組の一人である千堂一二三は、午後に行われる警視庁と政府の合同記者会見に、召喚拉致被害者の一人として出席して自身の経験を語る予定だ。
千堂とここに居る橘は、同じ異世界の国に『奴隷勇者』として召喚され死ぬほどの扱いを受けて来たのだ。まさに二人が死にかけていたところを、慎一郎と現メンバーのリアとイシェリナとで救い出したのである。
慎一郎は、ブルーシートのテントに近ずくと、テントの内と外とで鑑識捜査をしている鑑識員達に声をかけた。
「これから外事五課が調査に入る。鑑識員は、外に出るように」
テントの中にいた鑑識員たちが外に出ていき、数メートル離れたところで他の鑑識員たちと集まると、こちらを見ながら何か話している。
慎一郎がシートをめくり、中を確認しようとした時だった。
「神宮寺警視正、少々よろしいでしょうか」
後ろから声を掛けられ、慎一郎が振り向くと、そこには四十台半ばと思われる、屈強な体つきの目つきの鋭い男性が立っていた。その後ろには三十台前半だろう男性がいる。おそらく本庁の捜査員だろう。
「ああ、ちょっと待ってください」
慎一郎は、手を挙げて男性が何か言おうとするのを遮ると、後ろにいるメンバーに声をかけた。
「橘、皆を中に。イシェは走査、追跡を始めてくれ」
メンバーが全員中に入るのを確認すると、後ろの男性に振り返り声をかけた。
「お待たせしました。それで、何か?」
男性は頭を下げると、後ろの男性も頭を下げた。
「私は本庁捜査一課の近藤と言います。被害者三名の身元が分かりましたので、お伝えに来ました」
近藤刑事はスーツの内ポケットから手帳を取り出すと、それを開き言葉を続ける。
「まず一人目は、藤枝孝太郎 二十一歳 早生多大学三回生です。二人目は、木下慎吾 二十一歳 同じく早生多大学三回生です。それで、三人目なのですが…、石田茂雄 二十八歳 警察官 明日、警視正の所、外事五課に異動予定のヤツなんですわ」
「はぁ?!」
慎一郎は思わず声を上げてしまった。目を見開き、口もあんぐりと開いてしまう。サングラスとマスクをしていて良かったとつくずく思ってしまった。
それと同時に、おかしさが込み上げてきて、思わす笑いが出てしまった。
「クッククク、アッハッハッハッハッハ…」
「警視正、押さえてください。マスコミがカメラを向けています」
近藤刑事が慎一郎をたしなめた。
「クックックックッ。いや、彼は持ってますねぇ。ちょっと早い現場研修という所でしょうか。彼にとっては良い実地修練になりますよ。近藤刑事、情報ありがとうございました。それでは私はこれで」
慎一郎ほテントの中へと入っていった。




