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魔法使いの弟子 ~警視庁 公安部 異世界対策課~  作者: 鷹羽 樹
第1章 新宿召喚拉致事件

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第13話 集団消失

 大学の研究棟を出て、キャンパス内を門に向かって歩いて行く。空を見上げれば、いつ降って来るかと心配になる様な曇り空だ。

 藤枝孝太郎は、傘を持ってこなかったことを少しばかり後悔しながら歩を進める。

 彼はスマホを取り出し、天気予報のアプリを表示させ確認すると、雨は昼過ぎからとのことで少しホッとする。


「おーいコータロー。待ってくれー」


 後ろから小走りに駆け寄って来て声を掛けるのは、同じゼミ生の木下真吾だった。

 彼ら二人は、ここ早生多ワセタ大学の理工学部、応用物理学科の三回生だ。

 明日の午前中が提出期限である実験レポートを、前日の今日朝一で提出しようと考えたのだが、二人共同じ考えだった様だ。

 これで、この後の一日は完全フリーになった事で孝太郎は、少し買い物でもして、帰ろうかと考えていた。


「シンゴ、俺は新宿駅まで歩いて行くけど、お前はどうする?」


 研究実験とレポート書きとで、この十日余り机に齧り付きっ放しであったので、運動代わりとまでは行かないだろうが、少し歩いておこうかなと孝太郎は考えていた。距離にすれば、地下鉄の駅で二駅分およそ三キロメートル程だろうか。孝太郎の足ならば三十分程だろう。


「あー、そうだなー。俺も少し歩くかなー。ここんとこ実験とレポート書き三昧だったからなー。なぁ、孝太郎は朝は食った? 俺、ハラ減ったんだけど」


「朝は食って来たけど、少し位なら付き合うぞ。何食いたいんだ? 歩いて駅の近くに着く頃には、何処の店も開いてる時間になってるだろ」


 孝太郎と真吾は、キャンパスから学術院棟の玄関口をくぐり、正面の大通りへと出ると右へと進んでいく。


「何食おっかなー。ガッツリ食っときたいってのもあるんだよなぁ。うん、なんか牛丼の気分になって来た。よしも屋の牛丼で決まりな。あぁ、牛丼イメージしたら余計腹が減ってきたよ」


 真吾は右手で腹を擦りながら、孝太郎の右を並んで歩いている。

 孝太郎は、袈裟懸けにしているワンショルダーのボディーバックを、くるりと身体の前に回すと、そのサイドポケットから、個包装された十円玉大のブドウ糖タブレットを二個取り出し、真吾へ渡した。


「ほれ、コレやるから取り敢えずそれでしのいどけ」


「おぉ、サンキュー孝太郎」


 真吾は貰った一つの包装を破り、タブレットを口に放り込む。そして、それを噛み砕き飲み込むと、直ぐに二個目を口に放り込んだ。そして、それをゆっくりと舐め溶かしていった。


「よしも屋なら歌舞伎町の入口のところだな。

 真吾、ほかの牛丼屋ならすぐ近くに有るぞ。どうする」


 孝太郎は、スマホのマップアプリを開くと、牛丼屋の位置検索をかけて真吾に言った。


「うーん…。いや、やっぱよしも屋だ。そう、囁くのだオレのゴーストが」


「いやお前、そのネタは相当古いぞ。俺は知ってたから良いが、ウチの学部の人間はマンガもアニメも見てない様なのばっかだから、聞いてない振りしてスルーされて終わりだぞ」


「かーっ、イヤダイヤダ。こんな話出来るのオマエ位しか居ないんだもん。つまんねーつーの」


「まぁまぁ、そう言うなって。皆んな良い研究成果を残そうと頑張っているんだからさ。

 でもなぁ、気分転換の為にSF小説やアニメを見るのをお勧めしたいってのはさ、それだけじゃなくて研究のヒントに成りそうな()()が話の中にポロポロと有ったりするんだよなぁ」


「ああ、それは、俺も思う時あるわ。物語の中の事だけど、こんな事出来たらとか、こんな物が有ったらとかさ、今自分がやっている研究がそこに繋がっていくって考えるとモチベーションアゲアゲじゃんか。よし、ミ○フスキー博士にオレはなる!」


 真吾は、そう言って両手の拳を万歳をするように上げると、アハハハと笑った。


「そこは海賊王だろ。それに、何でアインシュタインやオッペンハイマーじゃ無くてミノ○スキーなの。いきなりガ○ダムかよ。あと甲殻どこ行った。はぁ、突っ込みすぎて疲れるわ、もう」


 孝太郎はため息を吐きつつ、真吾の肩をどつく。


「アハハハ、痛いよ。口から 魂 (ゴースト)が抜けちゃうよ、アハハハハ…ゲホゲホゲホ」


 真吾は、笑いから急にむせ始めてせき込んでしまう。

 せきも落ち着くと、ふと何かを思い出したかのように、慎吾は孝太郎に言った。


「ゴーストと言えば、これから行くよしも屋のすぐ近くで、不思議現象が起きてたのしってた?」


 真吾は、ポケットからスマホを取り出すと、とある動画サイトを表示させる。そして視聴履歴から、一つのショート動画を画面に映し出した。

 そこに映し出されているのは、自分達も良く通る靖国通りの歩道上だった。友人同士で会話をしながら歩く撮影者の、五メートル程先のアスファルトの地面に、直径三十センチ程の円形の光が張り付くように淡く光っている。撮影者がその光にカメラを向けて近付くにつれて光は弱まり、一メートル程まで近付くと消えてしまった。時間にすると一分も無いだろう。

 孝太郎がその動画の表題を見ると『恐怖 新宿でナゾの発光現象を目撃!』とある。


「えっ、何これ。ここ区役所通りのとこじゃん。何時のことなのこれは」


 動画の画面からは、アップされた日付の情報などは分からなかった為、孝太郎は真吾に聞いた。

 真吾は、手にしたスマホに、その動画のコメント欄を表示させると、指で画面をスクロールして一番最初に書き込まれたコメントを表示した。


「ほら、これ見てよ。十二日前ってあるでしょ。その動画が編集されて翌日アップされたとして、考えられるのは先々週の週末じゃないかな」


「俺たちが先輩たちと四人で、ゴールデン街に飲み行ったの先々週の土曜日だったよな?」


「そうそう、もしかして俺たちも “ソレ” を見ること出来たかもね。まぁ、アップ日やコメントのタイムラグを考えると、前日だった可能性も有るけどさ」



 孝太郎達は、大久保通り、東新宿駅を通り過ぎ、その先を花園神社の方に歩いていく。



 孝太郎は、真吾と先輩達の四人で、ゴールデン街を出た後の事を思い出しながら真吾に言った。


「同じ日だったとしても、あの時の状況じゃそれどころじゃ無かったと思うぞ」


 孝太郎達四人が、ゴールデン街の小さなカウンターバーを出て、神社の裏を抜けて靖国通りに入った時だった。


「ド○キ•ホーテに突撃だー!」


 それまで酔いのせいか無口になっていた先輩の一人が、そう口走ると、いきなり走り出したのである。慌てて三人で走って追い掛けるが、当の先輩はドン○•ホーテの店舗直前で力尽き、カードレールに寄りかかり座り込んでいた。走ったせいで酔いが更に回ったのか腰を下ろしたまま、立てなくなってしまっていた。

 三人は、その場で水を買い与えたりと、しばらく介抱する羽目になったのである。



 孝太郎と真吾の二人は、靖国通りを右へと折れると歌舞伎町方向へと歩いた。二分程歩き、区役所通りの手前で足を止める。


「この辺かな? 痕跡なんかもう無いよなぁ」


 真吾は、屈み込んで地面の痕跡を探している。


「もう二週間も経つからなぁ。雨も降ってるし、何も残ってないんじゃないか」


 孝太郎は、周囲を見回しながら真吾に言った。


「孝太郎は何だと思う?」


「さぁなぁ。一昔前ならプラズマだって言ってた先生がいたなぁ。否定はしないけど。

 ここで痕跡を探しても、たぶん何も出ないよ。通行人の邪魔になるし行こう。腹減ってるんだろ?」


「そうだな。歩いて来たから余計ハラ減って来たー」


 真吾は勢い良く立ち上がり、身体の向きを変え一歩踏み出そうとして、歩行者の男性の肩とぶつかってしまった。その為に男性は左手に抱えた黄色い袋の荷物を落としてしまった。

 男性が落とした荷物を真吾は拾い、男性に渡すと頭を下げた。


「すみません。不注意でした。申し訳有りません」


 孝太郎も真吾の後ろで頭を下げた。


「すみませんでした」


 男性はスーツ姿の会社員の様だった。髪は短く刈り込み中肉中背と言ったところだろうか。


「いえ、お気になさらないで下さい。こちらも注意不足でした」


 そう男性が言い、立ち去ろうとした時だった。



 三人の足元に、まるで傘を開く様に三メートル程の光の円が展開した。円の内には文字の様なものが複雑な線と共に描かれており、ゆっくりと回転している様だ。

 

 周囲の歩行者は皆この光の円から遠ざかり、遠巻きに、こちらを眺めている。多くの人がスマホを取り出し、この様子を動画に収めようとしていた。


 円の内側の光が徐々に強まって行き、その回転も早くなって行く。

 会社員の男性は、二人の腕を掴み、円の外へ出ようとした。しかし、円は三人を逃すまいとするかの様に移動し、三人を円の内に収める。


 円の光が、一際(ひときわ)強く輝き、現れた時のように急速に収束すると、三人の姿はそこには無かった。


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