054 触らぬ「バケモノ」に、祟りなし 1
お久しぶりです。
「ふうん…『バケモノ』、ですか」
「…なっなんですの!? 反論できるものな」
「あ、もちろんこれから好きなだけさせて頂くので、しばらくその後先とご自分の処理責任能力を考えることなくよく回る口を閉じてくださいませんか?」
「…っなっ」
「あ、早すぎて、聞き取れませんでした?それとも理解力が、追い付かなかった? 最初から、繰り返しましょうか?」
どうやら学習能力だけでなく、処理能力も残念な出来らしい目の前のお嬢さんとその仲間達に。わたしは分かりやすいようセンテンスを区切ってそう言うと、にっこり笑って見せた。
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あ、皆さま、大変御無沙汰しております。越谷優、お肌の曲がり角第二弾を最近迎えました。でございます。
現在わたくし、煌びやかなぱーてー会場におります。
「ぶらり漫遊異世界の旅」のはずなのに、何してんだってお思いですよね?
いや~まぁ、ちょっと色々ありまして、アロイスさんに連れてこられました。
ほらね、ほら、ちょっと教育的指導したはずの辺境伯跡継ぎ君は、本当にお口が軽かったようで。
一体どこまで、そして何を吹聴しているのか知りませんが、アレ以来毎日のようにわたし宛ての贈り物とやらが、アロイスさん家に届けられまして。
ぷらす、お茶会やら夜会やらの招待状が、山盛り。
あげくにアポもとらずに押し掛けてくる貴族の馬鹿ボンとか、とか。
どうやら皆さま、「神話級の魔導師(笑)」となんとかお近づきになりたいと考えておられるようです。
しか~も、その魔導師さんたら、サカスタン皇国の公爵家出身なんですってー! なんて話も出回っているらしいですよ。
「カルプニア連合王国より歴史ないけど、軍事力と財力と領土なら勝っているあの国の、しかも筆頭公爵家のっ!?」なんて、色めき立っているとか。
相手はお貴族様だから、表面上は丁寧ににこやか~に対応していた家主様にそう詰め寄っているのをこっそり聴いた時、お茶噴きそうになりましたよ。
あ~うん、嘘ではないね。
辺境伯のお坊ちゃんが言っていたのがルーカスさんの事ならば、彼は確かに公爵家の御子息だね。
うん。魔力の量も、魔導も「神話級」だし。
でも残・念☆
ここにいるのは彼に雇われている、ただの出稼ぎ労働者でした~! しかも休暇中っ!!
お前ら人とツナギ取りたいなら、まず情報の精度確認しろや。貰えるものは貰う主義でも、毎日届いたら処理が面倒なんじゃい招待状かて素敵執事イカスゥっ! セバスチャンがいるとはいえ、いちいち返事書くのも面倒ってわからんか? ん? 分からんか?
アポなし突撃お馬鹿共、社会的地位嵩にきて少しは人の迷惑考えろやアロイスさん家追い出されたらどうしてくれんだゴラァッッ!!!
――――――失礼しました。
まぁそんな風にですね、こっそりと言うか、はっきりキレておりましたらば、アロイスさんが一計を案じてくれました。
曰く、「一度顔みせしとけばよい」、と。
「奴ら(あ、わたしの言葉じゃありませんよ? アロイスさんのです)は物見高い暇人だから、無視すればするほど勝手に噂を大きくして、追いかけてくる」
「商売でならそれも有効だが、付き合うつもりがないなら、出したい情報だけこちらから渡してしまえ」
いやいやさすがはヴェニスの商人。すべて商売につなげるその考え方、お見事です。
んじゃまぁ嫌な事はさっさとすませようと、いっそ燃やしちまえと思っていた招待状から適当に見繕ってもらい、今にいたるわけです。
うふふっ……アヌリン、ヤスミーナありがとう。絶対に使わないだろうと思っていたのに、二人が持たせてくれたドレスにアクセが役に立ったよ!
「では二人に代わって今日は私が――――」ってセバスチャンがメイクしてくれそうになったけど、それは諦めてもらったよっ。
無理だからっ。愛しの銀色の執事様に至近距離で顔いじられるとか、絶対無理だからっ!
鼻血吹く可能性もあるけど、その前に精神力が極限まで削られるからっ!!
なんでしょうね。自分が年取ったんだなってある日突然気づくものですよね。
仕事柄とくに化粧を必要としないもんですから、いつも日焼け止めと、リップクリームくらいしかつけてなかったんですよ。わたし。
あ、もちろん。うちの素敵メイドちゃん達が作ってくれている洗顔石鹸や化粧水、それから美容液代りのオイルは朝晩使っていますよ?
さぼると怒られちゃいますし。
で。旅先とはいえ、いつも素敵大好き最高! の執事様がいるんだから、野菜や果物不足でお肌が荒れるなんてこともなく。
寝不足に……は本の読み過ぎで時々なるけれど、目の下にクマなんか飼おうものなら、セバスチャンの顔が哀しげに曇っちゃいますから、ねぇ?
仕事している時よりは、運動量は減っているかもしれないけれど、観光で何のかんの言って歩きますし。
そんなわけで、常にベストコンディションなはずなんですよ。体調も肌も。
でもねぇ……今夜ひっさしぶりに、自分でがっつりメイクをしようとしたらば、気づいちゃったわけです。
なにせ自分でこれだけきっちりメイクするのはいつ以来だろう?って感じなので、20代そこそこの肌と比べているのも、悪いのかもしれませんが。
あれ? 毛穴が……。とか。
あれれ? 肌のトーンが……。とか、とか。
ナルシストじゃないつもりなので、至近距離で鏡の中の自分を見つめる、なんて普段はやらないことをして。
あぁ、これか、と。お姉様(時にはお兄様)方が言っていたのは、これか、と。
年を重ねるのは嫌どころかむしろどんと来いだけれど、それとはまた別の問題で。化粧ののりとかそう言うのではなく、あのパンッ! と内側から弾け飛びそうな肌の艶? 透明度? 脂? が。あぁもう、わたしにはなくなりつつあるんだなぁ……と。
セバスチャンにちょっと心配されるくらい、しげしげと鏡を見つつ思ったわけです。
んで。そんなアンニュイな気持ちを持て余しつつ、ぱーてー会場到着。
アロイスさんにエスコートされながら、顔も名前も覚える気はないけれど、後々使えるかもしれないので、アクセに仕込んだ(「御側におれませんので代りに」ってセバスチャンが)レコーダ付き高感度カメラでばっちり相手を写しつつ適当にご挨拶して。
アロイスさんがお得意さんと話し始めたんで、これ幸いと隅っこで休憩していたらば。
いたわけですよ。ロココなイライザちゃん(笑)が。
先日アロイスさん家で勝手に騒いで華麗に気絶した、あのなんちゃら侯爵家のお嬢様が。
長くなりそうなので、分けました。




