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聖女の塔  作者: 河辺 螢
2/11

2 岩山を越えて

(一部変更・中身は変わってません)

 砂丘を抜け、その先の街まで行くと、また街道が続いていた。時には徒歩で、時には街の駅から馬車を乗り継ぎ、やがてザクス山の麓の街に着いた。

 切り立つ岩山の道は道幅が狭く、馬車が通るのは難しかった。馬かロバに乗るか、歩くしかない。フィーリアは歩みを進めた。

 途中、豪華な衣服を身にまとい、馬を引き連れた一団が道を通り抜けていった。

 遠回りをすれば馬車でもアルムラピスに着くことはできる。しかし、急いでいるのかあえてこの道を選んだらしい。6頭は人を乗せ、残りの6頭は荷物を背負っている。

 馬たちが行ってしまって四半時ほど経った頃、4頭の馬に乗った、いかにも荒くれた集団が通り過ぎた。我が物顔で歩く者を蹴散らし、細い道には危うい速度で何かを追うように馬を走らせ、去って行く。

 この岩山の道は、しばらく一本道だ。ぼろ布をマント代わりに歩いて岩山を越えるような貧しい者であっても、運が悪ければ狙われることがある。素通りしたと言うことは、狙いは既に定まっており、それはさっきの馬の一団かも知れない。

 麓の街で、このところ治安が悪くなった、と聞いていた。

 食料を求め、村が襲われたという話もあった。

 遠い国でも魔法使いがアルムラピスへとかり出され、不作の年に実りを得ることができなかったという噂もある。

 そうやって周辺国の国力が落ちることを狙っているのだろうか。

 フィーリアは若干の違和感を持ちながらも、まずは姉アーリアの無事を願いながら、山の道を踏みしめていった。

 そこへ、荒ぶった馬が、さっきの馬連れの向かった方向から逆走してきた。

 荷物は積んでいるが、人がいない。

 フィーリアは馬に飛び乗り、、手綱を引いて落ち着かせた。

 やがて、馬が落ち着きを取り戻すと、フィーリアは荷崩れし、ぶら下がっていた荷物を切り落とし、馬を来た道へと再び走らせた。

 思った通り、後から来た4頭と、先の集団とが争っていた。

 後からの4人に対して戦っているのは2人だけ。1人は逃げたようだが、残る3人はうろたえるばかりで、逃げることもできない。馬も興奮している。

 上等な毛皮のマントを来た女もいた。

 こんなところで着飾るなんて、狙ってくれと言わんがばかりだ。

 髪を掴まれ、髪飾りを引き抜かれる。危うく馬から落ちるところを、フィーリアは相手の腕に切りつけ、その手を離させた。

「早く行け」

 フィーリアの声に、女が先の道へと逃げた。それを追うように2人の男も道の向こうへと馬を走らせた。

 剣を持つ2人と共に戦い、盗賊達は怪我とわずかな戦利品を手に去って行った。

「加勢に感謝する」

 1人が馬にまたがったまま手を差し出した。求められるまま握手をすると、意外そうな顔をして、

「女性だったか」

と言った。

 古びた厚手のマントにフードを深くかぶっていたせいで、性別が判らなかったらしい。

「女性に触れてはならぬ教義をお持ちなら、すまなかった」

 遠い国には、屋外で異性に触れてはならない教義を持つ国もあるという。しかし、男は首を横に振り、

「あまりにたくましい戦いっぷりに、女性だと思わなかっただけだ」

と言って、笑みを浮かべた。女剣士であることを侮蔑する様子はない。フィーリアは少し安心して、馬から下りると、手綱を差し出した。

「逃げてきた馬を捕まえた。貴殿達のものだろう。勝手に乗ってすまなかった」

「いや、助かった。荷物を運ばせていた馬2匹が崖の下に落ちてしまった。可哀想なことをした」

 それでも、人の命が奪われなかっただけ運が良かった。

「アルムラピスまで行くのか?」

 問われてこくりと頷くと、

「ならば、国の手前までこの馬を使うといい。…とは言え、俺の馬ではないので、雇い主に聞かなければならないが、遙か彼方に逃げていて、…追いつけるかな」

 フィーリアは再度馬にまたがり、2人と共に道を進んだ。

 声をかけてきた男はエアハルト、もう1人はギルベルトと名乗った。どちらもフィーリアの国ビリディスからは遠いアルクスマリスの出身で、海の国らしく、焼けた肌の色を持ち、それなりに鍛えているらしくたくましい躯体をしていた。剣の腕を活かし、日雇いの用心棒をしながらアルムラピスで暮らしていると言った。

 そう遠くまで行かないうちに、逃げ延びた4人が合流しているところに追いつくことができた。用心棒の生死など二の次で逃げ切り、自らの命を守った様は、ある意味たくましくはあった。

 荷物を運ぶ馬は2匹しかいなかった。フィーリアが乗る1匹を合わせて3匹。崖から落ちた2匹のほか、もう1匹が行方不明になっているが、雇い主は文句を言わなかった。それほどまでに現れた盗賊は強敵だった。命が拾え、3匹も手元に残れば充分なのだろう。フィーリアの乗る馬には、ほとんど荷物は残っていなかったが。

 フィーリアはそのまま馬を借りてアルムラピスの国境まで同行し、共に国境を越えることができた。雇い主はアルムラピスでは有力な商人らしく、多くの人々が並ぶ国境の関でも優先的に通してもらえたのはありがたかった。

 馬を返すと、少しばかりだが、と若干の金子をもらった。相手は金持ちだ。遠慮なく受け取り、一行と別れを告げた。


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