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ヴァンパイア領主によるホワイトな領地経営  作者: 小兎


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2/20

第2話 森の中で魔石を集める


「さて、1つばかりでは心もとないな」


私はさらに魔石を得ようと、泉の畔を離れて鬱蒼とした森の中を進んだ。

木々の隙間から木漏れ日が差し込み、私の肌を照らす。


その温もりを感じた瞬間、不意にある疑問が脳裏をよぎった。


「ヴァンパイアは陽光に弱いのではないのか?」


不思議なのは、この疑問がどこから湧いてくるのか、ということだ。


今の私には過去の記憶がない。

それなのに、なぜ「吸血鬼は太陽の光で灰になる」などという知識を知っているのだろうか。


前世の記憶か、それとも魂に刻まれた本能的な知なのか。


「まあ、良いか。実際こうして陽の光の中、蒸発することもなく行動できているのだからな」


深く考えても答えは出ない。

私は思考を切り替え、再び歩を進めた。


森の奥へ進むにつれ、時折、中々大きな魔獣が凶暴な声を上げてこちらを襲ってくる。

一方で、小柄な魔獣たちは私の気配を察知してか、怯えたように遠ざかっていった。

襲いかかってくる大型の魔獣を、私は先ほどと同様に淡々と片手で処理していく。


そうして森を巡るうちに、数十個の魔石が集まった。

さすがにこれだけの数を手で持って歩くのは煩わしい。

そう思った瞬間だった。

手の中にあったはずの魔石が、吸い込まれるように消え失せた。


「……ほう」


意識を向けると、虚空の空間に先ほどの魔石が綺麗に格納されている。いわゆる【収納術】というやつだろうか。

手を伸ばせば、いつでも取り出せる感覚がある。


「ふっ、便利なものだ」


思わぬ副産物に小さく笑みをこぼた。


【収納術】を得てからは、狩りの方法を少し変えることにした。

魔物は片手で首を折って仕留め、そのまま空間へと収納していく。


「傷の無い丸ごとの死体の方が素材としての価値が高い」という、これまた出所不明の謎知識が脳裏に浮かんだからだ。


そこそこの数を集め、路銀としてはそろそろ十分だろうと判断した。

次は人の痕跡を探さなくてはならない。私は地上を歩くのをやめ、上空からの視察を試みることにした。

背中から漆黒の皮膜の翼を羽ばたかせ、一気に重力を振り切る。


「……これは広いな」


空へと舞い上がると、自分がいた森が想像以上に広大であることが一目で分かった。視界の果てまで緑の絨毯が広がっている。


目を凝らして周囲を見渡すと、遥か西方から、一筋の煙が立ち上っているのが見えた。


「ひとまず、あそこを目指すとするか」


方針が決まれば行動は早い。空を飛んで移動すれば、地上なら何日もかかるであろう広大な森の移動も造作にないことだった。風を切り、速度を上げて西へと進む。


しかし、近付くにつれて違和感が募っていく。

最初は炊事の煙かと思っていたのだが、どうやら様子がおかしい。

立ち上る黒煙の量はあまりにも多く、不穏な熱気がこちらまで伝わってくるようだった。


「……いや、街が燃えているのか」


黒煙の上がる場所まで到達し上空を旋回しつつ下を見れば、赤黒い炎に包まれ、崩壊しつつある人間の街だった。


遠くからでもはっきりと目視できるほどの煙だ。冷静に考えれば、それがただの生活の営みによる炊事の煙であるはずがないと、すぐに分かったはずだ。己の見落としに苦笑する。


私は街の近くの森の中に、一先ず降り立つことにした。

上空からでも、何やら人が激しく争う声が届いたからだ。どうやら、この身体は聴力も常人離れして良いらしい。


声のする方へと気配を消して近付くと、鼻腔を突いたのは噎せ返るような濃い血の匂いだった。


「……なるほど、そういうことか」


木陰から覗き込んだ先では、一台の馬車が道の脇の木にぶつかり停止している。馬車のドアは開け放たれ周囲には斬られた男達が倒れている。地面が黒くなるほどの血溜まりだ、生きてはいないだろう。


馬車を襲ったとみられる男達の数は9人。その内の1人は泣き叫ぶ少年を押さえつけ、4人はしゃがみこんでドレス姿の少女を押さえつけている。残りの4人は立ってその様子を覗き込んでいる。


「ちゃんと押さえてろよ」

「おら、服ひん剥いちまえ」

「足開かせろ」


必死に抵抗する少女を男達はゲラゲラ笑いながら嬲り始める。


「ほら、大人しくしねぇと切れちまうぜ」そう言いながら大振りのナイフでドレスの胸元から裾まで一気に切り裂いた。

「おぁ、ちっぱいかよ」「おれぁもっとこうばいんばいんのがいいねぇ」「じゃあおめぇは退いてろ」

「おい、見ろよ毛がねぇ」「足!足!開かせろよ! 見えねぇ!」


「姉様! 姉様……っ!」


少年は恐怖に顔を歪め、涙を流しながら必死に姉を呼び続けている。


「うっせぇ! 黙ってろ」


バシッと力任せに平手打ちされて地面に転がった。


「おい、おい、そっちも後で売るんだぞ、殺すなよ」「わーってるよ、早くしろよ。おらぁもう滾ちまってんだよ」


様子を見ていたが醜悪極まりない。反吐が出る。


私は地を蹴って一足飛びに男達に近づくと1番手前にいた男を無造作に掴んで後ろに放り投げた。

そして粗末なモノをオッタてて娘に覆いかぶさっている男の首を後ろから掴んで潰した。


私の手は子供サイズなので男の首の前部分で残ってしまった。邪魔なのでこれも放り投げる。

投げたら他の男も巻き込んで飛んでいった。


ここまできてようやく男達が「な、なんだぁっ!?」「化け物め、死ねぇっ!」と、パニックに陥りながら鉄の剣を狂ったように振り下ろしてきた。


遅い。


その軌道はあまりにも雑で、非効率極まりない。斬りかかってきた者共の胸や腹を、ハエでも追い払うかのように軽く払い除けた。


「がはっ!?」


「ぶふっ……!」


ほんの少し小突いた程度の力加減。しかし、吸血鬼としての圧倒的な質量と筋力は、男たちを木の葉のように引き裂いた。

男たちは凄まじい勢いでもんどりうって吹っ飛んでいき、周囲の木々や馬車の車輪に激突しては、二度と動かなくなった。


「人は魔物より脆いな」


残ったのは衣服を無残に引きちぎられ、未だ恐怖に身体を震わせている少女と、先程男の1人に叩かれて地面に転がった少年の2人だけ。


襲われていた娘は、何が起きたのか理解できないといった様子で呆然と座り込んでいた。

少年は泣きじゃくりながら必死に姉の元に走ってきて身体へ抱きついた。


「うわぁあぁぁぁん!」


娘は無惨に切り裂かれた衣服を、泥と擦り傷にまみれた手で押さえながらも少年を抱きしめた。


そして彼女は私を見上げて息を呑んだ。

ガタガタと小刻みに震え、圧倒的力で男達を排除した私という異形への恐怖を滲ませながらも、彼女は頭を下げ、消え入りそうな声ではあるが礼を言った。


「お、お助けいただき……ありがとうございました……っ」


その殊勝な態度を横目に、私の手を汚していた男達の血をどうしようか考えていた。


あ奴らの血など口にするなど不快極まりないが、私は意を決してペロリと舌で舐めた。私の中の何かが『その血を舐めろ』と教えてきたのだ。


その瞬間、「情報」が私の脳内へ流れ込んできた。


見えたのは、今しがた私が捻り潰した男の記憶。

血を通じて私の中で一気に組み上がっていく。


「なるほど……。血は記憶を内包しているのか」


私が最初から持っていた【収納術】や「太陽への耐性」といった出所不明の謎知識。

それらも案外、私が目覚める前に摂取していた、過去の誰かの血の情報だったのかもしれない。





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