050 もらえるものは、貰いますよ?
更新がちょいと停滞してしまいました。お待たせしてたら、申し訳ありません。
「……うん。アロイスさん、大変お手数ですが、信用できる宝石商を御紹介いただけませんか。それとオークション業者も」
「…は?」
「で、セバスチャン。朝からゴメンねだけど、商品目録作り、手伝ってくれる?」
「仰せのままに」
「いや待て待て待て、なんでそうなる。もしかしなくても、ユタカはこれらを売るつもりか?」
今朝もいぶし銀の笑顔がまぶしいぜ! の素敵執事様の完璧な礼と微笑みに心臓を打ち抜かれていたらば。
妙に焦った口調でアロイスさんから待ったがかかりました。
え、なんすかその呆れたというか、信じられないものを見るような表情は。
折角のイケてるお顔が台無しですよ。
「何か問題でも? アロイスさんほどの商人ならば、懇意な宝石商の一人や二人おられますよね。当然ご自身も取り扱っておられるだろうし」
「『私ほどの』とはどういう意味か非常に気になるが、我が商会ではもちろん、宝石類や最新流行のドレスから貴婦人方が好みそうな菓子までなんでも取り扱っている」
「あ、じゃあ話が早い。アロイスさんのところで、これら、買っていただけません?」
「いやだから、なんでそうなる。受け取り拒否するならまだしも、一度受け取った貢ぎ――贈り物を売るのは上策ではないし、それ以前に人としてどうかと」
とっさに言いなおしたようですが、「貢ぎ物」と言いそうになったの、ばれていますからねアロイスさん。
理解不能といった風情で止めようとしている彼には悪いけれど、わたくし所詮、しがない異邦人ですから~。
「会ったこと話したこともない人間にいきなりこんなもの送りつけてくる人々の思惑なんて、知ったこっちゃないですよ。受け取り拒否したら、これらを朝っぱらから運んできた人足さんやら従僕さんやらが可哀そうじゃあないですか。彼らだって仕事しているだけなんですし。
貰えるも物は貰いますよ? でもこんな重そうで嵩張りそうで、使い勝手が悪そうな上に自分の趣味に合わなくて、ついでに持っているだけで泥棒さんに狙われそうな代物、持っていてもしかたないですから、売って他の誰かに使ってもらうのが物にもこれらを作ったであろう職人さんたちにも良くありません?
それに、貰ったものをどうしようと、わたしの勝手ですよねぇ」
にっこり笑ってお答えしました。
★★ ☆☆ ★★
え~皆様にお知らせです。
カルプニア連合王国名物三重城壁の上で出会い、その後街の小粋なレストランで、少々教育的指導を施した辺境伯家のおぼっちゃまと、ついでに愉快な従者くんは、お馬鹿さんだったようです。
あれ~おっかしいな~。
アロイスさんが彼らを追い出―――オホンッ、お見送りした時に口止めくらいしていたと思うんだけどなぁ。
「ここに彼女がいることは、あまり言わない方が…」とかなんとか、言外に「これ以上不興買ったら報復怖いよね?もっと痛くされるかもよ?なんせ『神話級(笑)』の魔導師だし。なら黙っといた方がよくね?」みたいな含み持たせて言っといたんじゃないのかな。
従者の…あぁそう、カーメン君。彼が青い顔していたし、アロイスさんの意図は伝わっていたと思うんだけどなぁ。
…うん、あれだ。きっと彼らはヴェニスの商人様の予想を上回る―――この場合は下回る?ほどの、考えなしさんだったのだろう。
あくまで予想でしかないけど、「田舎」から出てきたお上りさんが、知り合いのサロンだかパーテーだかで注目を集めようと、「ここだけの話だが実は…」なんて話しちゃったに違いない。
でなきゃ、初めて訪れた知り合いもいない王国のお貴族様達の、美々しいお仕着せ着た使者だの従者さんだのがそれぞれプレゼント持って、翌日の朝一から続々と来たりしないでしょう~?
★★ ☆☆ ★★
「…宝飾品が14に、なんか高そうな置物が6、ドレスが10に、食品類が20っと。よし。これで数え漏れはないかな、セバスチャン?」
「ございません優様」
はぅっさすがセバスチャン!
彼がその真っ白な手袋に包まれた手で持てば、ただのバインダーでさえも美しい……。
あ、もちろん。
そこだけ木漏れ日がさしかかったような笑顔ときっちり45度の礼は、スピーチレスです。
そうやって心構えなしで浴びた素敵執事スマイルに、内心で盛大に悶えていたらば。
斜め後ろ上方から特大のため息が降ってまいりましたよ?
「もはや何も言うまい……」
あらあらアロイスさんてば。
いくら朝っぱらから予定のない来客の相手させられたからって、ため息ばかりついていたら、幸せが逃げますよ?
「いや~びっくりしましたよ。朝食を頂こうと食堂に入ったら、荷物の山の前でアロイスさんが仏頂面されているんですから。てっきり取り扱っておられる商品の誤配送かクレーム対応がわんさか来て、御機嫌がよろしくないのかと思ったら、わたし宛てですもんねぇ。
それにしてもさすが大商人。皆さんアロイスさん家を御存じなんですねぇ」
この国ではかなり有名らしい「神話級(笑)」の魔導師にお近づきになろうと思ったのか、贈り物見つくろうってのは、昨日の今日って短時間でもお貴族様ならまぁ、できなくはないだろう。出入りの商人とかがきっと多大な苦労を強いられたのだろうけど。
でもアロイスさん家を知ってなきゃ、持ってこられないと思うんだよね、実際。
わたし達の世界のごとく、Face bookがあるわけでもHPやブログで割り出すわけでもないだろうに。
家の正確な場所を知られるのってセキュリティ上どうなのよと思わないでもないけど、たぶんこの家は商談とかで使っているんじゃないかな。
だからお得意さまとなるだろうお金持ちには、知っといてもらわないと逆に困るよね。
まぁどういう経緯で、わたしがここに投宿していることまで探りだせたのか知らないけどさ。
街にスパイでも放ってんのかな? あ、国境の関所?
日本のパスポートコントロールの方がよっぽど厳しいくらいゆるゆるだったけど、ルーカスさん謹製の通行許可書と宿泊先は申請したもんなぁ。
関所の兵隊さんもそうだったけど、ギリシャ人チックな王国民とは似ても似つかぬ、わたくし平たい顔族ですし?
きっと目立ったでしょうし?
「なるほどだからか~」
一人でうんうん勝手に納得していると、またため息が降ってきた。
だから幸せ逃げますよって。
「ユタカ……今一度確認しておきたい。これらすべて、本当に売るつもりか」
「え、はい。目録もできましたし」
わたしの答えにあわせ、セバスチャンがバインダーに挟んでいた紙(ちなみにコ○ヨのコピー紙です。四次元ポケットに常に500枚一冊分いれています)を、アロイスさんに差し出してくれる。
ふっ大丈夫。今度は構えていましたから、その美しい所作と一瞬の目配せに悶えたりしませんよ!
「プレゼントについていた、何とも仰々しい送り主さんからのカードは抜き取りましたし、飾りのリボンとかは再利用させてもらいますが、中身はよろしくお願いします。もしアロイスさんの所で取り扱ったのがばれて、後々商売に差しさわりがでるのであれば、他の方に依頼頂きたいです。
あ、その場合の手数料は、きちんとお支払いしますんで」
「いや、心配しているのはそこではなくてだな…」
わたしの方を向いたまま、セバスチャンから機械的に紙を受け取り、なにか言おうとしていたアロイスさんだったけれど。
言葉を途中で切ると、受け取った紙(書かれている文字ではなく)を、まじまじと見つめている。
あ、まさか。
「ユタカ、この紙…紙なのか、コレは。私が扱っている紙には非常に高価なものもあり、王家の公文書に使われているものもあるが、これは、この薄さと軽さ、なにより手触りはどうだ!…陽にかざせば向こうにあるものが透けるほど薄いのに…書きこまれたインクの滲みもほとんどなく、かといって弱いわけでもない。羊皮紙はもとより、我が国で製造されている一番高価な紙とて表面にざらつきがあり、細心の注意を払ったにしても、書いていけば文字の滲みやペン先を取られて書き直しを余儀なくされるというのに……セバスチャンは魔術を使っていたようには見えなかったし、はっそれともそのペンは、魔導具かっ!?」
ワーニング、ワーニング!
ヴェニスの商人が襲来しました。総員退避願います。
わたしの中の司令部が警報をだしてくれましたが、一足遅かったようです。
ほぼノンブレスでそんなことを呟いたアロイスさんに、がばりと肩を掴まれました。
あ、目が若干いっちゃってます。
皺ひとつ入ってないところを見ると、紙を掴む手つきはとても慎重のようですが、わたしの肩を掴んでいる手には白い筋が見えます。
うん、忘れていたよ。
カルプニア連合王国の文化(文明)程度は、わたしの世界で言えば、ルネサンス中期くらいと思われる。
わたしの世界でも、西側に「紙」がもたらされたのは、8世紀末のタラス河畔の戦い以後。
その後も高級品として扱われ、16世紀末、天正遣欧少年使節が西欧諸国を歴訪した際捨てたという「ちり紙」が、ヴェネツィアの博物館に残っていたりする。
現代でも旅行先でノートや手帳を出すたびに、紙質の良さに驚かれ、値段を答えればさらに驚かれていたものなぁ……。
「ユタカっこの紙は、セバスチャンが持っている魔導具は、サカスタン皇国で作られたのか? どこに行けば手に入る? ぜひ私に扱わせてくれ」
え~っと、とりあえず。
セバスチャン、ちょっと助けて?




