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聖女の塔  作者: 河辺 螢
9/11

9 故国

 五日の船旅の後、フィーリアがビリディスに戻った時、国は聖女の訃報に沈んでいた。

 フィーリアは王と謁見し、アルムラピスで起きたことを報告した。

 聖女は塔から逃げはしたが、その際に帝国側は背後から聖女に向けて攻撃魔法を放った。死に追いやった直接の原因はアルムラピスにある。これは今後の交渉の切り札になる。

 この件に関しては、ひるむことなく帝国と話し合いを持つことを勧めた。

 先の皇帝は死去し、代替わりをしているらしいこと、帝国内には魔法使いが減り、帝都も荒れ始めていること。自国の都のエネルギー源として各国から魔法使いを召喚していたが、国の守護者をかき集めた今回の件により、各国が召喚に応じなくなっていること。

 こうした情報は、西果てにあるビリディスにいたのではなかなか掴むことができない、貴重な情報だった。

 とは言え、待機の命令に背き、聖女の番人でありながら聖女を守れなかったことへの咎は受けなければならない。

 フィーリアは神殿の騎士をやめることを申し出た。それを王からの命令とすることで、正当かつ公平な罰として世間に知らしめることを提案した。

 フィーリアは治癒の力は劣っていたが、魔力はアーリア以上だった。国の貴重な魔法使いを何とか王の力が及ぶところに残したがったが、国を出る覚悟を伝えると、王は最後まで迷いながら、神殿騎士の地位剥奪と三年間の国外追放の沙汰を告げた。


 引き継ぎのため国で二週間を過ごし、その中でフィーリアは、アーリアが神殿での暮らしで孤独を感じていたことを伝え、次の聖女は神殿に閉じ込めることなく、自由を与えて欲しい。形式張った儀礼より、和やかな民とのふれあいを持たせて欲しい、と聖女への対応に対する要望を伝えた。次に聖女となる者が、少しでも寂しい思いをしないで済むように。

 新しい聖女は既に決まっていた。間もなく神殿に呼ばれるだろう。フィーリアは新しい聖女と顔を合わせることなく、引き継ぎを終えた。

 アーリアのいた神殿内の部屋を片付け、住んでいた家を整理し、ほとんどの物は周りに譲った。

 誰も、役に立たなかった聖女の番人を責めることはなかった。むしろ、これまで国を守り、遠くアルムラピスまで一人で姉を追いかけ、助けに行ったにも関わらず、その姉を失ったフィーリアに同情を寄せていた。


 フィーリアはいつ旅立つのか誰にも告げていなかったが、アルクスマリス行きの船に乗った時、多くの者がフィーリアを見送りに港に集まっていた。人々はフィーリアと、亡くなった聖女アーリアへの感謝で満ちていた。

 アーリアにこそ、見せたい光景だった。

 フィーリアは故郷が水平線の彼方に見えなくなっても、ただ黙って故国ビリディスの方角を見つめていた。


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