もうちょっとリアリティーあることを
なにがなんだか、俺にはさっぱりわかんない。
変な気配がして、青い火の玉と戦っていたのが同じクラスの女子で、しかも『瑠璃色メモリー』のメンバーを守っていた?
たとえフィクションでも、もうちょっとリアリティーあることを書いてくれよ。
そう言って肩をすくめたい気分だ。
「大丈夫そうなら俺はこの辺で」
よくわかんないバケモノに襲撃されてた芸能人に、それを守っていた同じクラスの女子。
どう考えても巻き込まれたらやばそうだったので、手をあげて立ち去ることにする。
相手が一般人なら見捨てる行為になりそうだけど、有名人ならちゃんとした護衛を用意できるだろ。
現に栗花落と辻本が守ってたんだし。
「ちょっと待って! お礼させて!」
エリかリンかわかんないけど、呼び止められる。
えええ……でも、お礼は欲しいな。
母さんの負担を減らすために、バイトをしたいと思っていたところだ。
有名人を助けたんだから、五万円くらいは請求してもいいよな?
五万円があれば食費にはできるだろうし。
「お礼かぁ。できればお金でお願いします」
Uターンして言うと、四人とも面食らっている。
「いきなり現金だね」
栗花落は苦笑した。
「そういう人だったんだ?」
辻本の言い方にはすこしムッとしてしまう。
「母子家庭だから、家計を楽にしたいんだよ」
「ご、ごめん。知らなくて」
説明すると辻本はぎょっとして、あわてて謝ってくれる。
「今のはミカが悪いかな」
「人にはいろんな事情があるからね」
栗花落、エリ、リンが三人とも俺の味方をしてくれたのは、ちょっと意外だった。
「ごめん!」
「いいよ」
ちょっとムッとしたのは事実だが、知らなかっただけで謝ってくれたしな。
謝ってから三人に追撃食らったのは気の毒な気がするし。
俺が許すとホッとした空気が流れた。
「ところで大山くん、このあと時間ある?」
「平気だけど」
栗花落の質問に即答すると、女子たちは顔を見合わせる。
「やっぱり男子って門限がゆるいのかな?」
エリがちょっとうらやましそうに言った。
「門限はないな」
「さすが男子」
なにがさすがなのかわかんない。
と思ったけど、女子って門限があったりするのかな?
「平気ならうちの社長に会ってほしいんだ。そっちのほうがお礼の話がしやすいし」
と栗花落が言う。
「そっちのほうが絶対いいよ」
「社長を紹介したいし」
エリとリンの二人はかなり乗り気だった。
え、芸能事務所の社長に一般人が会っても大丈夫なのか?
でも、お礼は欲しいし……。
結局ついていくことにした。
どうやっていくんだろうと思ったら、辻本が取り出した札が車に変わった。
「認識妨害つきの霊車だよ。おーやまは見るの初めて?」
驚きが伝わったんだろう。
辻本にうなずいておいた。
「大山くんが使う力って、私たちとは系統がかなり違うよね」
栗花落が興味深そうな顔で言う。
みんながイメージする魔法そのものって言ったら、どう思われるんだろう?
「霊力で作るから、乗る人数に応じてサイズを変えられるんだよ」
辻本は言って運転席に座る。
後部座席にはエリ、リン、栗花落が座った。
「……よろしく」
俺は助手席と思われる場所に行き、辻本に声をかける。
後部座席でビジュアル超絶強いS級美少女三人と座るなんて、勘弁してほしい。
助手席なら前を見てるだけでいいし。
「こっちに来るんだ」
辻本はけらけら笑う。
「ところで運転免許は?」
「え? うちらって超法規的存在だよ?」
俺の質問に辻本はふしぎな答えを返してくる。
そしてすごい速度で走り出した。
「スピードマニア?」
話には聞いたことがある、ハンドルを握ったら人格が豹変するタイプ。
「普通の車ならちゃんとルール守るけど、これって意味ないから!」
というのが辻本の答えだった。
慣れているのか、後ろの女子三人はおしゃべりしている。
「社長、事務所で待ってるって」
「りょーかい」
栗花落の言葉に辻本は端的に言った。
「着いたよ」
俺が言うのもなんだけど、時間感覚がバグりそうなスピードだった。
ここはどこなんだろうと思っているうちに、栗花落と辻本に先導される。
「葵とミカの知りあいってことは、同じ学校だったりするの?」
道を歩きながら左に立ったエリが話しかけてきた。
欧米の血が入ってることがうかがえるスーパー美少女である。
「え、うん。同じクラス」
話しかけられたことに驚きながらも返事した。
芸能人って、俺みたいなモブキャラが珍しいのかな。
「それは偶然だね。……偶然?」
右を歩くリンの言葉にうなずいた。
「絶対に偶然。なんか変な感じだと思って行ってみたら、そこで栗花落たちが戦っていて、すごいびっくりした」
正直に答える。
「たしかにあのとき、三人ともすごい驚いてたよね」
エリが納得した。
なんと言うか、案外話しやすい性格なんだな。
「あ、ここだよ」
小さなビルを栗花落が指さす。
もしかして自社ビル持ってるの?
栗花落が一階のドアを開けたとたん、四十代の女性が飛び出してくる。
そして四人を見て、ふかぶかと安堵の息を吐き出す。
「みんな無事でよかった。連絡をもらったときは心臓が飛び出しそうだったわ」
紺色のスーツを着た四十代の女性は、こっちを見た。
「あなたが大山くん? うちの子たちを守ってくれてありがとう」
しっかり頭を下げて礼を言われる。
「どういたしまして」
他にいい言葉が浮かばなかった。
ちょっとえらそうかな?
「立ち話もなんだし、さあ中に入って」
女性に言われて中にお邪魔する。
よくわかんないまま、応接室と書かれた部屋に通された。
「人が不在だから、私がやらなきゃなの」
照れ笑いを浮かべた女性はお茶を置いた後、名刺を出してくる。
『薙原プロ社長 薙原礼子』と書かれていた。
「社長さんでしたか」
「そうなの。じゃあさっそくだけど、話を聞かせて」
薙原社長の言葉で、栗花落と辻本が交互に説明する。
「そう。大山くんがいなかったら、危なかったのね」
「はい」
四人ともはっきりと肯定した。
「改めてありがとう」
また礼を言ってくるなんて、薙原社長はていねいな人なんだな。
五万円ほどお礼が欲しかったんだけど、もしかして六万円もらえる?
「まずは今日の報酬の分だけど、四人も助けてもらったのだし、800万円でいいかしら?」
「は、はっぴゃく……」
八百円じゃないんだよな?
ひゃくのあとに万ってついてたもんな。
「足りない?」
薙原社長に首をかしげられてしまう。
「す、すみません。いきなりで混乱しました」
なんとかして話を続けようとする。
「大山くん、もしかして今まで仕事をしたことがないの?」
栗花落に言い当てられてしまった。
報酬の金額に動揺したから、わかったんだろうな。
「そうなんだ。相場もよく知らなくて」
正直に言っておく。
「……今回の単発の相場なら妥当だと思う。いいところはもっと高いだろうけど、うちはそこまでの資金力がなくて」
薙原社長が申し訳なさそうにする。
同時にエリとリンの二人がぎゅっと拳を握った。
「大丈夫です。でも母になんて説明しようかな」
「……もしかしておーやまって、『裏社会』とはまったく無関係だったりする?」
つぶやきを拾った辻本に訊かれる。
またバレるようなことを自分で言ってしまったらしい。
うなずくと栗花落、辻本、薙原社長の三人は視線をかわす。
「そういう人もいるのか」
「フリーもいないわけじゃないですけど」
三人が短く話し合ったあと、薙原社長がこっちを見る。
「うちで仕事をすることにしたって形ではダメかな? 葵とミカの同級生ってことは、契約を交わすのに親御さんの許可が必要なんだけど」
うーん、ダメじゃないけど、母さんはなんて言うかな?
「母を説得してもらえるなら、俺は全然かまいませんが」
そっか、俺って未成年だから、母さんの理解がないとお金を受けとるのも難しいんだ。
異世界ってその辺あまりにもガバガバだったなあ……。




