影VS了
なぜ――影は裏なのだろう。ぼくは、思う。なぜ、光は表なのだろう。影があるから、光があるのではなく、光があるから、影があるのだと――なぜ、そんな論理が成り立つのだろう。
それだけ、光というものは特別なのだろうか。それとも、ただ、明るいほうが表だと、そう認識している人間が多いのだろうか。否、なぜ、ぼくは光が特別だなんて思ったのだ。それこそが、既に、先入観をもった偏見なのではないか。
この世に始まりがあるから、終わりがあるように、影があるから光がある――そんな表と裏を、印象付けるなにかがあるのだろう。……どうして、終わりが裏なのだろう。終わりが表だっていいではないか。
――そんな世界があったっていいじゃないか。
「くっそ。くだらねー。中二病かよ」
こんなことばかり考えるのは、ぼくがまだ青臭いガキだということだろうか。どちらかが無ければ存在しない、密接に関係しているもの。それを、表裏一体だと気づいたときには、既に、色々なものが、ぼくの中で崩壊していた。もう――遅いのだ。
ゲシュタルトは崩壊していた。現実に見える、あらゆる原形が崩れて、わけがわからなくなっていた。
クラスメイトの顔が歪んで見えた。そもそも、顔が、顔として認識するのが難しくなっていた。どうして、それが顔なのか。目と、鼻と、耳と、髪と、輪郭があれば顔なのか。――では、どんなバランスで?
どんなバランスでそれらをくっつければ顔になるのだろう。顔? なんだその奇妙な形をした漢字は? なんだか、ずっと見ていると、視点が変になって、それから気持ちの悪さで吐きそうになる。と、そんな感じで、ぼくは、あらゆるものが、わからなくなっていた。
なぜ、みんなは光が表だとわかるのだろう。ぼくには、それがわからなかった。すると、どこからか、ひょっこりと少年が顔を出した。そして言った。
――自分は影だと。だから、わかる、と。
「わかるんだよお兄ちゃん。それはね。とっても簡単なことなんだ。しょうがないから、無知なお兄ちゃんに教えてあげる。光と影はね、相互に関係するもの同士ではあるけど、でもね――お兄ちゃん」
でもね――お兄ちゃん、と何度も、そいつは言った。くどいほどに、何度も、何度も、何度も――
そして真相を告げた。
「光はこの世にないと困る存在だけど、影はなくても、大して困らないんだよ。光が表なのは、そういう理由さ。暗いやつは、みんなにとって邪魔な存在でしかないんだ」
それを、ぼくは真相だと信じた。光は、みんなにとって必要で、影はみんなにとって、そこまで必要ではない――その違い。そんな、相対的な違いだったのだ。
影は弱い。光に負けたぼくでも、勝てるほどに、弱かったのだ。影の原形は――幻のように儚げだった。ぼくの視界が歪む以前に、見る影も形もないほどに、既に、光によって消え入りそうだったのだ。




