増えていく新しい魔法
考察しようにも情報が足りてない。
ひとまず棚上げにして、食事をとることにする。
カイルたちに買ってもらった食料を、晩ご飯代わりに食べてみた。
「悪くないな。しょっぱいけど」
保存を利かせるため、肉には塩分が多い。
あとは干し果物の砂糖漬けだ。
「こっちは甘い」
ちょうどいいという加減はなさそうである。
保存をミスったら食中毒待ったなしだから、仕方ないんだが。
収納用の魔道具なら、新鮮な状態の食材を保存できるらしい。
ただしバカみたいに高いとカイルたちは嘆いていた。
俺は女神からもらった指輪を、素直に使わせてもらうとしよう。
「風呂に入りたいなあ」
この世界では……この村に風呂はほとんどないらしい。
お湯をわかして布で体を洗うだけだそうだ。
お金を貯めたら風呂を探しに行くか、自分で作るかする必要がありそうだ。
体をふいてみたが、あまり満足できない。
石鹸やシャンプーもないしな。
日本人にとってはけっこう厳しいところなんじゃないか?
不満や不安から目をそらすためにも、まずは寝た。
「あんまり寝られなかった」
この世界、そして日本に戻れるのかという不安は、きっと意識していたよりもずっと大きいのだろう。
あるいはベッドの仕立てがよくないせいか……両方かな?
スマホが視界に入ったので操作してみる。
充電も日時も昨日とまったく同じままだった。
「日付は異世界に来たからでいいとしても、充電が30%まま固定なのはどう考えてもおかしいよな」
電源を落としてないのにすこしも減らないなんて、どんなふしぎな力が働いているんだろう?
「……考えてもわかんないか」
先に朝ご飯を食べよう。
素泊まりの宿も、お金を出せば朝ご飯は出してくれる。
うーん、でもこれはよくなかったかな。
黒いパン、野菜たっぷりのスープだけだった。
道理で200クレジっていう安い値段のはずだよ。
「冒険者をやってるなら、外で食べたほうがいいと思うよ」
宿の人の申し訳なさそうな顔と言葉が、耳に痛い。
「さて。今日も魔法の練習をがんばろう」
豚男──オークは仕留めるのに【火炎弾】三発が必要だ。
お金稼ぎにはよくても、魔法効率的にはあまりよくない気がする。
安全を考えるなら一階でゴブリンを狩るほうがよさそうだ。
ここである程度鍛えたら、地球に帰還するための方法を探さなきゃ。
やっぱり王都とか大きな街まで行かなきゃ、見つからないものなのかな。
『果ての塔』の一階に入ってみたけど、誰もいなかった。
けっこう繁盛しているみたいに聞いたような……?
それともみんなこの時間帯に一階にはいない感じ?
それはそれでやりやすいかも。
「【火炎弾】」
「【火炎弾】」
出てきたゴブリンを二匹、火炎弾で撃破する。
落ちた魔石を二つ拾う。
「何と言うか作業感があるな。命懸けの緊迫した戦いよりはましだけど」
浮かんだ考えをあわてて打ち消す。
死にたくないし、できれば命も懸けたくない。
安全だけど退屈な単純作業のほうが、ずっといい。
ぜいたくなことを考えちゃ罰が当たるよな。
異世界に来てる時点ですでに罰ゲームって気もするけど。
「二階にはまだ行きたくないなー」
と思っていたら、杖を持ったゴブリンが出現する。
初めて見るタイプだ。
しかもかぶってる帽子が黒じゃなくて赤い。
「もしかしてレア個体?」
ゲームとかであるやつだ。
「ぎぎ」
ゴブリンが鳴いたと思ったら、火炎弾が飛んでくる。
「うわぁあ!」
間一髪で避けることに成功した。
服と肌には熱が残ってる。
あっぶねええええ。
これ、食らったら死ぬ!!!!
「ぎぎ」
火炎弾が次も撃たれて、転がるように回避した。
髪の毛がちりちりとこげたのは気のせいだろうか。
「【火炎弾】」
反撃しないと殺されるだけだ。
そう思って火炎弾をこっちも発射する。
「ぎぎ」
レア個体ゴブリンも火炎弾を打ってきて、相殺されてしまった。
「ウソだろ……」
こいつ、序盤で出ていいモンスターじゃなくない?
ゲームならともかく現実では。
「ぎぎ」
また火炎弾が飛んできた。
「わああ」
大慌てで避ける。
火炎弾は火の玉が直線的に飛んでくる。
だから来るとわかっていれば避けやすい──待てよ?
つまりこのゴブリンにとっても、火炎弾は相殺しやすい魔法なのでは?
ゴブリンが予想しにくい魔法ってなんだ?
杖を持ってて魔法を使ってくるんだ。
さすがに魔法使いタイプと考えていいだろう。
「うひゃああ!」
またしても飛んできた火炎弾を必死に避ける。
「ひぃひぃ」
過呼吸みたいになってきた。
どうすればいいんだよ。
逃げ帰って大丈夫か?
「ぎぎ」
またまた火炎弾。
「ふぉじい」
まだ生きてるのが、我ながら奇跡って気がする。
どうすれば生き残れる??
ゴブリンが予想できない魔法?
そんな都合のいいもの、初心者が覚えてるわけないだろ!!
あ。
一つだけあった。
「【創水】」
やけくそでゴブリンの顔を覆う。
火炎弾を撃つ前に「ぎぎ」という声が聞こえるので、妨害してやるつもりだった。
せめて時間を稼ぎたい。
あとは息を整えてダッシュで逃げよう。
「……んん?」
息を整えているうちに違和感を覚える。
よくよく見てみたら、レアゴブリンは苦しそうにもがいているだけ。
反撃してきそうな気配はまったくない。
そう言えば【創水】で出した水って、俺が解除しなかったらどうなるんだ?
レアゴブリンの様子を見てるうちに余裕が生まれたので、そのまま見守っている。
そしたらレアゴブリンはその場で倒れて杖と帽子、さらに大きめの石を落として消えてしまった。
ばしゃりと水がダンジョンの床に落ちる。
「……この展開は正直予想してなかったな」
魔法を使っておいて何だが。
命懸けの戦いが変な冗談みたいな結末に終わってしまって、俺の情緒もイカれそうだ。
「この杖と帽子は何だろうな?」
レアドロップだとうれしいけど。
スリル満点の戦いが終わって、どっと疲れてしまった。
もうダンジョンでの探索を続ける気はしない。
いったん撤退しよう。
『果ての塔』の外に出てきたら、外はまだまだ明るかった。
「ふーっ」
日の光を浴びてようやく生を実感し、大きく息を吐き出す。
お漏らしするかと思ったよ。
今だから言えることを噛みしめ、村へと戻る。
遭遇した村人は怪訝な顔をしたが、何にも言わなかった。
冒険者の予定外の行動に慣れているんだろう。
俺は村の冒険者ギルドに行って、受付のハイネさんに話しかける。
「すみません、アイテムに関して相談したいのですが」
「はい。何かレアなものでも見つけましたか?」
まだ何も言ってないのに、さらっと予想してくるあたり、経験の差ってやつかな。
「これなんですけど」
俺は杖と帽子を取り出してみせる。
「おお。ゴブリンメイジの帽子と杖ですね」
ハイネは知っていたようだ。
「どちらも魔力の消費を抑える効果があります。揃って装備すれば魔法の発動回数をけっこう増やせますよ」
「おー! そうなんですね」
ハイネの説明に驚く。
序盤の装備としては悪くなさそうだ。
どちらも似たような効果なのは、あくまでも序盤ってことなのかな。
「あとは魔石も落ちたんですけど」
ゴブリン二匹とゴブリンメイジの魔石を取り出す。
「あわせて45万クレジになります」
ハイネさんは魔石を見て即答する。
となるとゴブリンメイジって、下手すりゃオークよりも強い?
たしかに死ぬかと思ったもんな。
あいつと今度戦うときは、防御魔法を覚えたい。
あるいは身体能力を向上させる魔法とか。
魔石の使い道は思いつかない。
「とりあえず魔石は売ります。杖と装備はとっておきます」
決めたことを伝える。
「ええ。もし魔法使いでしたら、もっといい装備が手に入るか、魔力回復手段を確立させるまで、装備するのがいいかと思います」
ハイネさんの言葉にうなずく。
魔力回復ポーションはあるけど、一本三万クレジなんだよな。
……ゴブリンをコツコツ倒せば黒字か。




