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ヴァンパイア領主によるホワイトな領地経営  作者: 小兎


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第1話 ヴァンパイアだった


ある日突然、意識が目覚めた。


目を開けると、静謐な泉の畔に立っていた。


思考は凪いだ海のように静まり返っており、不思議なほど理知的で落ち着いている。

自分が誰なのか、なぜここにいるのかという記憶は一切ない。名前すら思い出せなかったが、不思議と焦りや恐怖といった感情は湧いてこなかった。


ふと、足元に広がる澄んだ水面へ視線を落とす。

そこに映っていたのは、およそ十歳ほどに見える少年の姿だった。

整った顔立ちに、腰まで滑らかに伸びた夜の如き黒髪。そして何より、水面を凝視するその双眸は、妖しくも美しい真紅の輝きを放っていた。


「……これが、自分か」


自身の姿を認識したその時、背後の茂みが激しく揺れた。

現れたのは、鋭い牙を剥き出しにした魔物。それは明確な敵意を持って、こちらへ飛びかかってきた。


だが、心は揺るがない。


身体が自然と動いた。迫り来る魔物の動きを完全に見切り、その身体を片手で受け止める。そして、軽く力を込めただけで魔物は力なく伏した。


その際、顔に飛び散った鮮血。


本能に促されるままにそれを舌で舐めとると、今までに味わったことのないような充実感が全身を駆け巡った。


「……美味しいと感じるのか」


その感覚に呼応するように、背中の内側から何かが突き出す。

気がつけば、背からは蝙蝠のそれによく似た漆黒の皮膜の翼が広がっていた。


圧倒的な身体能力。

背中から生える異形の翼。

そして、生き血を求める本能。


すべてを冷静に分析し、一つの結論に達した。

自分は、吸血鬼《ヴァンパイア》なのだと。


「さて、これからどうしたものか」


ふと、独り言が口をついて漏れた。


その瞬間、耳に届いたのは鈴を転がすような、どこまでも愛らしい少年の声だった。


「……ふっ、くく」


あまりの響きに、思わずおかしさが込み上げてくる。頭の中は冷徹で、老成した大人の思考が完璧に働いている。

それなのに、肉体から発せられるのは紛れもない幼子の声。

その凄まじいギャップが、どうにも可笑しくてたまらなかった。


「腹は減ってはいないが、今後の為に街に行った方が良いのか?」


再び呟き、自身の置かれた状況を冷静に整理する。


そもそも、ヴァンパイアという存在はこの世界においてどう扱われているのだろうか。

見つかり次第、即座に討伐対象となる凶悪な存在なのか。

それとも、共存の道があるのか。

今の自分には、この世界の常識が全く分からない。


いくら強大な力を持ち、理知的な思考ができたとしても、情報がなければこれからの指針を立てることも不可能だ。


「その辺を埋める為にも、やはり人里に行く必要があるのかもしれないな」


未だ世界の形すら見えない中、私は情報収集のために人間たちの社会へ足を踏み入れる決意を固めた。


しかし、すぐに新たな問題が頭をもたげる。


「人里に行くには、金が必要であろうな。だが、今の私には金がない」


一文無しのまま街に入ったところで、宿にも泊まれず、まともな情報収集など望むべくもない。


何か売れるものはないだろうか。


私は思案し、視線を足元へ落とした。

そこには、先程私が片手で捻り潰した魔獣の死体が転がっている。


「……これなら、路銀の代わりにでもなるか」


私は躊躇うことなく手を伸ばし、魔獣の肉体を切り裂いて、その奥から淡く輝く【魔石】を取り出した。

血に濡れた結晶を泉の水で洗い流すと、手のひらの上きらめいた。





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