053 勇者来たりて?
本編お久しぶりです。
うん。勇者ってのは、案外近くにいるもんなんだな。
そうだよ。勇者とは、勇気を持つもの。そして勇気とは、物事を恐れない強い心。困難や危険を恐れない気持ち。
筋肉量や膂力や、身体の大きさなんて関係ない。ましてや魔道適正や魔力の大きさや量なんて。
身体能力はともかく、異世界では魔導チートらしいわたしですが、そんな勇気はかけらも持ち合わせておりません。
ええ。
魔王にジョブチェンジしちゃった素敵執事様を説得しようとしている、ヴェニスの商人様のような勇気なんてね!
はいはい皆様こんにちは。
少々魂を飛ばして里帰りさせておりました、越谷優29歳です。
ここでちょっくらいままでの経緯を、おさらいしてみましょうか。
昨日の疲れをいやそうと、プライベートガーデンで寛いでいたところに出現した、ちょっとスィーツなお嬢ちゃん。 礼儀作法と社会的常識どこいった? な言動、ついでに彼女の脳より甘~い香水で大迷惑。
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その美しい所作と渋さにシビレル憧れるぅっ! な我が愛しの執事様がついにキレて、魔王に変化。誰かさんを彷彿とさせる魔闘気(銀色ver.)を発散?
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御主人さまとして止めようとするも、あえなく撃沈。 お嬢ちゃんとお付きの人々の冥福を祈りつつ、目をそらしていたらば、顔を強張らせたアロイスさん登場←今ココ。
「執事殿、主を貶されたのだから腹立ちはもっともだが、どうかここは押さえてくれないだろうか」
「……これは、アロイス様のお言葉とは思えませんね。使用人にとって主とは至高の存在。己のすべてをかけてお仕えするものです。ましてや私は執事でございます。執事とは主が日々心地よく過ごすために、主を取り巻く森羅万象を整える者。
もったいなくも主である優様よりその任を仰せつかっている以上、事もあろうに主を誹謗中傷するような輩を放置しておくなど、許される事ではございません。その速やかな排除は執事としての義務であり、至上の喜びなのです。さ、そこをおどきください」
「森羅万象…喜びって……いやいやそれは」
「アロイス様。これが最後の忠告でございます。これ以上邪魔立てされるとあれば、アロイス様であっても相応の処置をとらせて頂きます」
そう言い終わると同時に、下げられていたセバスチャンの右手がアロイスさんにかざされる。
普段の素敵さ執事様では考えられないくらいの、我慢のなさ。
もうっセバスチャンたら、短気さん☆
そんな軽口は、喉もとで凍ってしまう。
彼らの目線はほぼ同じだから、そのゆるく上げられた右手はアロイス氏の頭上にあって。
真っ白な手袋に包まれたそれがひと際輝いて、眩しくて。
あぁ超新星爆発って、これくらい眩いのかなとわたしは思わず目を――。
「っユタカっ、頼むっ!」
「セバスチャンっお願い!」
コンマ一秒?
これから起きるだろう惨状からというよりも、眩しさに目を覆ったわたしの耳に、アロイスさんの切羽詰まった叫びが到達したのにかかった時間は。
そして、セバスチャンが壮絶な笑みを浮かべながら放った光の矢をわたしが弾くのに、かかった時間は。
「………」
「…………」
耳に痛いほどの静寂。音がすべて吸い込まれたかのような無音の世界。
現代日本でならば、おそらく異世界でも中々味わえないだろうそんな状況に、わたくし越谷は感動ーーーしているわけもなく。
あれですね、音がなにも聴こえないのに、耳という器官はそれでもなにかを拾おうとするんですね。
そのせいで、なんか奥の方がじんじんと痛むんですね。
もしかしたら痛いのは、はじいた光の矢が建物を破壊した音のせいかもしれないけれどねっ!
「……あぁあ」
ドゴォンッ! だか、ドォオンッッ! だかいうと思っていました。
ほら、ハリウッドのアクション超大作などでお馴染みの爆発音ですよ。
映画館ではそうでもないのに、あれ家でテレビ視聴しているとなんでいきなりそこだけ大きく響くんですかね。不思議です。
まぁとりあえず、大量の火薬や爆薬を使用して何かを壊した時に出る音って、身体の前面と側面にびりびり響くモノですよね。
魔獣駆除の仕事について数か月たったころかな。蜥蜴型魔獣の衝撃波を浴びまして。
とっさに手で横に弾いたらば、えらい勢いで飛んできまして。兆弾(弾って言っていいのかな。まぁ固まりが見えたから弾で)に周囲の木だの岩だのが吹き飛んでいました。
その時の音が、ドゴォンッ! ブバァアンッ! だったのです。
「優様、あぁ、お怪我はございませんか」
で。セバスチャンの光の矢はというと。
シュバンッ!
でした。
ヂュッンッ!
だったかもしれない。
なんだろう。前にテレビで見た、高圧水で木を切る時に聴こえた音のような。カンカンに熱したフライパンに水を落した時に鳴る、音のような。
それを数百倍に増幅させたような。
とにかくわたしが弾いた光の矢は、一瞬で結構な奥行きがあったはずのアロイス邸の三階の一部を貫き。
あら向こう側が見えるようになったわ。青い空が素敵ねウフフ。な状態です。
断続的に、貫いた周囲の壁がぼろぼろと崩れているけれど、高速高温?で貫いたせいか、それも長くは続かず。
後は無音の世界が広がりましたとさ。
「……えっと……」
貫かれた壁とかそれを呆然と見ている家主さんであるとか。
色々目をそらしたいものがあるけれど、反らせない。
えぇ。「暴れるのはいい。でも後片付けは自分で」。
これも越谷家の家訓ですから。
今回ちょぉ~っと「暴れた」のはセバスチャンだけど、発光する何かを一発放っただけだから本当は暴れたって言いたくないけれど、被害が出ているのでこれはやはりアウト? ってことで、御主人さまとすれば可及的速やかに後始末を……。
崩れているだけなら元通りに組み立てれば良いけど、蒸発? 消失? している部分がかなりあるみたいだから、もう一から作って……あ~あの三階部分まだ行ってなかったからどうなっていたか知らないや。しゃあない、アロイスさんを正気に戻して記憶のぞいてそれを元に作って、あぁもうその後お嬢ちゃん達とまとめて記憶改ざんしちゃう?
そんな風に今後の段取りを考えて少々テンパっておりましたらば。
「あぁ、優様」
皆さん、平和が戻りましたっ! 我らが麗しの執事様が、戻ってきましたよっっ!!
「光の攻撃魔導を弾くなどなんと危険なことを。失礼してお手を拝見いたします――」
再起動したセバスチャンはそう言いながら心配そうに眉ひそめてわたしの手をとり。
繊細なガラス細工を扱う様な手つきで矯めつ眇めつしている。
「あぁ。良かったお怪我はされていない。私の渾身の一撃でしたが、さすがは優様でございます」
あくまで柔らかい手つきで、けれど隅々まで確認して。わたしに怪我がないのを納得したのか、ほっとしたように笑う。
くぁっ! 執事様の「安心したよ笑顔」、頂きました~!!
さっきまでは虹彩まで真っ黒に塗りつぶされたようだったグレイの瞳も、今は柔らかく細められて、いつもは冷静沈着「私の辞書に焦るなんて言葉はありません」ってな感じの頼れる執事様素敵~なセバスチャンの八の字眉毛なんてもう、もうっ!!
「え、っと、あの、セバスチャン。うん大丈夫。弾くのに、直接手を触れたわけじゃないから。なんか……鏡をイメージした気がする。アロイスさんの真正面に出したらセバスチャンに跳ね返りそうだったから、斜めに差し込んだんだけど、壁が、」
「あぁ私のことまで御心配頂くとは、なんとお優しい。さぁお疲れございましょう。すぐハーブティをお持ちしますので、お座りくださいませ」
「あ、うんありがとう。……いやでもその前に、壁、っていうか、その他もろもろ治さないと」
「ご安心ください。私がすべて元通りにしておきますので。さ、優様、こちらへ」
「……そう? ありがとね、セバスチャン」
「執事として当然のことでございます」
まぁつまりは。わたくしその時、内心ぎゅんぎゅん悶えて、萌えのあまりそこら中を転げ回りたいのを堪えるのにいっぱいいっぱいでしたから。
「私の家が……」
なんて呟きながら半分魂を飛ばしていたアロイスさんの事や。
セバスチャンの手が動いた瞬間、ひきつれた様な悲鳴を上げて華麗に倒れていたらしいスィーツちゃんや、倒れはしなかったものの腰を抜かしていたらしいお付きの人々の事は、とりあえず放置することに致しました。
はぁ~ハーブティ美味しい。
久々のせいか、これだけ書くのに数時間かかりました。




