052 魔王降臨?
ちょっと短いです。
「まぁっ、私としたことが!」
辺境伯のバカボンちゃんにはお水(氷入り)をあげたけど、このスィーツちゃんには何をあげよう?
目線を合わさないまま(えぇ、ドヤ顔みるの面倒ですから)、素敵執事セバスチャンが淹れてくれたお茶をのみつつ、そんなことをつらつら考えておりましたら。
お嬢ちゃまが甲高い声をあげました。
なんだよ、まだあんのかよ。
相変わらず一言も発することなく、心の中だけで毒づく越谷です。
嬢ちゃん、そろそろ俺の右手が暴れだすぜ?
いや左手でもいいけど。
「魔導師さまのお顔とお姿が珍……見なれぬものでしたから、すっかり目が眩まされておりましたわ」
くふふ、か、うふふ、か。
これぞ悪役! という表情を浮かべて、扇で隠した口元から、くぐもった笑いを洩らすスィーツちゃん。
あ~なんだっけ、こんな表情、どっかで見たことある……。え~っと、あれは……。
マンガを含めた読書が趣味のひとつのわたしですが、ジャンルが結構偏っておりまして。
歴史ものやら自然博物誌、エセーに伝記、民話神話に昔話などが好物です。
シー○ン動物記とかね。大好きでしたね。
マンガで言うなら少年・青年漫画系ね。
スポ根はまったく好みではないけれど、赤いトサカのバスケットマンには一時期はまったね!
とまぁそんなわけで。
目の前でピーチクパーチク囀るスィーツな小鳥ちゃんが出てきそうな、少女マンガはあまり読んでいないのですよ。
あ、でも従妹がはまったアニメを子供のころ一緒に見ていたあれは……?
「皇国の魔導師さまは皆様、そんなに短く髪を刈りこんでおられるのかしら。我が国では街の浮浪児でも、中々見ないようなその短い御髪を見た時には、ローウェル様から女性とお聞きしていたわよねと、思わずサーシャに確認をとったほどですのよ?」
わかった、イライザだ!
スィーツ嬢ちゃんが、彼女の傍らに控える侍女のサーシャさんとやらにそう言って声をかけているのを目の端に捉えながら、わたくし心の中で快哉をあげておりました。
そうだよ、「ソバカスなんて気にしない」の、ドジっ娘が主人公のあのアニメ。その悪役令嬢、イライザに似てんだわ、この子。
いやもちろんね、イライザは縦ロールでこのスィーツちゃんは盛り髪だし、目の色髪の色も違うんだけど。
全体に漂うこの小物臭というか……構ってちゃん? なところが、うんそっくりです。
そうだそうだイライザだ。あ~すっきりしたと、一人うんうん頷いて(心の中でね)おりましたらば。
横からざわりと、風がたち上るのを感じました。
「優様が黙っているのをいいことに……これは少々お仕置きが必要でございますね…………」
あれ、あれあれセバスチャンさん?
いつも穏やかな笑みを浮かべている、素敵な口髭の下のお口の両端が、なんか、いまだかつてないほど上がっておられますよ……?
え、あれ、なんだろう。
けぶる様なグレイの瞳が三日月形に細められているのに、ぎらりと光っていて、かなり怖いんですけど。
うぇ、下手な魔獣と対するより怖い。どれぐらい怖いかって言うと、実家の母上の本気お怒りモードと同じくらい怖い。
「優様。少々お傍を離れますことを、お許しください。私、お庭にはいりこみました害虫の、駆除をしてまいりますので」
仕事や遊びで多少無茶をやらかそうとも、いつも穏やかに微笑む我が自慢の執事様が。
あのうっかり朝帰りした日の、お迎え時に見せてくれた絶対零度の微笑みのさらに上いく魔王の微笑みを浮かべて、そう言いました。
セバスチャンが音もなく一歩踏み出すと、スィーツちゃん達一行が顔を青ざめさせながら、後ずさります。
もうっ、イライザ(確定)!あんた今すぐ謝っちゃいなYO!
このままだと、うちの素敵かっこいいイカス執事様に、SA・TSU・GA・I! されちゃうZO!
はい。予想外の事態に、越谷優、かなりテンパっております。
「うえ、えっと、セバスチャン、殺るのはちょぉ~っと待ってくれないかな。ほら、人は食べられないから、狩るのはまずいじゃない? 処理にも困るし。
ほら、一応このイライザちゃんたら、侯爵家の御令嬢らしいじゃない? だから何かあったらそれなりに追及されそうだし、彼女をヤルなら、口封じのために周りにいるお付きの人々もなんとかしなきゃだけど、彼らは主を止める能力がないだけで、そう罪はないでしょう?
まぁ追及のなんて難なくかわすけどさ、その手間をかけるほどの価値ないじゃん?
わたしのために怒ってくれるのは、本当にありがたいし、ナニそれ素敵、惚れ直しちゃうぅ! だけれど、ね、ほら、そのなんか発光している右手、下ろして、みないかな?」
駆除する姿を見せまいとしているのか、わたしの目の前に立ち、イライザ一行を隠しているセバスチャン。
その広い背中からうっすら立ち上る、なんだか見たことのある魔闘気(セバスチャンのは銀色ですが)? みたいなものに若干ビビりつつも、一応御主人さまですから! がんばってみました。
腰が引けちゃっているのは、見ないであげてください。
「優様、少々お目汚しすることもあるやもしれませんので、宜しければ図書室でお待ちいただけますでしょうか。私もすぐ駆除を終えて、お茶をお持ちしますので」
はっは~っ、御主人さま撃沈です★
うん、セバスチャン。
貴方にしては珍しく、顔だけこっちを向いて話しているのについては、特に言うことはないんだけど。
そして、浮かべる微笑みは、いつもながら痺れるほどにあまやかで素敵なんだけどね?
肩とか腕とかから漏れているその蒸気みたいなものが、その素敵さを台無しにしているから~!
さっきから光っていた右手の発光度が、なんか上がっているから~!
いつもならピンチの時は、セバスチャンに助けを求めるけど。
執事様が切れている時って、誰に助けてもらえばいいんでしょうか……っ!?
あ、執事様が暴走した。




