果ての村と果ての塔
「ここら一帯が冒険者向けの宿だな」
カイルがぐるんと大きく腕を動かし、十ほどの建物を示す。
「意外と多いんですね」
素直な感想を言った。
村というわりには宿の数が多すぎやしないだろうか?
「それだけの理由があるってことさ。今はそこそこすいてるはずだから、ジョーは気に入ったところを選べばいいよ」
カイルが笑いをかみ殺しながら言った。
「はい」
「じゃあ次は冒険者ギルドに案内しよう」
カイルたちの厚意に甘えて案内してもらう。
カウンターには若い女性が座っていた。
「そちらの人は初めてよね? 冒険者ギルドにようこそ」
きれいな笑顔で言われる。
「新人の登録と魔石の売却を頼みたい」
カイルに言われて受付の女性はうなずいた。
「ではこの端末に手をかざしてください」
女性がカウンターの上に置いた機械を見て、ぎょっとする。
キャッシュレス決裁用の装置そっくりだったからだ。
「わかるぜ。最初見たとき驚くよな」
カイルは笑いながら共感してくれる。
驚いた理由が違うんだが、ここは乗っかっておこう。
手をかざすとピーっと音が鳴る。
「ジョータロー・オーヤマ様ですね」
いきなり名前を言い当てられて、またしてもぎょっとなった。
「やっぱり驚くよな? これ、神代遺物らしいぜ」
「レリック?」
知らない単語だったので訊き返す。
「神話の時代に神様が作ったか、神様に弟子入りできるレベルの職人が作ったとされる、とんでもない力を持った道具のことさ」
「そうなんですね」
相槌を打つ。
女神ポンティクルスと会えたくらいだから、この世界に本物の神様がいたってふしぎじゃないか。
「ライセンスを発行いたします。身分証を兼ねております」
受付の女性が淡々と告げる。
「偽造できない身分証を、神代遺物が作ってくれるなんて、便利だろう? ジョーは今まで作ってなかったようだが」
「たしかに便利ですね」
端末に手をかざすだけでいいとか、とんでもない代物だと思う。
人智を越えたアイテムなのはたしかだ。
「と言っても名前と犯罪歴くらいしか、わからないですけどね」
受付のお姉さんはさらっと言う。
「犯罪歴チェックもできるんですか」
普通に強すぎない?
「あとは各地の冒険者ギルドで手続きしていただければ、冒険者ランクはアップしていきます。ジョーさんは現状一級ですね」
と受付の女性に言われる。
一番下が一級なのか。
ある意味わかりやすいな。
「ちなみに俺らは二級な」
カイルが白い歯を見せる。
まあ二階でしくじってたあたり、そんなところだろうとは思ってた。
「ハイネさん、魔石を買い取ってあげて欲しいんだけど?」
カイルが受付の女性に話しかける。
「はい。どうぞ」
ハイネの視線がこっちに向いた。
俺はゴブリンが落とした三つ、豚頭が落とした一つを全部出す。
「一級魔石三つと二級魔石ですね。あわせて35万クレジになります」
クレジがここの通貨なのか?
どれくらいの価値なのか、よくわかんないぞ。
貨幣が入った革袋を受け取る。
「生活するだけなら、毎日一階で狩りをやるだけでやっていけるぜ。一人暮らしなら、だけどな」
カイルに言われた。
「毎日ダンジョンに入るのは心身の健康が心配です。三日に一日くらいは休んでください」
ハイネが注意してくる。
「ああ。そうだな。一人暮らしなら月20万も稼げば充分だしな」
カイルの仲間がうなずいた。
そうなると一クレジがだいたい一円くらいなのか……?
まあ「言語理解」とかで、そう感じられるように調整が入ってるかもだけど。
「ところで助けてくれたお礼だけど、何が欲しい? 俺らが渡せるものならありがたいんだが」
カイルに改めて訊かれて、悩んでしまう。
お礼はしっかりと受け取っておきたいが、何がいいんだ?
数秒考えてパッと思いつく。
「水と食料のことなんだけど」
「……それは宿か食料品店で買えばいいだろ。案内はするけど、お礼としてはどうなんだ?」
カイルは不満そうだった。
もっとしっかりとしたお礼をしたいらしい。
「俺らじゃ大したお礼はできないから、ジョーが欲しい分の水と食料を買って渡すのが無難じゃないか?」
カイルの仲間、リゲルが言った。
「そうするか」
「俺もそれでいいよ」
と俺も賛成する。
あんまり持ってない人にガツガツ要求するのも、何か違う気がした。
「ついでに村も案内してくれる?」
と訊いてみる。
「おお、任せろ」
カイルたちは快諾してくれた。
ハイネとのやりとりを見る分には、どうやら銀行っぽいシステムもこの世界にはあるらしい。
「ここは雑貨屋だな。消耗品や日用品を売っている」
「ここは薬屋だ。ポーションや風邪薬を買う」
「ここは武器屋だ。『果ての塔』の十五階くらいまでなら、ここの武器で充分だ」
「ここは食料品店だ。近隣で手に入るものはある程度揃っている」
村は意外と広くて、歩き回るとけっこう時間がかかった。
「せっかくだから、知ってる魔法、あるとうれしい魔法について教えてくれないか?」
村の案内もひと段落したタイミングで、俺はカイルたちに訊いてみた。
右も左もわからないままよりいいだろう。
「俺ら魔法使いはいないけど、それでいいなら」
とカイルたちは答えてくれた。
ただの雑談だと思ったのか、怪しまれてはいない。
「魔法使いがいたら欲しいのは、地図作成呪文。あとは飲用水を作る呪文だな」
まずはカイルが言う。
「『果ての塔』はまだ単純だからいいが、複雑な構造のダンジョンに入るときは、マッピングは必須技能と言えるよな」
リゲルはうなずく。
「飲用水を作れる呪文があれば、水を持ち運びしなくてもいいから助かる。そういう意味で荷物を軽量化する呪文、あるいは収納用の魔道具も欲しいところだ」
三人目の仲間キールも言った。
「二級冒険者の稼ぎじゃ魔道具はきついから、使える魔法使いを探すしかない」
カイルが言い二人の仲間は苦笑する。
俺としては収納の問題は気にしなくていいから、使えるようになりたいのは飲用水の作成と地図作成の呪文だな。
俺がカイルたちの仲間になれば解決かもしれないが、地球人が入ったら迷惑じゃないか?
あと、できるだけ早く地球に帰りたいし、ずっといっしょにいられるわけじゃないしなあ。
……仲間に入れてくれって頼むのはやめておこう。
「いろいろとありがとう。参考になった」
俺は改めて礼を言った。
「こっちこそ、助けてくれてありがとう」
カイルたちと手をふって別れる。
俺が選んだのは『星をながめる』という名前の宿だ。
広くはないし古い感じだが、部屋は清潔だった。
あと値段が素泊まりで二千クレジなのもいい。
中年の夫婦がやっている宿なので、民宿って感じがする。
俺みたいなのに慣れているのか、とくにかまってこない距離感もいい。
コミュニケーションが得意じゃないからな。
三階の部屋に入ってカギをかける。
「さてと」
女神からもらった魔導書を取り出して開いてみた。
なんか新しい呪文が使えるようになっていればいいんだが。
俺の期待に応えるように、二つの魔法が増えていた。
「水の神よ。この身に恵みを与えたまえ【創水】」
さっそく試してみたら、手のひらサイズの水の玉が出現する。
「これで生活用水の問題は減少したか」
魔法で水を作るんだから、俺の魔力量という制約がある。
水を買っておくか、容器を買って保存しておくか、どちらかしたほうがいい。
あるいは魔力回復用のポーションを買うか。
どっちのほうが安くて便利なのか、計算してみないと。
もっとも、カイルたちが買ってくれた分があるので、しばらくは問題ないのだが。
「旅の神よ。御身の英知を貸し与えたまえ【地図作成】」
呪文を唱えてみると、なるほど頭の中に周囲の地図が浮かび上がる。
紙を持っていれば、自動的に転写してくれるらしい。
「これも便利だな」
スマホの地図アプリの代替存在となれる魔法だ。
そりゃカイルたちも欲しがるわけだよ。
「……ちょっと変じゃないか? 俺が欲しい魔法が増えてるんだが?」
違和感を声に出してみる。
この世界で【創水】と【地図作成】の難易度はわからないが、偶然なのか?




