学校ではめだちたくない
「助けてもらっておいてなんだけど、詳細は契約を交わしてからだね。近日中、君の母上に会いに行こう」
薙原社長の言葉にうなずいた。
まあなんで狙われるのか、プライベートな話になるかもしれないし。
よく知らない女性芸能人のプライバシーなんて、聞かされても気まずいだから言わなくてもいいんだよって思った。
言葉に出せるだけの勇気はなかったけど。
ひとまず自宅まで戻った。
「まさか日本でも充分ファンタジーだったなんてな」
モンスターみたいなやつがこっちにも存在していて、戦ってるのが同じクラスの女子だって?
全然わかんなかった。
昨日の俺に言ったところで、笑ってスルーするだけだな。
気づけたのはシェルのおかげなので、魔法を覚えたくらいじゃ気づかなかっただろう。
母さんに都合のいい時間を訊いたら、明日の放課後ってことになった。
学校での日常はとくに変わらない。
ときどき栗花落と辻本の視線を感じたくらいだ。
話しかけていいか迷ってる気配だったけど、そっとしておいてほしい。
二人とも学年有数の美少女って言われてるんだから、陰キャの俺に話しかけてきたら絶対に目立ってしまう。
二人は空気を読んでくれたらしく、話しかけられなかった。
ホッとするよ。
「どういうことなの?」
母さんはやはり困惑する。
俺だって昨日意味わかんないって思ってたんだから、母さんに訳が分かるはずがないよな。
「穣太郎さんのポテンシャルに私が目をつけ、ぜひスカウトさせていただきたい次第です」
やってきた薙原社長ともう一人の女性が、にこやかにあいさつしている。
「薙原プロ、ですか。うちの子にそんな技能があるとは思えませんが?」
さすが母さん。
警戒半分、俺への容赦ない評価が半分ってところだろう。
昨日までだったら母さんの意見を100パーセント支持したんだけど。
「穣太郎さんの技能は特殊ですね。うちのようなところでないと、充分には活かせないと思います」
「はあ」
母さんの反応が良くないな。
なにができるか具体的に言えてないのが、やっぱりまずいんだろうか?
「うん? 薙原プロって、もしかして福野鳥大吉さんがいらっしゃいます?」
母さんがなんかに気づいたらしく、表情が変わった。
「ええ。うちの看板の一人です」
薙原社長はふしぎそう。
「私大ファンなんです」
母さんの機嫌がよくなる。
「ああ。たしかに彼は女性から支持がありますね」
俺には訳が分かんないが、薙原社長には理解できたらしい。
「私、藤崎は福野鳥のマネージャーもしております」
藤崎という女性が改めて告げたら、母さんのテンションが目に見えてあがる。
「よくわかんないけど、わかったわ。しっかりやりなさい」
母さんは言って契約書にサインし、捺印をしてくれた。
……これでよかったんだけど、ちょっと釈然としない。
薙原社長のほうは露骨に安心している。
「じゃあ報酬は穣太郎くんの口座に振り込むから」
薙原社長の言い方は上手い。
昨日の報酬を今日明日中にって意味だろうに、母さんは単に今後の話だと思っていそうだ。
薙原社長たちが帰ったあと、
「あんたどうやって知り合ったの?」
単刀直入に母さんが訊いてくる。
この辺に関しては薙原社長たちと相談済みだった。
「昨日、たまたま知り合ったんだ。同じクラスに薙原プロに所属してるモデルがいて」
事実をまじえて説明する。
相手を納得させるコツは、事実を九割入れることって薙原社長が言っていた。
「そういうこともあるのね」
母さんは納得してくれた。
魔法とかモンスターとか言えないから、ごめんよ。
「ケガには気をつけるのよ」
俺の仕事の詳細を知らずに送り出してくれるのは、信じてくれるからだろう。
頭を下げる。
「大げさね」
母さんは照れたように笑った。
「バイト代、ちょっとは家に入れるから」
俺が言うと母さんが固まる。
「気にしなくていいのに」
母さんはうつむく。
子どもに気遣われるのがいやな人だからな。
いい手ではないんだろうけど、あいにくいい手を思いつけなかった。
「親孝行、ちょっとはさせてくれよ」
俺たちはもうたった二人きりの家族なんだから。
「……うん」
母さんはうつむいたまま、うなずく。
なんとなく抱きあった。
母さんとこうして触れ合うのは、ずいぶんと久しぶりな気がする。
「じゃあバイトに行ってくるね」
実は詳細の説明はこのあとなんだが、母さんには言えない。
「いってらっしゃい。無事に帰ってきてね」
母さんの言葉を胸に留めておこう。
危険な行為をしないという選択肢はないんだろうけどさ。
家の外に出たタイミングで、シェルが上から降ってきて俺の右肩に着地する。
「驚いた」
できてもふしぎじゃないんだけど、いきなり来るとなるとな。
こっそりと移動して、昨日行ったことがある薙原プロへと移動する。
スマホアプリのおかげでなんとか来れたな。
事務所のドアを開けて出てきたのは、栗花落だった。
「やっぱり大山くんだった」
「やっほー」
手を振ってきたのは辻本だ。
モデルの美少女とギャル風の美少女コンビは、視界を圧倒する。
「学校ではあんまり声かけられたくないオーラ出してなかった?」
笑いながら栗花落が話しかけきた。
「あってる」
なんどもうなずいた。
「なんで? せっかくなんだし、仲よくしよーよ?」
辻本が首をかしげる。
「いやー、学校では目立ちたくないし」
なんで陰キャがカーストトップの美少女と親しいの? って言われても、説明できない。
この二人にアプローチしたい男子なんていくらでもいるだろうし、目をつけられても困る。
魔法なしなら俺はかなり弱いだろ。
「そういう人って実在するんだ」
なにがウケたのか、栗花落と辻本はけらけらと笑う。
「中で社長が待ってるから、入って」
招き入れられて、また一階の応接室へと入る。
そこにはエリ、リンとあと二人知らない女性に藤崎さんが待っていた。
「たぶん大山くんは知らないだろうけど、『瑠璃色メモリー』は四人組のユニットなんだ。エリさん、リンさん、ユイさん、リエさん」
栗花落の紹介にあわせるように、初対面の二人が立ちあがる。
「初めまして、ユイです」
「リエです。よろしく」
笑顔を向けてくる二人とも相当可愛い。
芸能人ってこんなにビジュアルが強いんだ。
おそろしい場所なんだな。
「初めまして、大山穣太郎です」
とりあえずあいさつを返して室内を見回す。
『瑠璃色メモリー』は女性四人組で、栗花落と辻本も女子。
あと薙原社長と藤崎さんも女性という、男女比がやばすぎる状況に泣きたくなった。
「おーやまって帰りたいとか思ってそう」
「わかる」
辻本が言い出して、栗花落が共感を示す。
「ご名答」
バイトの話じゃなかったら、全力で逃げ出していただろう。
ユイとリエ、それから藤崎さんの三人はいっせいに笑い出す。
「なるほど。聞いていた通りの子なんだ」
藤崎さんの顔には安心がある。
「可愛い芸能人とお近づきになれた、ラッキーと思うタイプじゃあこっちは困るからね」
薙原社長の言葉に納得した。
「仕事しろって話ですよね」
……なぜか女性たちは顔を見合わせる。
「彼って高校生なんだよね?」
「私たちと同じクラスですけど」
薙原社長の言葉に辻本が答えた。
「違う理由でちょっと心配になったわ」
薙原社長の言葉が解せない。
俺はなにを間違えたんだ?




