057 お中元は、命がけのものだったらしいです。
次なる地に行く前に、ちょいと閑話を。
『残暑お見舞い申し上げます。
御無沙汰しております、阪本先輩。旅先で、ちょいと素敵なものを見つけましたので、日頃の感謝を込めまして、お贈りします。
あ、状態保存かけてありますんでいつでも食べられますが、やっぱり旬のものは旬の時期にお食べ頂く方が。見た目は少々あれですが、味は保証します。後、アヌリン達にも同じものを送っているので、きっと、たぶん、確実に、色々試作してくれるはず。先に食べられるのは悔しいですが、家に来てくだされば食べられますよ?
っとまぁこんな風に、セバスチャンとふたり、旅を楽しんでおります。休暇サイコ~!!
丁度日本はお盆ですから、先輩も、ザッツ日本人してないで、たまにはお休みしてくださいね。
それでは、また。
旅の空にて、後輩より。』
はいはい皆様お久しぶりです? 越谷優@カルプニア連合王国郊外です。はやいもので旅に出てから、二週間が過ぎました。
旅の空にあっても、留守番してくれているアヌリン達への定時連絡はかかしません。異世界にも「魔導鏡」と呼ばれる通信手段はあるけれど、わたし達には必要ない。なにせ、セバスチャンの本体は、スマホ。アヌリンとヤスミーナの本体は子供携帯ですから。
そして定時連絡と言っても、特別な事をつたえているわけではなく。愛しのメイドちゃん達と猫達は元気か、なにか変ったこと困ったことはおきてないかの確認がおも。それからこちらの旅の様子、かな。
腹巻きに雪駄、首に下げたお守りに草臥れた鞄がトレードマークの彼のように、わたしもいままで方々旅をしてきました。で、いまでは御存知のとおり、地球世界を飛び出して、異世界で旅をしております。
そんなわたしですが、いつも旅には、記録媒体としてノートとペン以外に、デジカメとICレコーダを持っています。もちろん写真撮影禁止の場所では取らないし、そもそも写真を撮る場合は記録がメインなので、カメラはコンパクトなものしか使わないし、原則風景や建物、市場や料理などしか撮りません。自分の写った写真が嫌いなので、自撮り棒なんぞ、持つわけがないのです。
そして、わたしのように考える人がいないわけではないでしょうから。風景を撮る際にも、遠景以外では人が極力入らないようにします。レストランや観光以外の場所をとる場合も、できるだけ許可をとることにして、一応気を使ってはいるんですよ?
で。今回の旅も、いつものようにカメラとICレコーダは持って来ているのですが、4次元ポケットに入れっぱなしです。だってほら、わたしにはいつも素敵さ頼りっぱなしですありがとう! の執事様がいますからねぇ。ふふふのふ。わたしがお願いする前に、内蔵された高感度カメラでばっちりくっきりきっちり撮ってくれています。
あ~あと、セバスチャンは……。
ヤスミーナ達に、「優様の楽しまれる姿を、特に用意したドレスをお召しになったところを中心に、撮ってきて下さいね!!」とお願いされているので、定期的にメールで送っているみたい、です。
自分の写真は嫌いなんだけど……なんでそんなもの欲しがるんだろう、うぅ……でも、ミーナとアヌーの望みとあれば………。それに、「目が~、目がぁ~」と内心転げ回りそう、いや実際悶え転がる微笑みを浮かべたセバスチャンに促されれば、拒否できるわけもなく。あの笑顔で出されたら、自分の死刑執行書にだってサインしてしまうかも。
セバスチャン……恐ろしい子! 大好きです。
うん。話がそれました。
そんな定時連絡とは別に、旅先ならではの楽しみとして、絵葉書を送ると言うのがありますよね。
筆まめなどでは全くないわたしですが、旅先ではなぜか、筆をとりたくなるものです。まぁ実際にとるのはボールペンだけれど。
しかし誠に残念ながら、異世界は国を跨いだ郵便もしくは宅配便制度が確立されていないんですよ。
まぁね~。ひとたび街をでれば魔獣が跋扈しているわけだから、誰かに手紙や物を送ろうとするならば魔導で転送するか、魔導士や騎士、傭兵などの護衛に守られながら旅するアロイスさんのような商人に依頼するかになるわけで。
わたしやルーカスさんクラスの魔力と魔導適正の持ち主ならば無制限で転送できるらしいけれど、通常の魔導転送は、かなり細かい容量制限があるらしい。あと、送る場所も決まっているらしい。で、お高い、と。そして当然、へたすりゃ命がけになる護衛への危険手当を含む人件費をかけて旅する商人への依頼するのも、とってもお高くなるわけで。
呑気にお気軽に「元気ですか~?」だの、「空キレ~!」等と書いた絵葉書を送ることはできないのです。あ、そもそも、絵葉書がありません。
なので今回は、残暑見舞いを兼ねたお便りはセバスチャンメールにするか、なんて考えていたらば。
アロイスさんの商隊が丁度サカスタン皇国に行くと言うので、それに便乗してアトロパテネで見つけた果物と一緒に送ることにしました。
うん、旅のお便りというより、時期的にお中元、かな。
贈り先は、今回の旅を手配してくれた台場さん。そして、たまたまその時思い浮かんだ阪本先輩にも送ることにしたのですが……。
●○○●
「お~優くんひっさしぶり~。言うても、一か月もたってへんか」
カッポ、カッポ、カッポ。
お馬に揺られつつのんびり風景を楽しんでいたらば、先輩からのコールが。
ちなみに受けるのはスマホであるセバスチャン。
「優様お電話ですが」「あ、でるよ」で、セバスチャンの素敵しびれる腰砕けるの美声が、阪本先輩のあっかるい声に切り替わります。
と言っても、先輩の声に合わせてセバスチャンの口が動いているわけではないし、以前電話を受けている途中で他の電話が入った時にお知らせしてくれたので、セバスチャンの声帯? スマホだからスピーカー? を使っているだけではなさそう。
うん。どういう仕組みになっているのかは、もちろんわかりません! セバスチャンに聞けばわかるのかも、と言うより確実に解るのだけれど、わたしがそれを理解できるかはまた別のお話。
あぁ魔導って便利。そんだけです。
「お久しぶりです阪本先輩。お元気ですか?」
「お~元気、元気。電話したのは、お礼、言いたかってん。お中元、ありがとうな~。さっそく食うたけど、ごっつ美味かったわ~」
おう。さすがは「黒の錬金術師(笑)」。あの恐ろしげな見た目に怯まないとは。
「気に入っていただけたならなによりです」
「おう。めっちゃ気に入った。あれ、サカスタンでも売ってんのかな?」
「どうなんですかね。取りあえずわたしは、見たことなかったですね」
「あくなき食の探究家が見たことなかったんなら、こっちにはないか~」
「いや先輩、なんすかその綽名……。王都はずれの市場で買ったんですけど、王都近郊で、しかもこの時期しか採れないって言っていましたよ? セールストークかもしれませんけど」
「あ~、どこでも見られる『当地限定』な。言うても異世界やったら、ほんまにそうかもしれんね。品種改良とかがすすんどる訳ちゃうやろうし。なによりあの見た目が」
「ええ。あの見た目では」
「あれ、台場さんにも贈ったやろ。娘さんに泣かれた言うてたわ」
「あれ、そうなんですか。台場さんからは、凄く丁寧なお礼のメール頂きましたけど、別のにすればよかったかな……」
「いや、ええんちゃう? 美味しかった言わはったし、奥さんも、結局娘さんも喜んでたらしいで?」
「あぁ、なら良かったです」
「まぁなぁ。日頃魔獣みなれとる俺らやったら、少々見た目が怖あても、問題ないやろうけど。あぁあと、ルーカス氏やったら、見たことも食べたこともあるんかな。どう言うてた?」
「え? なんでルーカスさん?」
カッポ、カッポ、カッポ。
お馬の軽快な蹄の音で拍子をとるように、軽快に交わしていた会話が、そこでいきなり途切れた。
電波障害か、もしやスマホ(セバスチャン)に問題が!?
慌てて隣を伺えば、安定の執事スマイル。ご馳走様です。馬から落ちそうになりました。
「……阪本先輩?」
「……ルーカスさんなら当然、いぃの一番にお礼言うてると思うたけど。優君からのものなら、最優先に開けるやろうし、まさかアロイスさんところが遅配や誤配するとは思えんし……一緒のタイミングで送ったんやろ? あ、それともちゃうもん贈ったん?」
こちらに問題がないなら、あちらになにかあったか。
体感時間で30秒程度待っても返事がないので呼びかけてみれば、何事もなかったかのごとく答えが返ってきた。が。
「え? ルーカスさんには何も贈ってませんよ?」
そう返すと、数瞬の沈黙の後。
「なんでやねんっっ!?」
絶叫突っ込みが返ってきました。
素敵有能執事がとっさに受話音量を下げてくれなければ、周辺一帯に響き渡るような大音量で。
「ちょっ、先輩うるさい。突っ込み激しすぎですよ。はしゃいでるんですか?」
「っんなわけあるかっ! 」
せっかくひとが穏やかに諌めたと言うのに、更なる大音声で返してくる。
まったくこの関西人は……。本人は否定していけれど、久々の会話で、突っ込み魂が滾っているに違いない。電話の向こうではきっと、「俺の黄金の右手」とやらが、唸りをあげてふるわれているはず。
いや別にね? 阪本先輩がぼっち生活を送っていると言っているわけではないですよ?
ただ、異世界の友人知己で、先輩の素のテンションについていける人は、あまりというか、まったくいないらしく。同じ地球の日本出身でも、先輩の同僚さんたちは皆様、関東以北の出とか。まだ会ったことはないけれど、先輩の突っ込みに素で返す、若干引く、ボケをあえてではなく気付かずスルーする方々とお聞きしていますから~。かなり仲よしそうな台場さんも、そうだもんなぁ……。
息をするほどに自然にというレベルどころか、ボケと突っ込みが織り込まれているのが会話、コミュニケーションの先輩にしてみれば、先輩の突っ込みにも臆さない人間との会話は、久々で、嬉しかったのかもしれない。
「はいはい、ノリ突っ込みはいいですから、すこし落ち着きましょうか」
「突っ込みちゃうしっ!」
「あ~はいはい、そうですね~」
「て、聞いてへんし、いやそんなことはいいねん。なんでルーカス氏に贈ってないねん!」
そんな広い心で流していたわたしですが、先輩の不思議な言葉に、思わず首をかしげてしまいました。
「え? なんで休暇中にわざわざ上司、いや取引先? に連絡取らなきゃいけないんですか? それにルーカスさんだって自分はあくせく働いてる時に、『お休みひゃっは~楽しいで~す!!』なんて手紙、貰いたくないでしょう」
うん。わたしだったらキレる。もちろん報復もする。
「あん人は、優くんからならなんでもっ……いやいや、そうやなくて。俺らに贈ってくれたんは、お中元やん。手紙だけちゃうやん」
「あぁ、それはアヌリン達に送るついでというか。元々残暑見舞いをメールで送ろうとしてて、アロイスさんが郵送手段を整えてくれたんで、それならって果物も一緒に贈ったんですよ」
「いやそれにしても、なんで俺らだけ……」
「? 台場さんには、旅行手配のお礼を兼ねて。先輩は、たまたま思いついたから? ですかね」
「いや、たまたまて……」
何故か呆然としたように呟いている阪本先輩に、首を傾げるしかない。
お中元を気に入ったと言っていたのに、なにが問題だと言うのか。それとも……上司にはないのに自分だけ貰ったと、気兼ねしているかもしれない。
気安い口調を保ちつつも、常にどこか及び腰でルーカスさんに対応している先輩の姿を思い出して、わたしは一人頷いた。
「も~先輩ったら相変わらずのサラリーマン脳ですねぇ。そんな気がね全く必要ないとおもいますけど、自分だけ貰ってまずいと思うんなら、黙っときゃいいじゃないですか」
「いや、上司とかそんなんじゃのうて……いや、せやな。うん。黙っとかな、僕の命が」
「は? 命?」
「イヤイヤいや、僕、なんも言うてませんよ? 優君ももちろん、なんも言わへんよね? ルーカスさんに」
「いやだから、休暇中によほどの緊急事態が起こらない限り、わざわざ連絡なんてしませんて」
「え、それは困んねん。すでに緊急事態やねん。毎日とは言わんけど、一週間にいっぺんくらい」
「はぁ? どこの社畜ですか。先輩、休暇の意味分かってます?」
「いやそうせんとね、僕らの命が」
「もう、さっきから命、命ってなんなんですか。先輩、疲れてるんですよ。魔獣駆除も大事ですけど、ゆっくり休暇取って、それこそ、命の洗濯した方がいいですよ?」
「はは、せやね。近々そうするわ………」
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「『絶っ対っ、お中元の事は内緒にしてや! ルーカスさんにだけやのうて、他の人にもやで!』だの、『あぁ、台場さんにも口止めしとかんと』だの、なに言ってるんだか……。先輩、働きすぎて鬱ってるのかねぇ、セバスチャン?」
最後まで訳の分らぬことを繰り返していた先輩がすこし心配になり、素敵執事様に意見を求めてみました。
まぁもちろん。口調ほどに気にしているわけじゃ、ありませんが。
「はて、さて。口止めをするならまずはアロイス商会からせねばならない事に言及していないあたり、お疲れで頭が回っておられないのは確かでございましょう」
「ん~? ヴェニスの商人さんのところなら、そう簡単に顧客情報はもらさないからじゃない?」
「商人とは利に敏く、それ以上に危険にも敏感なものにございますから」
「あぁ、なるほど……って、そもそもなんでお中元を贈った贈らないでそんな話に?」
わたしの当然の疑問に、極上の執事スマイルで応えるセバスチャン。
その微笑み光線にさらされたわたくしが、なにも考えられなくなったのは……仕方のないことでございました。




