第2話:肉体は追いつかない──血反吐の回避劇
脇腹の傷を破った衣服で強く縛り、イノリは血を吐くような思いで夜の森を歩き続けた。
1分戻せても、自分の体が弱ければ致命傷を負う。痛みに耐えかねて意識を失えば、そのまま死だ。
「はぁ……はぁ……死んでたまるか……」
夜明け頃、ようやくたどり着いた街道。そこで見かけたのは、山賊に襲われている商人たちだった。
「ひぃぃっ! 金を置いていけば助けてくれるって言ったじゃないか!」
「ハッ、死人に口なしだ!」
助けに入ろうか──一瞬そんな甘い考えが浮かぶが、イノリは自分の傷ついた腹部を見て即座に首を振った。
(無理だ。今の俺じゃ返り討ちに遭って死ぬ。関わるな……!)
正義感で死ねるほど安っぽい命じゃない。イノリは物陰に潜み、気配を殺して山賊たちが荷物を奪って去るのを静かに待ち続けた。
山賊が去った後、倒れていた商人たちに駆け寄る。護衛は死んでいたが、足を怪我した初老の商人が息の根を留めていた。
「だ、誰か……助けてくれ……」
「俺は通りすがりの者だ。街へ行くなら、一緒に行こう。俺も一人じゃ危険だ」
イノリは商人・トーマスの肩を借り、互いに支え合いながら街道を進んだ。泥泥の身なりと手傷を負った者同士。
トーマスは助けてくれたお礼として、手持ちの数少ない銅貨と、固い干し肉を分けてくれた。
「君も命からがら逃げてきたんだね……ありがとう、助かったよ」
「……いや、俺もあんたが居なきゃ街まで持たなかった」
無双のヒーローではない。お互いの利害が一致したからこそ手を取り合い、泥臭く生き延びる。イノリは干し肉を血の味がする口の中で必死に噛み締めながら、開拓都市ルークスの門をくぐったのだった。




