プローの街で宿をとってから地球に戻る話
プローの街の冒険者ギルドに顔を出すと、《紺碧の空》のグレイス以外が揃っていた。
「おや、こっちに来たのか」
レオドーラが右手をあげて話しかけてくる。
「ええ」
答えている間にケイティがこっちに来て、三毛猫をじーっと見た。
「珍しい。キャスパリーグだ」
「キャスパリーグ?」
オウム返しでケイティに訊き返す。
「うん。精霊の一種だよ。なついてるなら安心」
なつかなかったらどうなるの?
と訊きたくなったけど、なんとなく訊く勇気が出なかった。
レオドーラが変な顔をして質問してくる。
「キャスパリーグなんてやべえものを、どこで見つけてきたんだ? この街に入るまではいなかっただろ」
やべえという点を意図的にスルーして、俺は質問に答えた。
「トーマスさんの店ですよ。どうすればいいかわかんないタマゴのような装飾品って扱いでした」
「……あの商人、呪われてるんじゃないか?」
レオドーラが顔をしかめる。
もしかしなくてもいわくつきなのかな。
「あんなモンスターの大群に襲われるって、普通はないし」
エイダも同意している。
「なるほど。やっぱり幼体。ならリスクは低い。たぶん」
ケイティの反応で、逆に不安になったんですけど。
「ジョータローさんはギルドに顔を出しにきたのでは?」
オリビアが遠慮がちに言った。
「おっと、悪い」
「ごめん」
レオドーラとケイティがカウンターへの道を開けてくれる。
「いえ。話しかけてもらってうれしかったです」
俺は気にしなくていいと伝えた。
陰キャにしてみれば、知り合いがいるっていうのは心強いからな。
受付カウンターの男性にライセンスを見せ、果ての村から来たことを告げる。
「ジョータロー・オーヤマ様ですね。情報は入ってきております。あなたは二級冒険者へのランクアップが認められました」
「えっ。もう?」
つい先日冒険者になったばかりなんだけど。
「はい。果ての村で魔石の納品量と、《紺碧の空》との共同での危機対応が評価されました」
「なるほど」
その辺が評価されたら、ランクが上がるんだ。
「もう少し魔石や素材を納品していただけると、三級冒険者へランクアップいたします」
そこまで教えてもらえるのか。
モチベーションになりやすくていいけど。
冒険者はフリーだから、ランクが上がっても固定給が上がったりしない。
ただ、より報酬がいい依頼を請けやすくなるようだ。
とりあえず宿を探そう。
それから地球に帰ろうかな?
体調に影響が出ないように、時間調整したほうがいいかも。
ギルドの外に出たらエミリーが立っていた。
「ジョータローさん。父が宿を探すなら紹介したいって言ってるわ」
「そうなんだ。ありがとう」
エミリーと会話をしたのは、これが初めてかも。
可愛らしい感じだ。
せっかくだからトーマスに頼らせてもらおう。
二人で歩いている間は無言になる。
歳の近い女子との話のネタなんて持ってないよ。
「あのときのジョータローさん、かっこよかったわ」
不意にエミリーが言う。
「いきなり抱きかかえてごめんね」
緊急事態だったのでつい。
謝れてよかった。
「ううん。気にしてないわ」
エミリーのきれいな笑顔を見て、ようやく安心する。
ただ、会話は続かなかった。
「おお。エミリー、ジョータローさん」
店の前でトーマスがにこやかに手を振ってくる。
「娘から聞きましたか? 知り合いがやってる宿なら、割り引きが利くと思うのですが」
「はい。ありがたいことです」
俺はうなずいた。
クレジの貯蓄は順調だけど、今後何にどれだけ必要なのか、まだ全然わかんない。
節約できるならしたほうがいい気がしている。
「エミリーありがとう。私が案内しましょう。こちらです」
トーマスが案内してくれたのは、『運を招く兎亭』という看板を出している宿だった。
「ここの主人のジェームズは子どもの頃からの友人でしてね」
宿のドアが開いて、トーマスと同世代らしき男性が出てくる。
「おお、トーマス。相変わらず運がいいのか悪いのか、難しい奴だな」
「生き残ってるんだから運がいいと思うぞ、ジェームズよ」
親しさがうかがえる軽口の応酬があったあと、ジェームズが紹介された。
「トーマスを助けてくれたんだってね。一人一泊食事なしで八千クレジでどうだろう? 調べたらわかるが、よそだと素泊まり一万五千くらいだよ」
ジェームズに言われてびっくりする。
「それでやっていけるんですか?」
「コツがあるのさ」
ジェームズはにやりと笑う。
守秘義務で教えてもらえなかったけど、かまわないというなら泊まらせてもらう。
八千クレジを先払いで渡して、部屋まで案内してもらった。
掃除がしっかりされてて清潔だけど、狭くて寝るだけの部屋って感じである。
「ふー」
これで地球に一回戻ればいいよな。
「【リターン】」
地球に戻ってきた。
「にゃー」
キャスパリーグが肩の上で鳴く。
「あっ」
すっかり忘れていた。
普通にこっちに連れて来れるんだな。
「俺は風呂に入るけど、どうする?」
「にゃっ」
キャスパリーグはあわてた様子で肩から降りる。
どうやら風呂はきらいらしい。
「それに俺が言ってることを理解できるんだな」
異世界のふしぎな生物だから、か?
とりあえず風呂に入って、寝るとしよう。
異世界で濃い時間を過ごしたから、こっちでの平和な時間が恋しくなった。




