商人父娘と《紺碧の空》
そのお姉さんたちはやがて戻ってきた。
ところどころ汚れはあるけど、全員が無傷な上に疲れてないのがすごい。
それともヒーラーの魔法で、その辺も何とかなるものなのか?
なんて思ってたら彼女たちはまっすぐに俺のところに来た。
「ありがとうございます。機転を利かせていただいて助かりました」
剣士の女性が笑顔でお礼を言い、同時に四人がぺこりと頭を下げる。
正面から見たらみなさんビジュアルが強くない?
「いやー。俺が入っても邪魔になりそうだったし、だったら動きやすくなってもらうほうがいいかなって」
俺が大規模殲滅魔法とか使えるなら、たぶん戦闘に参加しただろう。
照れながら謙遜する。
「それがありがたいのです。私たちは冒険者《紺碧の空》。私はリーダーを務めるグレイスと申します。あなたは?」
剣士の女性はにこやかに名乗った。
「俺はジョータローです。この辺には詳しくなくて」
どうせバレると思ったので、先に言っておく。
「なるほどです」
グレイスはうなずいてから小首をかしげる。
可愛らしい上に品があって、冒険者というイメージが崩れそうだ。
「ところで馬車と荷物はどうなさいましたか? あなたが何かをしたのですよね?」
「ああ。たまたま手に入れたアイテムに収納したんです」
説明しなきゃいけないと思っていたやつだ。
目の前で取り出して見せると、みんなから声が上がる。
「へえ、収納用の魔道具か。けっこうレアだね」
グレイスの横で盾役をやっていた女性が感心した。
やっぱりレアなやつだったんだ。
女神から初期装備としてもらったとは言えないな。
「いや。もっと上の力が宿ってる気がする」
魔法をガンガン使っていた、俺と年が近い少女が指摘する。
ギクリとさせられるな。
魔法使いなら何となくわかるものなのか?
「ケイティ、あまり詮索はしないの」
グレイスが横からたしなめる。
「そうそう。詮索されたくない事情を持ってるのは、冒険者ならお互い様だからな」
戦士の女性が同意した。
「ありがとうございます」
秘密に対して配慮してくれたのは助かる。
まあこんな美人の女性たちが冒険者やってるのも、なんか訳ありって気もするけど。
詮索はしないでおこう。
「あのう。私たちもそちらの男性にごあいさつを」
おじさんがおそるおそる話しかけてくる。
そう言えばまだ名乗り合っていなかったな。
緊急事態を乗り切ったところだから、すっかり忘れていた。
「私は商人のトーマス。こちらは娘のエイミーです」
トーマスさんが名乗り、美少女がぺこりとお辞儀をする。
「トーマスさんでしたか。サフォーク伯爵家のジェシカはご存じですか?」
グレイスが表情を動かして問いかけた。
「はい。ありがたいことにごひいきいただいております」
トーマスさんのほうもちょっと驚いたようだ。
「《紺碧の空》と聞いてもしやと思っていたのですが、ボルチェスター侯爵家のグレイス様でしたか」
何やら気づいたという表情で確認する。
「ええ。三女のグレイスです。もっとも今は単なる冒険者のグレイスですけど」
グレイスはとてもきれいな笑顔で言った。
……侯爵家のお嬢様が冒険者をやっているのか。
道理ですごい美人な上にどこか気品を感じると思ったよ。
トーマスの反応的に有名人っぽい。
「このあとはどうするのですか?」
どうすればいいのかわかんないので、グレイスとトーマスに訊いてみた。
「私たちはトーマスさんにお任せします。乗り掛かった舟ですしね」
護衛を継続するということか。
「ありがとうございます。充分な謝礼を用意するのが難しいのは、心苦しいのですが」
トーマスは恐縮した顔で言う。
モンスターの大群に襲われたあとだし、余裕はないのかも。
「人々の危難を救うのは貴族の務めですし、冒険者の責務でもあります。あとで国に報告して掛け合います。モンスターによる災害ですから、保障があるでしょう」
グレイスは笑ってからこっちを見る。
「ジョーさんでしたね? あなたのことも報告したいので、ご協力お願いできますか?」
思いがけない提案だった。
「俺って大したことはしてないですが」
そんな褒美をもらってもいいんだろうか?
「とんでもない。あなたの機転がなければ、おそらくトーマスさんたちは守り切れませんでした」
グレイスは真剣な顔で首を横に振る。
自分たちの心配は全然してないな。
たしかに守る必要がない状況になってからは、あまりにも一方的な展開だったけど。
「わかりました。お任せします」
俺が言うとグレイスはにこりと微笑む。
「では、プローの街に一度戻りましょうか。逃げ延びた商人の方々が、おそらく急を知らせてるはず。救援の編成がはじまってるかと思います」
グレイスは提案してから、こっちをまた見た。
「ジョータローさんのご都合は大丈夫ですか?」
確認してくれるなんて優しい。
「はい。ちょうどプローの街を目指していたので」
俺にしてみたら好都合だ。
トーマスが指笛を吹くと、逃げていた馬が戻ってくる。
「すごいですね」
感心するとトーマスは笑って、首を横に振った。
「人間といっしょのほうが生存できるってだけです。頭はいいんでしょうね」
「なるほど」
でも、そんな頭がいいって時点ですごいけどなあ。
馬車は詰めれば6人が座れるということで、《紺碧の空》の五人といっしょに座った。
ケイティが魔法をかけることで、普通の馬車よりスピードが出るらしい。
「自己紹介まだだっけ? 戦士のレオドーラだよ」
「魔法使いのケイティ」
「ヒーラーのオリビアです」
「斥候のエイダ」
改めて俺たちは自己紹介をしあった。
「ところでジョータローさんは異世界人ですよね?」
いきなりグレイスに訊かれて、ぎょっとして固まってしまう。
「ときどき迷い込むので、隠さなくても大丈夫ですよ」
グレイスは優しい笑顔を向けてくるし、残り四人もこくりとうなずく。
「まあ噂レベルで聞いただけで、見るのは初めてだけどな!」
レオドーラがけらけら笑う。
「こちらになじめない方が多いとも聞きますしねえ」
グレイスは痛ましい表情で言った。
ケイティとオリビアは興味津々という顔でこっちを見ている。
「あなたは平気?」
と訊いてきたのはケイティだった。
「今のところは」
俺は答える。
確実に女神からもらった魔導書や指輪のおかげだけどな。
なかったらたぶんすでに人生詰んでたと思う。
「たしかにちょっと違いそう」
ケイティは俺がはめている指輪を見て言った。
ドキリとさせられる。
女神からもらったものを、開示していいのかわかんないんだよな。
「ケイティも異世界人を見るのは初めてでしょう?」
グレイスが笑う。
「むう」
ケイティは不満そうに口を尖らせる。
こういうところは子どもっぽい。
「わからないことがあれば相談に乗りますよ?」
グレイスに言われたのは、渡りに船だった。
「実は気になっていることがあるんです」
俺が訊いたのは物品のこと、食べ物のこと、さらには風呂のことである。
「ジョータローさんがお求めのものがあるかはわかりませんが、大きな街を目指すというのは妥当ですね」
グレイスは納得の顔で言った。
「プローの街は王国南部の交易地点の一つでもある。美味い飯もあるし、物品もいろいろと揃ってるし、風呂がついてる宿もあるぞ」
レオドーラに言われてちょっと安心する。
日本に戻って風呂に入るという選択肢もあるんだが、戻りにくいタイミングもあるだろうからな。
あと風呂の文化がないと怪しまれそうだし。




