プローの街
プローの街に着いたのは夕方だった。
馬車が門の入り口に行くと、武装した三十人くらいの男女が集まっている。
「やっぱり救援が編成されてましたね」
それを見たグレイスが予想通りだと言う。
トーマスと馭者席から降りて、自分たちの無事を知らせる。
「おお!? 無事だったのか!?」
「しかしどうやって!?」
武装した男女が大いに盛り上がっていた。
そこでグレイスたちが登場する。
「《紺碧の空》っ!!」
一目で言い当てられてるあたり、やっぱり有名人っぽいな。
そう言えば冒険者ランクを教えてもらってないけど、どれくらいなんだろう?
「あなたたちのおかげか!」
「さすが南部の英雄たち!!」
ワーッと盛り上がってる。
すごい人たちだったんだな。
「私たちだけの力ではありません」
グレイスはよく通る声できっぱりと否定する。
……もしかしなくても、俺も出て行かないといけないやつ?
そっと様子をうかがっていると、レオドーラとケイティが笑顔で俺の手をとって引っ張り出す。
美人に手を握られたドキドキより、この空気感で出て行く緊張感のほうが、ずっと上だった。
やっぱり俺って陰キャだよなあ。
「ど、どうも」
「彼の機転で私たちは助けられました」
グレイスはしっかり俺のことを褒め、紹介もしてくれる。
未知の場所にやってきた異世界人には、最高にありがたい気遣いだ。
わかっていても緊張してしまうけど。
「事情はわかった。緊急救援指令は解除だな」
「トーマスさんと《紺碧の空》から、冒険者ギルドに話してもらうほうがいいだろう」
武装した男女は言う。
「承知しております」
グレイスは笑顔で同意し、トーマスもうなずいている。
彼らが解散したあと、グレイスがこっちを見た。
「私たちはこの地方の領主に会いに参ります。ジョータローさんは冒険者ギルドに顔を出しますか?」
「そのつもりです」
他にどうすればいいかわかんないし。
「ではまた会いましょう」
俺の言葉に微笑んでグレイスたちは立ち去る。
「冒険者って、簡単に領主に会えるものなんですか?」
小声でトーマスに訊いてみた。
「まさか。貴族令嬢であり、青銅級の冒険者でもあるグレイス様だからです」
トーマスは真顔で否定する。
やっぱりそうなんだ。
青銅級がどれくらいのランクかわかんない(数字ですらない)けど、おそらく上位のランクだろう。
「ジョータローさん。冒険者ギルドに顔を出す前に、私の店に顔を出してもらえませんか? せめてできるお礼をしたいのですが」
一瞬悩んだあと、トーマスの申し出を受けることにする。
できればお礼はもらいたいし、トーマスはたぶんちゃんとお礼をしないと落ち着かないタイプなんだろう。
トーマスの店はなかなかよさそうな立地にかまえていた。
「あなた! エミリー!」
きれいな女性がトーマスとエミリーを見て叫び、駆け出す。
そしてエミリーと抱き合う。
映像で見てもピンと来なかったけど、現実で見るとジーンと来るな。
無事に再会できてよかったと思う。
「なんとか無事だったよ。こちらのジョータローさんの協力で」
トーマスが俺を紹介してくれる。
「夫と娘を助けていただきまして、ありがとうございます」
きれいな女性はやっぱりトーマスの奥さんだったか。
こんな美人が奥さんなんて、男としてちょっとうらやましい。
「お礼を差し上げたいが、現状金銭的な余裕はないからね。こちらの方がほしいものを譲る形にしたい。今、グレイス様が領主と会いに行ったので、なんらかの補償は期待できるし」
トーマスが奥さんに説明している。
「わかったわ。ジョータロー様。当方は中規模の商会なので、お気に召すものをご用意できるか存じませんが」
奥さんはとてもきれいな営業スマイルで話しかけてきた。
「いえ。ご縁を作れたらと思いますし。この辺に知り合いがいないので」
俺は率直に答える。
グレイスとのやり取り的に、貴族ともツテがある商人っぽいし。
人脈を持ってそうな知り合いは欲しいところだ。
「それは喜んで」
トーマスと奥さんの声が重なった。
……向こうにも俺と仲よくするメリットがあるのかな?
なら気が楽なんだけど。
きれいに整頓された店内に案内される。
「扱ってるのはアクセサリーや宝石ですか?」
訊いてみた。
「ええ。他の分野では強力なライバルが多く」
トーマスが苦笑しながら答えてくれる。
「アクセサリーや宝石はたしかな需要がありますし、評価を得られたら上客もつきますからね」
奥さんが自信をにじませて言った。
たしか貴族の令嬢ともツテがあるってことだし、結果を出しているんだろう。
宝石が高く売れるなら、あんまり広い店舗は必要なかったりするのかな。
「しかし、俺が欲しいものはあるかどうか?」
魔道具とか売ってる店なら、欲しいものを見つかったかもしれないんだけど。
「その件ですが、こちらをご覧ください」
トーマスが奥の棚へ連れてきた。
銀色だが、それ以外は鶏のタマゴみたいなものが置かれている。
「偶然手に入れたんです。宝石とするには大きすぎますし、だからと言って珍しいものを手放す踏ん切りがつかなくて」
トーマスが事情を話してくれた。
恩人の俺になら譲ってもいいし、価値が高いものなら俺はラッキーってことか。
「もちろん、お礼のほうを金銭に変更していただくことは可能です。補償が入ったあとになってしまいますが」
トーマスがすばやくつけ加える。
「うーん。触ってもいいですか?」
「どうぞ」
触ってみたらたしかに珍しい逸品という気はした。
……こっちだと売れなくても、日本だったらもしかしたら誰かに売れるのでは?
ネットオークションとかもあるわけだし。
高い値段がつけば、母さんが楽になるだろうな。
「よし、これにします」
「ありがとうございます」
俺が言うとトーマスはホッとする。
金銭的な補償は実はきつかったのかな?
「じゃあ遠慮なく」
タマゴを手のひらに乗せると、なんか俺の体内から魔力が減っていく。
「うん?」
銀のタマゴは光を発して、割れてしまった。
「えええ」
俺だけじゃなくてトーマスやエミリーも呆然としている。
中からは三毛猫が姿を見せて俺を見て「にゃー」と鳴いた。
「……猫?」
子猫サイズの猫にしか見えない。
「これはいったい?」
なにが起こったのかとトーマスに訊く。
「おそらく霊獣か何かのタマゴだったのでしょう。主として認められる存在が触らないと、ただのタマゴだったわけです」
トーマスの見解になるほどと思う。
そういう存在がこの世界にはいるわけか。
あとでグレイスたちにも訊いてみるほうがいいかな。
「にゃー」
三毛猫はもう一度鳴くと、俺の右肩に乗っかる。
「ジョータローさんについていくつもりですね。やはりあなたを主として認めたんでしょう」
トーマスは言う。
「なるほど」
俺は三毛猫を見ると、ゴロゴロとのどを鳴らす。
「じゃあちょっと冒険者ギルドに顔を出してきます」
顔つなぎをしておくほうがよさそうだしね。




