日本ではモブな陰キャのまま
日本でも魔法は普通に使えることを確認してから登校する。
キャスパリーグに留守番を言ったら「にゃー」と返事された。
賢い猫だな……ただの猫じゃないんだけどさ。
土日休んだだけなのに、かなり久しぶりな感じがするのは、異世界での生活の影響だろう。
「おはよー」
クラスの連中があいさつをしている。
俺がしても返ってくる。
別にはぶられているわけじゃなかったしな。
友達と言える人間がほぼいないだけだ。
「おー、大山くんじゃん。おはよー」
廊下を歩いていたら、近くの女子に声をかけられた。
そこに立っているのはレベル違いに可愛い女子。
男子の間で学年で一番ビジュアルがいいって噂されてる、栗花落葵だった。
「おはよう」
話しかけられるのは初めてじゃないので、驚きはなかった。
彼女は自分のビジュアルを鼻にかけず、気さくな性格なので人気が高い。
現に俺に対して自分からあいさつしてくれる唯一の女子だ。
モデルと言われても納得のスタイルのよさである。
栗花落におやっという顔をされた。
前までは話しかけられたら緊張したけど、今日はなんか緊張してないからかな?
異世界でグレイスは栗花落並みの美人だったし、貴族令嬢としての権力、さらには上級冒険者として戦闘力も持っていた。
それと比べたら栗花落は美人で人気でも、グレイスほどの影響力と戦闘力は持っていないだろうからな。
《紺碧の空》が美人揃いだったのもあるかもしれない。
自己分析しているうちに、栗花落が女友達に話しかけられる。
「あおいー、雑誌見たよー。相変わらず決まってるね」
「ミカ、ありがとー!」
きゃっきゃっと盛り上がった。
「おーやまもおはよー!」
ミカと呼ばれた女子は俺に笑顔であいさつして、教室内に入っていく。
悪い子じゃないんだよな……俺も入ろう。
ピリピリとした感じがない平和な空間ってすばらしい。
クラスカーストの低い陰キャなのでこれまでは学校があまり好きじゃなかった。
俺の居場所はここにない、みたいな?
けど、今ではそんな感覚はあんまりないというか、こういう空間っていいよねと思えてしまう。
だから誰も話しかけてこない休み時間もべつにいやじゃない。
自分でびっくりするほど、感じ方が変わっているな。
昼ご飯を一人で食べながら、他人事のように分析している。
「ねーねー。葵! 『るりメモ』のコンサートあるんでしょ!? チケットの販売ってまだ!?」
「まだだと思うよー」
クラスの女子が栗花落に話しかけていた。
「『るりメモ』、そろそろファンクラブ開設してくれないかな!?」
「うーん。うちの事務所は大手じゃないから、もうちょっとかかりそう」
別の女子の質問にも栗花落は答えている。
「あ、ごめん。同じ事務所だからって、葵に言っても仕方ないよね」
女子が気まずそうな顔で、栗花落に謝っていた。
『るりメモ』か……名前は聞いたことがあるなあ。
女子たちに人気があるってことは、男性グループなのかな?
わかんないし俺に向けて話してるわけじゃないので、聞き流そう。
そうやって時間は過ぎて放課後だ。
帰宅しようと廊下を歩いていたら、ばったり山口と遭遇する。
「おや、大山氏。なんかちょっと雰囲気が変わった?」
数日ぶりに会っていきなりふしぎそうに質問された。
「え、そうかな?」
心当たりはあるんだけど、そんなすぐに気づけるもんなのか?
「まあ変わってないことにしておこう」
山口は踏み込んでこない優しさがある。
秘密ができちゃった俺としてはありがたい話だ。
二人肩を並べて歩く。
「山口は最近なんかあった?」
数日ぶりに会うとき、いつも放ってる質問だった。
「うーん。個人的には……周囲は『瑠璃色メモリー』のコンサートで盛り上がってるけど。大山氏の周囲は?」
「ああ、瑠璃色メモリーだからるりめもなんだ?」
山口の言葉でようやく理解する。
「瑠璃色メモリーは今年に入ってから大ブレイクした、ガールズユニットだよ。ほら」
山口はスマホを操作して、画面を見せてくれた。
たしかに可愛らしい女性四人組が映っている。
「現状ではトップグループには敵わないけど、十代女子の支持がかなりすごいって話だ」
「さすが山口は詳しいな」
よどみなく答える友人に感心すると、苦笑された。
「大山氏が無関心すぎるだけだろう。芸能界に興味はないのか?」
「あんまり」
隠したって無駄なので、正直に答える。
「大山氏のクラスの栗花落を見たことあるけど、本当に驚くほどビジュアルがいいじゃないか」
「まあそうだな」
否定する理由がなんにもないのでうなずいた。
栗花落くらい顔がいい女はあんまりいない……少なくとも地球には。
グレイスたちと知り合った影響で、ちょっと脳内に付け加えておく。
「それでも無関心なのか」
「だって俺には縁がないだろう?」
山口の言いたいことはちょっとわかる。
でも、栗花落は明らかに住む世界が違うだろう。
あのクラスなら有能で顔も性格もいい男を恋人にできるはずだ。
同じクラスっていう関係性から発展するはずがない。
現に栗花落と山口以外、俺に話しかけてくる人がいないのだ。
これが俺の立ち位置なのである。
異世界に行く前はいやだったが、今は別にいいかなって気はしていた。
異世界で冒険者になれたし、美人たちとも知り合えた。
もうちょっとなんかあるだろうと期待が持てている。
「ああ。なるほど。大山氏はそういう性格なんだな」
山口も納得してくれたようだ。
「じゃあまたな」
道の途中で山口と別れて、家に帰る。
「魔法を使うタイミングなんてないな」
当たり前なんだけど、学校じゃあ使うのは難しい。
今使える魔法にちょうどいいものがない、という理由もある。
そもそも魔法って言っても信じてもらえないだろうな。
俺だって自分がこの立場じゃなかったら、信じないだろうし。
家から帰ったら母さんは不在だったので、部屋にいるはずのキャスパリーグの様子を見に行く。
「にゃー! にゃー!」
キャスパリーグはちゃんと留守番をしていたが、おかんむりだった。
もっと早く帰ってこいと言ってるようだ。
「ごめんだけど、学校ってこんなものだよ」
早退するわけにもいかないし。
「にゃ!?」
がーんという顔で鳴き声をあげたキャスパリーグ。
絶対に俺の言ってることを理解してるよな。
「とりあえず名前をつけるか。シェルとかどう?」
「にゃー」
パッと出てきた名前だけど、いやそうじゃない。
決定でいいだろう。
「にゃー」
シェルは窓の外を見て鳴く。
ちゃんと留守番をしていたんだから、外に連れて行けってこと?
「母さんはもうすこしして帰ってくるだろうし……晩ご飯のあとでいいか? かまってやるから」
母さんにシェルの説明はしたほうがいいし、たぶん宿題を先にしろって言われるだろうしな。




