051 ロココに邪魔されました。
もう優は、極悪キャラで行こうとかと。
「あら…まぁ……」
この香りは、なんだろう。
わたしの世界でも、異世界でも今まで嗅いだ事のない、身体の隅々、頭の芯まで沁み込むような、甘い香りが。
我が家自慢のメイド部隊の一人、お留守番で寂しがってないかしらな、アヌリン特製のアップルパイ。クリーム地に小花模様の縁取りがチャームポイントなお皿に美々しい三角形に切り分けられて、わたしに食されるのをいまかいまかと待ちわびている、その食欲を刺激する香気と。
それに合わせたセバスチャン特製ブレンド紅茶の香りと。
ついでに爽やかなお庭の空気をこれでもかと汚染してくれやがりまして、大変不快です。
「アロイス様のお宅に高名な魔導師様が居られるとお聞きしたので、ぜひお話しさせて頂けたらと、楽しみにしておりましたけれど……。さすがは魔導師様、能力を隠されるのがお上手ですのね。私の目には、そこらの町娘にしか…あぁお顔も魔術で変えてらっしゃるのかしら? なんだか珍妙な」
香りの主はそう言うと、レースや宝石のようなものでデカダンに飾られた扇を優雅にひと振りして、お上品な笑い声をたてる。
恐らくその扇にも、焚きしめるか沁み込ませているのだろう。彼女の動きに合わせて、甘い香りが音を立てる勢いで襲ってきた。
が。顔をしかめて鼻を押さえる前に、彼女に気づかれないよう、セバスチャンがわたし達の周囲を消臭してくれました。
「あらまぁ、私としたことが。魔導師様のお顔があまりに見なれないものでしたから、驚きのあまり少々口が滑りましたわ。なにしろ侯爵家の娘ともなりますと、中々外出もままなりませんの。世俗に少々疎くなってしまうのも、仕方ありませんわよね?」
そのさり気ない気遣いに、いつも惚れるぜ憧れるぅ!と、無表情を保ちつつ内心で盛大に悶えていたのですが。
残念ながら、乱入者さんの一方的なお話はまだ終わっていなかったようです。
閉じていた扇を広げて、口とその摘まんだような鼻を隠しているけれど、何故か勝ち誇ったように笑み崩れている目が、隠れてないから。
一応語尾は問いかけの形をとっているけど、それ同意を求めているわけではないよね。
っていうか、貴女が突然来てから今まで。わたしがまだ一言も発していないの、気づいていますか~お嬢さん?
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あ、皆様おはようございます。
ぶらり異世界漫遊中の、越谷優、29歳です。
昨日は、朝から続々届く荷物に煩わされ。
邪魔だしさっさと処理しちゃおうと、アロイスさんに買い取り交渉しようとしたらば、予想外なもの(コ○ヨのコピー用紙)にヴェニスの商人が喰いついちゃって、あら大変。
夜更けまでかかって、どうにか異世界では作れないし売れないものであると、納得いただけました。
いや~、ほんと大変だった。
オーパーツを不用意にだしたわたしが悪かった。うん、それは認める。
セバスチャンの助けと笑顔の癒し、それから彼が淹れてくれる美味しい紅茶と珈琲に四次元ポケットから出してくれるおやつ達がなかったら、途中でトンズラしてしまうところでしたよ。
この家からどころか、この街、国から。
あ、ちなみにそこにまた喰いつかれても困る(面倒)なので、「異世界製」なんてぇのは、もちろんばらしていません。
そこら辺はまるっと単純に、「この紙は、異世界ではわたししか持っていないもので、使用者のわたしも作れない」と説明してあります。
うん。嘘はついてない。よね。
話していないことがあるだけです。
イメージするだけで瓶でも珈琲でも出てくるお便利魔導を駆使すれば、コク○コピー用紙の百冊や千冊、出ないわけないでしょうが、
そこはまぁ、異世界の根底を変えちゃいそうですし、なによりメンドクサそうなので、お口チャックで。
それでもと、アロイスさんは色々ごねておられまして。
あ~もう面倒だから、記憶改ざんしちゃうぞ★なんて、黒い心が肩や腰の疲れとともに(えぇ荷物を山と積んでいた応接間で、座って話していたせいですね)ふつふつと湧きあがってきましたが…。
優しくセバスチャンに、窘められました。テヘ。
なので本日は、朝寝坊をするぞと、固く決意していたんですよ。寝る前に。
それでも持ち主とおなじく自己主張の激しいお腹に、昼前にはたたき起こされ。寝ぼけ眼をこすりつつセバスチャンに促されるまま窓の外を眺めれば、とても良いお天気。
ならば家主のアロイスさん御自慢の中庭にてブランチとしゃれこもうではないかと、今日も素敵さ執事様におねだりして、楽しんでいたのですが…。
** *** **
「まぁ! 良く見れば魔導師様のお召し物も、見たことがありませんわ! サカスタン皇国では、そのような――素朴な服装が流行っておりますの? それとも……魔導師様の御趣味なのかしら?」
さっきからピーチクパーチクと良く囀る極彩色の小鳥さんに、邪魔されております。
はいこの小鳥さん、なんたら侯爵家のお嬢さんだそうです。
いや人が寛いでいるところに、ぞろぞろ誰か来たな~まぁいいや~と無視して紅茶を飲んでいたらば、「お邪魔します」も「ちょっと失礼?」もなしに、小鳥さんの横の侍女っぽい人が、名乗ってはくれたのですが。
聴く気がなかったので、覚えていません。
あっるぅえ~?
事前資料によれば、カルプニア連合王国って、「万事、礼節と作法を尊ぶ国」だったんだけどなぁ。
お貴族様同士でもよほど親しい間柄でもなければ、事前に人を介してお伺い立てて、仲介者と一緒に御面会。
さらに、貴族と庶民の間には暗くて深い河が流れてて?
高位の貴族と庶民が直接会話することなんてないし、呼びつけることはあっても、自分からのこのこ会いに来ることなんてないって、書いてあったんだけどなぁ。
うん、あれですね。
昨日の辺境伯家のお坊ちゃまの例もあるし、百聞は一見に如かずの典型例ってことでしょう。
対外的には礼節や作法大事ってしているけど、中に入れば、初対面の人間の都合も気にせずづかづか近づき、非常にフランクな物言いをされると言うことですね。
あ、それとも貴族のお坊ちゃん嬢ちゃんが駄目なのかな~?
見たところ、この小鳥ちゃんは10代後半?
女性の年齢はよく解りませんし、先ほど極彩色と表現しましたが、彼女のドレスや化粧などから判断すれば、20歳にはなっていないと思う。
なんと言えばいいのやら。
まとう香りと同じく、彼女の身を飾る色もまぁ~暴力的なまでに、甘い。そしてシャイニー。ついでに頭の中身も甘いようだ。
モリモリッと頭頂部に向かって巻かれた髪は…ハニーブロンド?ブラウン?
そういった方面にとんと興味のないわたしには、複雑そうとしか言えない編み込まれた髪の随所に、たぶん宝石つきのピンだのリボンだのが飾られています。
重くないんですかね、それ。まだ昼過ぎのはずですが、そのまま夜会にでも行かれるのでしょうか。
で、その盛り髪の下、すべらかな額の下に、描いているのか整えているのか知らないけど髪よりも少し濃いめの細い眉があって。キラキラ艶々した何かを瞼にこってり塗ってあり、クレオパトラもかくやと言うくらい、もとから長くて豊かなんだろうと思われるのにさらに強調された睫毛が。
わたしの友人にはいませんが、現代日本でも見かけますね、そんな化粧。
一体何時間かけているのでしょう。どうせ寝るときには落すのに、無駄とか思わないんですかね。
で。そんな睫毛に縁取られた瞳の色は、菫色? 青より薄い紫と呼べそうな色ですかね。
横で侍女さん? が名乗っている間に、わたしを上から下(と言ってもテーブルで半分隠れてますが)まで眺めた後。何故だか知りませんが、小鳥さんたら勝ち誇ったようなドヤ顔で笑っておられまして。その菫色の瞳もキラキラというか、ギラギラと輝いておられますね。
目が~目が~とでも言えってんでしょうか。
厭ですが。
彼女が手に持つ扇については、さっき書きましたね。んじゃ、ドレスですが……あぁもういいや。面倒くさい。
こちとら、素敵執事様と二人っきりの楽しいブランチを邪魔されているんですよ。
囀る小鳥さんは、なんかロココチックな恰好しています。まる。以上。
彼女が口開いてからは、一言もしゃべらない侍女? さんも、彼女たちの後ろに控えている若い男性二人も、なんかヴェルサイユ宮殿にでもいそう。
そんな感じの格好です。
「我が国にもその名を轟かす神話級の魔導師様が、女性というのも驚きましたけれど、まさかこんな方だとは…ねぇ?
神話級の魔導師様と交流をお持ちのアロイス様は、さすがに我が国でも指折りの大商人というところですけれど、おかしいですわねぇ。私にはいつもぴったりなドレスや宝石をお勧めしてくださるのに、魔導師様には服装やお化粧などの助言はされなかったのかしら……?」
うん。まぁね。
国や文化や習慣が違えば、考え方や物や状況の受け取り方は、変わって来るよね。
個人の性格もあるしさ。
お世辞にも良い(善い?)性格や言動をしていないのは自分自身が一番良く知っているし、博愛主義者でも「愛されたい体質(笑)」でもないから。
他人さまから何言われようが、物理的な損害を受けない限り、気にはならないんだけどさ。
うん、お嬢さん。
仮にもお貴族様ならば、もうちょぉ~っと言葉を選ぼうか。あと状況判断も。
話の流れからすれば、辺境伯の坊ちゃま情報で、わたしが「神話級(笑)」の魔導師だと思い込んで、相手の反応も確かめずにべらべら話し続けるのは、どうだろう。
だって、君は勝手に名乗ったけど、わたしは名乗っていないし。
お坊ちゃまからわたしの容姿を確認していたとしても、まず、その情報自体が正確かどうか確認しないと。
もしや、わざと失礼な態度をとることで怒りを煽り、わたしの人となりを確かめるつもりが?
なんて、一瞬だけ考えましたが。
そんなうがった事を考えたのが悲しくなるほど、彼女は嘘のつけない素直な方のようです。
なにせこれほど明け透けに、馬鹿にしてくれてるんだからさ。本人はオブラードに包んでるおつもりのようですが。
大体、夜会でもないのに、豪奢なドレスに身を包み、頭の先から足のつま先まですきなく飾り立てた貴女からみれば、そりゃラフな格好かもしれませんがね。
わたくし、人の家とは言え私的な空間で、寛いでただけなんですけど。
まぁもしかして貴族のお嬢様なら? いついかなる時も、美々しくドレスを着こみ、突然の訪問者にも慌てないように構えているもんなのかもしれないけど?
わたくしだだの庶民で、旅行者ですから~。
あぁ面倒くさい。
セバスチャンこれ、教育的指導いいよね?




