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魔法使いの弟子 ~警視庁 公安部 異世界対策課~  作者: 鷹羽 樹
第1章 新宿召喚拉致事件

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第14話 若手警察官の不運~Involves~

 石田茂雄は、小田急線改札を抜けて新宿駅西口出口に向かっていた。地下道を地上へと抜け、あえて近い小田急西口側へと出てきた。地下道を歩いて行っても目的とする青梅おうめ街道に出る事は出来るのだが、迷いそうな気がして不安になってしまったのだ。

 地上に出ると、左手に路線バスの並ぶロータリーを見ながら進み、その先のT字路を左へ折れる。

 

 あと少し歩けば青梅街道に出るか、と言う所で、ポケットの中でスマホのバイブが振動している事に茂雄は気が付いた。すぐさまスマホを取り出し、画面を見ると伊藤先輩からだった。今はまだPC(パトカー)乗務中の筈だ。茂雄は直ぐに通話を押した。


「はい、石田です」


『伊藤だ。すまない、事件が発生した。戻りは昼過ぎになりそうだ。終わったら連絡いれる。話し聞いてやれなくて済まない』


「いえ、気にしないで下さい。ありがとう御座います。電話切って下さい」


 通話は切られた。

 業務中の私用の通話は厳禁だ、同乗の先輩乗務員にお願いしてさせて貰ったのだろう。もしかしたら始末書を書くことになるかも知れない。自分の為に申し訳無いことをした。今日は伊藤と会えなさそうなので、次の機会にでも菓子折りを持って挨拶にでも行こうと茂雄は思った。


 茂雄は、新宿警察署に向かって歩いていた。今の茂雄の姿は、スーツにネクタイと普段の通勤時の服装だ。今日は公休日であるのに何故スーツ姿かと言えば、自分の勤務地ではないが警察署内に入るから何となくと言う、曖昧な理由だったりする。今の茂雄の姿は営業職の会社員が営業先に向かって歩いている姿に見えなくも無かった。


 新宿警察署には、今回伊藤が異動した、第二自動車警ら隊の新宿分駐署が併設されている。

 第二自動車警ら隊は、二自ら(にじら)とも呼ばれ、警視庁直属の都内を四つの管轄区に分けた、所轄を跨いだ広域をパトロールする自ら隊の一隊である。そこに選抜される基準も厳しく、所轄PC(パトカー)乗務員の多くが望み、大きなステップアップの一つであった。


 茂雄と伊藤の異動辞令は、ほぼ同時に出ていた。しかも三月の定期的なものでは無く、五月も半ばになってからの変則的なものだ。しかし、中途な時期の異動も全く聞かない事では無かったのでそれは良しとしよう。伊藤の異動については、自ら隊は本人が異動希望先として提出していた事もあり、何ら思う所はない。いや、茂雄も自ら隊は希望先として出していたので、むしろ羨ましさを感じる程だ。


 だが、茂雄が引っ掛かったのは、その自身の異動先であった。今回の異動先は公安部外事課である。

 公安部は政治•思想的背景を持つ集団犯罪や特殊犯罪を対象として調査、情報収集等を主として活動しており、外事課はそうした背景を持って日本に入って来る外国人等を対象とした部署だ。

 所轄地域課のPC(パトカー)乗務を主としてやってきた自分が、今回の異動に疑問を持ったとしても不思議では無いだろう。


 茂雄はこれまで伊藤には、同じ課の後輩として色々と相談に乗って貰っていた。今回も伊藤に話しを聞いて貰いたかったと言うこともあり、今日はこれまでの礼を兼ねて、茂雄持ちで食事でもと誘ったのである。もちろん本音を言えばそれだけでは無い。本庁に居る、やたらと噂話や情報に詳しい伊藤の従兄弟いとこが何か聞いて居ないかを知りたかったのである。あと、自分も希望していた自ら隊を、あわよくば見学出来ればとも考えていた。


 今の伊藤からの連絡で、今日の予定は無くなってしまった。さてどうした物かと腕時計を見ると、まだ午前九時半にもなっていない。伊藤が今日は第二当番日(当直日)であると聞いたので、その終業時間の十時より、少し早めに着くように出たのである。

 茂雄は、自ら隊の見学と伊藤以外の隊員の話しを聞くチャンスを逃した事を残念に思いながら、新宿署とは反対方向の大ガードに向かって歩き出した。


 茂雄は、異動初日となる明日までに、何か必要な物は無いか考えながら歩いた。今度の異動先は公安部である為、その性質上、制服を着ることは無くスーツや私服がほとんどだろう。スーツ一式は支給の申請をするとして、私服の規定はどこまでか明日聞けば良いだろう。捜査、調査が主としたものとなる為、外歩きが多くなるだろうから、シャツや下着類は数枚ロッカーに置いておいた方が良いかもしれない。


 さて買い物をしようか、と思っても現在の時間は九時半を少しばかり過ぎたあたりだ。デパートや衣料品店は、もう少し時間を待たなければ開かないだろう。

 そう思いながら、新宿大ガードをくぐり抜けた時、百メートル程先の赤い看板が目に入った。

 おお、新宿にはアレがあった。激安の殿堂をうたっている、二十四時間営業の店が。


 茂雄はそのままドン•○ホーテに入ると、雑然と列べられた陳列棚の間を歩いて回り、衣類売り場を探した。他の並べられている商品を眺めながら、しばらく歩いて回り、Tシャツと下着の棚を見付けると、三枚パックになったクルーネックのTシャツを白と黒を一組ずつ、二枚パックのボクサーパンツを二組取ると、レジへと向かった。


 レジはさほど混んでは居らず、いま精算している客が終われば、自分は手に持っている物だけなので直ぐに精算は終わるだろう。

 前の客の精算が終わり、レジ前が空くと、茂雄は手にした商品をレジ台に置き、有料の大き目のレジ袋を店員に頼んだ。

 店員が商品をスキャンして、直接レジ袋に入れてもらっている間に財布を取り出し、一万円札をレジ台上に有る受け皿へと置いた。店員が商品を袋に入れ終わり、金額を茂雄に伝えて一万円札を取り、精算を始めるのを見て、茂雄は黄色い袋の商品を手に取り、袋の上の部分を折り畳むと左脇へと抱えた。

 店員から、つり銭とレシートを受け取ると出口へと向かった。


 店の出口を出ると、歩道脇に寄り足を止める。

 さて、これからどうするか? あと買うものは異動先の挨拶用の菓子折りくらいか。しかし何処で買おうか? 取り敢えず歩きながら考えるかと、靖国通りを四ツ谷方向に向かう。

 時計を見ると、あと少しで十時になろうとしていた。この時間なら何処の店も開いて居るだろう。

 少し歩くと、反対車線側に立ち並ぶビルの少し先の方に伊○丹デパートの看板が見えた。ああ、あそこなら間違いないだろう。高級菓子店なら多く入っているはずだ。食品なら本館に行けば良いのか?

 取り敢えず、この先の区役所通りの信号で反対側へ渡ろう。


 そう思って区役所通りまで来ると、通りの向こう側でいささか不審な動きをする、二名の人物がいた。

 一人は屈み込んで何かをしており、一人はその横に立って周囲を伺っている様に見える。

 二人は、どちらも二十代前半、立っている方は身長百七十から百七十五センチ、服装はジーンズにプリントTシャツ、紺のシャツを羽織っている。髪は耳に少し掛かる位の長めの短髪。眼鏡を掛けている。屈んで居る方は、身長は恐らくもう一人と同じ位だろう。ジーンズに緑色のポロシャツ、髪は短髪だが上部がパーマなのかカールしている。丸い眼鏡を掛けている。

 茂雄は、何時もの職務の様な感じで職質を掛けようと近付いて行った。

 しかし、近付くにつれ相手の言葉が微かに聞こえてくる。


「………もう無いよなぁ」


「………残って無いんじゃないか………」


 その言葉が聞こえて来た時、落とし物を探していたのかと判断し、そのまま二人の脇を通り抜けようとした。


 屈み込んでいた方の後ろを通り過ぎようとした時、彼は急に立ち上がり、身体をこちら向けると一歩踏み出した。その拍子に彼の左肩と茂雄の左肩が当たってしまい、茂雄の抱えていた荷物を落としてしまった。 


 ぶつかってきた彼は、慌てて茂雄の荷物を拾い頭を下げた。


「すみません。不注意でした。申し訳有りません」


「すみませんでした」


 もう一人の男性も、彼の後ろで頭を下げた。


「いえ、お気になさらないで下さい。こちらも注意不足でした」


 相手はゴロツキでも犯罪者でも無い。事を荒立てるつもりは全く無いので、茂雄はそのままその場を離れようとした。




 その時だった。茂雄達三人の足元に光の円が、まるで傘を開いたかの様に展開すると、ゆっくりと回り始める。直径は三メートル程だろうか。

 円の内側には文字の様なものが、複雑に交差する線と共に描かれており、光の強さと回転速度が徐々に増してきている様だ。


 周りを歩いていた歩行者はと言うと、光が発生した時は悲鳴を上げて足を止めた女性等も居たようだったが、今は離れて遠巻きにしてこちらを伺っている。多くの者がスマホを取り出し、この様子を動画に収めようとして居る様だ。


 円の内側の回転速度と光量が増して行くにつれて、茂雄はこれはマズイと思い、持っている荷物の持ち手に腕を通して落ちないようにし、二人の腕をしっかり掴むと、円の外に出ようと歩き出した。

 しかし、光の円の方は三人を逃すまいとするかの様に動きその内側に収めようとした。


 そして、その回転速度が目で追えぬ程の速さとなり、眩い光が三人を覆い尽くすと、その光は急速に一点に収束し消えた。


 そこには、三人の姿は無かった。


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