プローの街を目指そう
まずは異世界に戻る準備を整えた。
「我をかの地へと帰還させよ【リターン】」
そして魔法を唱えて、異世界の宿に戻ってくる。
「……しまった。風呂を忘れていた」
せめてシャワーを浴びてくるべきだっただろうか?
まあいい。
日本に戻れば風呂に入れるんだから。
戻り方がわかんなかったときと違って、ずっと気は楽だった。
ふと思いついて魔導書を見てみる。
新しく魔法は増えていなかった。
「……考えすぎか」
そんなポンポン新しく魔法が使えるようになるものではないらしい。
「ふー」
買った魔力回復ポーションを適時飲み、一階でゴブリン狩りをしていた。
杖と帽子のおかげで【火炎弾】を三回も多く使えるのは、地味に大きいと思う。
強くなったら誤差かもしれないけど、今はありがたい。
「魔石の数を数えるのは面倒くさいな」
ときどきだが、狩りに来たらしい他の冒険者の姿も見かけた。
ここで魔石を数えたり、魔導書を出すのはやめておこう。
一度宿に戻ってから魔導書を確認した。
「おっ。増えてる」
新しく名前が載ったのは「シールド」と「リインフォース」の二つだった。
シールドは物理攻撃には強めだが、魔法攻撃にはあまり期待できない。
リインフォースは身体能力を向上させてくれる魔法だという。
うすうす思っていたけど、この魔導書は女神からもらったんだし、神代遺物なのかもな。
冒険者ギルドに行ってハイネさんに魔石を渡す。
「はい。60個ですね。300万クレジになります」
ハイネさんはちょっと驚きながらも、評価をして報酬を渡してくれた。
60ものゴブリンを狩ってたのか。
ゴブリンメイジらしきものは一匹も出なかったので、マジでレア個体だったんだなあ。
「他の町に行ってみたいんですが……」
冒険者ギルドの人になら言ってもいいだろうと思って切り出す。
「そうですね。ジョー様くらい稼げる方なら、移動されるほうがいいでしょう。大きな街から行けるダンジョンもありますし」
ハイネは仕方ないという顔で答える。
おお、やっぱりそうなんだ。
「ここから一番近い、大きな街にはどうやって行けばいいですか?」
デカい街ならいろんなものが手に入りやすいだろう。
それに美味しい飲食店だってあるはず。
安直かもしれないが、まずは安直にいきたい。
「では、村を出て北上していった先にある、プローの街はいかがですか?」
ハイネは地図を見せてくれる。
ここは大陸の南の端のほうだってことは理解できた。
「わかりました。ありがとうございます」
礼を言うとハイネさんは笑顔でうなずき、
「ただし」
と付け加える。
「何でしょう?」
意味ありげだなって思って続きを促す。
「昨日到着予定の隊商が遅れています。悪路には注意してください」
「え、はい」
てっきりトラブルに注意してくださいって言われるかと思ったら、まさかの「悪路にご用心」だった。
「トラブルじゃないんですか?」
俺の質問に答えたのは、背後からやってきたおじさん冒険者だった。
「この辺は税金が少なくて、道の整備ができてないからな。隊商が遅れるのは珍しくない。予定通り来るほうがレアなくらいだ」
「な、なるほど」
日本ではとても考えられない理由に目を丸くする。
そんなんじゃあ助けてもお礼には期待できないんだろうな。
何もないのが一番だし、まっすぐプローの街を目指そう。
宿代はすでに払ってるから、宿の人にはあいさつだけして出発する。
徒歩で行くならきついけど、今は【リインフォース】があるからだ。
練習がてら行けばいいし、つらくなったら【リターン】で地球に帰って休めばいい。
地球に帰って休めるようになった時点で、キャンプの必要性が薄れるよな。
時間経過だけがネックだけど。
夜に歩こうにも、暗視関係の魔法なり道具なりがいるだろう。
何らかの解決策をひねり出せなきゃ、結局キャンプはやらなきゃいけないか?
「【リインフォース】」
あれこれ考えるのはあとにしよう。
まずは身体強化魔法を使ってみる。
「おお」
加速力は想像以上で思わず声が出た。
でも、すぐに口を閉ざす。
これ、普通に自転車をこぐより速くない?
プローの街との距離はわかんないけど、予想より速く着けるかも。
魔法のおかげか、走っていてもあまり疲労感はない。
体育の授業でこっそり使いたいくらいだけど、陸上選手より明らかに速いから無理だろうな。
短距離選手よりずっと速く、マラソンランナー並みの持久力を発揮するなんて、インチキ丸出しすぎる。
賞賛されたい欲求はあるんだけど、悪目立ちはいやだなぁ。
バレないことを考えるなら、疲労軽減の方向性がいいかもしれない。
そんな魔法があればいいなあ。
おや?
前方で怒声や喚声らしきものが聞こえてくる。
もしかして誰かが戦闘しているんだろうか?
ふしぎに思って減速する。
余計なお世話になりそうなるスルーするけど、危ないようなら加勢を考えたい。
俺でも勝てそうなモンスターならいいんだけど。
ダメだったら、どこかに救援を呼びに行くくらいはしよう。
近づいてみたら女性四人組のチームが、背後に馬車と親子らしい二人組をかばいながら、モンスターの大群と戦っている。
倒れている人間の姿は一つもない。
一方でモンスターの死骸は数える気が起こらないほど多い。
強さという意味では女性四人組のほうがずっと上なんだろう。
しかし数が違いすぎるので、均衡状態に持ち込むので精一杯といった感じだ。
女性剣士は俺が瞬きを一回する間に、三匹以上のモンスターを切り伏せる。
隣の戦士は三匹以上モンスターの攻撃を、軽々とさばく。
その後ろから魔法使いが広域魔法を放ち、モンスターの群れをまとめて焼き払う。
四人目はヒーラーで、前衛二人が軽く負傷するとすぐに治癒し、ほかにも定期的に支援魔法をかけなおしている。
絶望的な状況だ。
しかも逆転の方法が見えないのに、四人とも心が折れずに勇敢に戦っているのはかっこいい。
これ、俺が加勢しても焼け石に水だろうし、そもそも連携の邪魔になるんじゃないかな?
どうすればいいのか悩んでると、一人の女性が高速で駆けてくる。
「リーダー! 原因を見つけたよ! あっちの森の奥!」
見た感じ偵察役って感じだったし、内容的に原因を探してたのかも。
「そう」
話しかけられた剣士はうなずくが、表情に余裕はない。
偵察役の人がちらりと女性たちの背後にかばわれている男女を見た。
ああ、二人を守らなきゃいけないから、動けないのか。
「あのう。よかったらそこの二人の護衛を、俺が引き受けますよ」
話しかけたとき、リーダーの女性と偵察役がこっちを見る。
驚いた様子はないので、俺の存在にもきちんと気づいていたのだろう。
「……信じていいのかしら?」
リーダーは探るような目を見てきた。
「二人を死なせないだけなら、どうにかなると思います」
口で言っても信じられないだろう。
俺は【リインフォース】をかけなおし、馬車に乗った荷物を収納する。
そして驚く男女を抱えてダッシュで離れていく。
今の俺なら人二人を抱えていても、自転車並みの速さは出せるようだ。
「へえ」
短く感心する言葉が聞こえたのは、【リインフォース】のおかげだろうか。
俺たちがかなり離れた場所まで来て視線を向けると、女性たちはモンスターたちを蹴散らしながら、猛然と森のほうへと進撃していた。
やっぱりこの二人を守るために動けなかっただけらしい。
「あ、ありがとうございます」
四十代のおじさんに礼を言われる。
「あ、ありがとう」
続けて同い年くらいの少女にもお礼を言われた。
「どういたしまして」
大したことじゃないと思うけど、受け取っておこう。
「えっと。もしかして隊商の方ですか?」
たった二人だと「隊商」とは言わない気がする。
事前に「隊商が遅れてる」と聞いてなければ、思いつかなかった質問だ。
「ええ。突然モンスターの大群に襲われ、散り散りになってしまいました」
男性が青ざめた顔で答える。
「たまたま通りがかった冒険者のお姉さんたちが助けてくれたの」
少女も言った。




