055 触らぬ「バケモノ」に、祟りなし 2
あらあらイライザちゃんたら。
わたしと目が合った瞬間、顔をわかりやすく青ざめさせて固まったくせに。右見て左見て後ろ見て。
わたしがひとりだと分かると、扇をぎゅっと握りしめて、突進してきましたよ?
いきなり移動しだした君に不思議そうに呼びかける、お友達達をひきつれて。
「これはこれは、サカスタン皇国の魔導師様じゃ、ありませんの」
うわ~このお嬢ちゃんたら今日もまた。
本来ならばつやっつやの肌を化粧で塗り込めちゃって、また一段とスィーツなお衣装と香りを纏ちゃってまぁ……。
周りの子たちも似たようなスタイルで。流行っているのかしら。
どうでもいいですけど、相変わらずわざとらし過ぎる言い方しますねぇ。
まわりのお友達(取り巻きかもしれない)も、「まぁ、この方が……?」なんてザワリとしたムードを出してくれていますが、なんだか寸劇感満載です。
「……先日とは打って変わった格好をしていらっしゃるから、一瞬どなたか分かりませんでしたわぁ」
あらあらイライザちゃんたら。運動不足かしら。良く見たらたったあれだけの距離で顔が赤くなっている。
小走り……はお嬢様だからかしなかったけど、競歩ぐらいのスピードで歩いちゃったもんだから、ハニーブラウンの盛髪に飾った宝石が取れそうになっているし。
いや~相変わらず見事なロココ。頭重そ~、首こりそ~。
ほらほら、となりのお嬢ちゃんがさり気に君の頭に手を伸ばしているじゃないですか。
お友達に心配かけちゃぁだめですよ~。
「今夜は第三王女様もご出席される格式ある夜会ですもの、アロイス様がドレスやブレスレットを準備されたのね。さすがアロイス様ですわ、なんて素晴らしいデザインなんでしょう!」
「あの……ニキエイア様。お話し中失礼いたします。この方があの……?」
そこのお嬢ちゃんナイス!
だらだら続きそうだったイライザちゃんのお喋りを止めてくれてありがとう。
そうそう、ロココなイライザちゃんのお名前はニキエイアだったね。そう言えば。ここを出たらまた忘れるだろうけれど、マイクでしっかり拾っているから別にいや。
あ~でも君の声を聴くとうちの素敵完璧マーヴェラスな執事様がまた暴走しそうで、ちょぉ~っと怖いかな~。
「あら、私ったら御免なさいね。皆さまご紹介しますわ。こちらがかの高名な、サカスタン皇国始まって以来の魔力と魔道適正を誇ると言われている、魔導師様ですわ」
「まぁ……あの、神話級の」
「なんでも公爵家筆頭のグラヴェト家のご出身とか」
「そうですわ。ローウェル様、でしたかしら。アナトーリ辺境伯家の。三重城壁でお会いしたっておっしゃっておられましたわよね?」
「誰もその素顔を見た事がないと聞いておりましたけれど、……女性、でしたのね」
「でもさすがはニキエイア様。そんな魔導師様ともお知り合いだなんて」
「あら、そんな。アロイス様にご紹介頂いただけですわ」
「まぁ~、ニキエイア様はクリプキウス様と懇意にしていらっしゃるものね」
「あらまぁそんな。オホホホホッ!」
あ~うん。なんだろうこの寸劇。何かのドラマを見せられているようだ。
これっぱっちも観たくないのに。
あ~面倒くさいな~。
そう言えばニキ……イライザちゃんたら、華麗に気絶した後アロイスさんに促されたお伴の人々に連れてかれていたから、誤解したまんまなんだっけ。
わたしが「神話級(笑)」の魔導師だって。ぷっ。
って言うかですよ。
この国のお貴族さん達は、情報の精度を気にしないのでしょうか。
え、噂や伝聞なら、裏は取るよね? 複数から情報は入手するものだよね?
相手がそう名乗ったって、嘘か誇張、成り済ましの可能性もあるんだから、独自に調べて精査するもんだよね?
え。
「失礼ですが。貴女本当に侯爵家のお嬢さんですか」
疑問に思ったら何度でも確認。これ大事。
「……は?」
今日もキラキラ光る宝石つきの扇を口元にあてて、オホホ笑いのままイライザちゃんが固まっちゃったけど、そこは無視の方向で。
「いやだって、いやしくも高位貴族の侯爵家のお嬢さんがですよ?お茶会だか夜会だか知りませんけれど、そこで仕入れた噂をまるっと信じて裏も取らないでそのまま周囲に伝えるなんて粗忽な事、しますかね?」
「……っ粗忽……私を侮辱するおつもりっ?」
「あ、そこには反応するんだ。貴女がしていることを単に説明しただけなんですけれど、それが侮辱になるんですかね」
「なっそれは貴女がっ」
「『わたしが』何か。お嬢さんに会うのはこれで二度目ですけれど、一度目は案内も乞わずこちらに確認も取らず人ん家の庭にずかずか入ってきて、ひとりでなんか捲し立てていましたよね」
「なっ」
「で、今夜も同じく。こちらが口をはさむ間もなくお友達とピーチクパーチクとま~よくお喋りになる。お喋りに忙しすぎて、わたしが一度も自分から名乗っていないの気づいてなかったみたいですねぇ」
知り合いに貴族のお嬢様は――上司様の妹さん、エドウィナリアさんは騎士様なんで置いといて――いないので、これが「普通」なのか知らないけれど。
いや~イライザちゃんたら信号機なみに顔色変えちゃって、大丈夫かしら?
まわりのお嬢ちゃん達も、なんだかバラエティに富んだ反応で面白い。
会話についてけないのか、わたしの反応が予想外だったのか、ぽかんと口あけたまま固まっている子もいれば。
「ニキエイア様になんて無礼なっ」ってキッとこちらを睨んでいる子もいるし。すごいなさすが異世界。物語でしか見られない様な、テンプレお貴族様。面と向かって無礼って初めて言われましたよ。
あ、扇で隠しているつもりだろうけれど、一番後ろの貴女、こっそり笑ってるのばれていますからね~。
「『初めまして』侯爵家ご令嬢の……ニキエイア、さん? とそのお友達さん達。サカスタン皇国で出稼ぎ魔導士やってます、越谷優と申します。あ、神話級の魔導師とやらではありませんので。念のため」
父さま母さま御免なさい。
あなた達の教えを今回は守れませんでした。
挨拶する時は相手の目を見てきっちりはっきり歯切れよく。できれば印象的に友好的に。
攻撃する為でなければ。
子供の頃からそう教えられてきたのに、「神話級」ってところで我慢できずに、笑っちゃいました~。
「…っ……っ!」
いやだってイライザちゃんの反応が面白すぎるんだもの。
宝石つきの重そうで固そうでお高そうな扇を握りしめて、なんかぶるぶる震えていますよ?
こっちにもグロスなるものがあるのか知らないけれど、艶々のコーラルピンクに塗られた唇を、「ワナワナワナ」と擬音をつけてあげたくなるほど噛みしめていますねぇ。
「っよくも侯爵家の私に……」
「いや~挨拶がすっかり遅れちゃいまして」
あ、歯に少しピンクが着いちゃってる。言ってあげた方が親切かしら?
いや~でもお友達から「え……、出稼ぎ?でもニキエイア様が……」なんて訝しげに見られていますから、これ以上は………ねぇ?
そんな呑気な事を考えておりましたらば、イライザちゃんが叫びました。
「…っ侯爵家の令嬢たるこの私によくもそんな口をっ! 魔導だけが取り柄のバケモノのくせにっっ!!」
あ、コレあかん奴や。
カメラを通して見ている愛しの執事様が魔王に変身しないうちに、片付けちゃいましょう。
ロココちゃんとの対決、もう一話続きます。




