7 脱出
食事を運ぶ者は、鉄格子の横にある扉から食事の置かれたトレーを差し出し、中にいる人の顔を見ることもなかった。
このような所でたった一人、五ヶ月も過ごしたアーリアを思うと、胸が痛くなった。
湖の聖女のいる塔は離れすぎていて、連絡を取ることはできなかったが、エアハルトとは連絡を取ることができた。
ギルベルトが聖女であるアーリアを連れ出し、フィーリアがアーリアに代わって聖女になっていること、時が来ればフィーリアが回路を破壊し脱出することを伝えると、承知した、と返ってきた。
真夜中を四半時ほど過ぎた頃、5つの塔の帝都につながる回路が一斉に破壊された。
帝都は闇に包まれ、あらゆる自動で動く物が止まった。
非常時のための明かりさえも灯らない。これまで魔力が止まるアクシデントがあっても、これほどのことはなかった。
各国の魔法使いは先に逃げて門のそばでその時を待ち、回路を絶った者達も逃げ出した。
フィーリアも回路を絶ち、逃げようとした時、自分のいる塔の周りにアルムラピスの兵が集まっていることに気がついた。
まともに階段から降りれば確実に掴まる。剣を背負って天窓から身を乗り出し、魔法の力で地に降りようとしたが、途端に大きなめまいがした。
外に出て、その意味が分かった。
塔が明るい。
自分の魔力がここまで光り輝くほどに吸われていたにもかかわらず、回路の破壊に勢いよく魔法を使ってしまったのだ。魔力は底をつく寸前だった。
「ビリディスの魔法使いよ、部屋へ戻られよ。魔力が戻ったのなら歓待しよう」
帝国の騎士と思われる男が、屋根に迫ってきた。この中では一番魔力が強い。
平時のフィーリアであれば、負ける相手ではなかったが、魔力の急激な減少で体まで不調を来たし、剣を振り上げて戦っても勝てる状態ではなかった。
イヤーカフを通した連絡で、他の4つの塔に関わる者達は皆無事帝都の壁の外へ逃げおおせたことを知った。アーリアもまたギルベルトと共に帝都を脱出したようだ。
自分の願いは叶った。
後は、着地できればよし、できなくても、この高さなら無様に掴まることもなく、この帝国に対する反逆行為に対して永遠に口を割らないで済む。
一太刀振るい、追っ手の騎士がひるんだ隙に、塔の上から飛び降りた。
その時、騎士の放った攻撃魔法がフィーリアの背後に迫った。
その魔法をはじくことに気を取られ、自分への魔法の発動が遅れた。
間に合わない!
死を覚悟した時、フィーリアにはアーリアと共に過ごした国が見えた。
草は青く、海は輝き、優しい聖女様に見守られ…。
皆、聖女様を敬愛していた。アーリアを、本当に敬愛していたのだ。
神殿でかしこまっていた人達が神殿の外で見せていた笑顔と感謝、あれこそ、アーリアに見せるべきものだった。
一瞬手放しかけた意識が、衝撃と共に戻ってきた。
フィーリアを受け止めたのは、エアハルトだった。
風の魔法でフィーリアの落下速度を落とし、その両手で受け止めると、そのまま肩に担いで小道に入り込み、隠してあった馬にフィーリアを乗せて、門に向かって走り出した。
帝都には、常備された馬はいなかった。門の開閉にも魔力が必要で、開いたままの門を閉ざすには、その周辺にいた下っ端の衛兵の魔法ごときではどうすることもできなかった。
二人を乗せた馬が駆け抜けた後、フィーリアは門に魔法を飛ばし、門を閉ざした。しかし、それで最後の魔力を使い切り、今度こそ力尽き、意識を手放した。




