好きVS了
ぼくには、前から好きな人がいた。ただし、ずっと好きなわけではなかった。嫌いな時もあった。だけど、概ね好きだった。
これは――好きという感情なのか、と思ったことはあった。ただし、それは長くは続かなかった。いつしかぼくは、感情に対して懐疑的になった。
まるで、決闘時に睨み合う戦士のような目つきで、やつのことを見るようになった。目の敵にしていたのだ。この感情は、嫌いなのではないか、とも思った。
もし、あらゆる気持ちが表裏一体の四字熟語で説明できるのだとしたら、そんな簡単に説明できるのだとしたら、これほど、わかりやすいことはない。難解にはなっても、これほどまでに、わかりやすい言葉はないだろう。
表があれば――裏もある。まさにアンビバレンス。相反するはずの二つの気持ちが交錯して、ぼくは、わけがわからなくなる。
好きと嫌いが対峙したまま、拮抗状態を維持している。どちらか、押し負けると、バランスが崩れて通常ではなくなる。この不安定な気持ちは、ぼくの身体でどうこうできるものではない。
もし、いつも考えている人に、考えるなと命令したら、考えないことができるだろうか。それは、いつも考えていない人に、考えろというようなものなのだ。
気持ちだって、習慣だ。いつも、思っている気持ちを、急に、そう思うななんてことは――そんなことは無茶だ。不可能に近いだろう。そんな気持ちにさせるくらいなら、やつに近寄らないほうがいいのだと、保守的な考えになる人は、きっといるはずだ。
もし『好き』という感情が数値で表すことができたのなら、こんな、面倒なことで、迷わなくていいのに。
ぼくは、卒業式の前日に――好きを呼び出した。
場所はどこでもいい。好きなところで、好きを呼び出した。
「いままで言いたかったことがあるんだ」
「うん」
好きは、頷いた。きっと、聞いてあげるという意思表示だろう。安堵したぼくは大きく息を吸った。
「いまから言いたいことがあるんだ」
「うん、それで?」
好きは、言葉の続きを待っているみたいだった。ぼくは意を決した。ぼくは、やつに勝たないといけない。大っ嫌いなやつを、克服したい。嫌いで、嫌いで、目を合わすのも嫌なくらいだったやつを――ここで、いま、ぶっ放す。
「ぼくは、やつが――嫌いで嫌いで仕方なかったやつのことが、最高に――」
好きは、嫌な顔をした。と、そこで、大逆転した。反転したのだ。その表情には、大きな驚きがあった。
「大好きなんだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
最大火力でぶっ放す。




