第8話:野生の魔王、公式大会へ
「海藤、見ろ。この無機質な会場に満ちる殺気……。これぞ、現代における『選抜試験』の場か」
公式大会『ルーキーズ・チャレンジ』当日。剛は都内のイベントホールに降り立っていた。 数百人のプレイヤーがひしめき、モニターから発せられる熱気とボタンを叩く乾いた音が、かつての戦場の喧騒を呼び起こす。
「剛、あれはただの緊張だよ。殺気じゃない。……でも、確かにレベルは高そうだ。気を引き締めていこう」
誠がそう宥めるが、剛の歩みは止まらない。 彼は自身の背丈ほどもある特注のアーケードコントローラーを、まるで伝説の武具のように小脇に抱え、予選ブロックへと向かった。
予選開始。 剛のザンギエフは、対戦相手たちの予想を遥かに超える「読み」で場を制圧した。 飛び込もうとする相手には完璧な対空、守りを固める相手にはガード不能のスクリューパイルドライバー。
「……あ、あのザンギ、なんだよ……。一回も読みを外してないぞ」 「『野生の魔王』……あいつ、何者だ?」
ネット配信のコメント欄がざわつき始める中、剛は無敗で決勝トーナメントへと駒を進める。 そして、その決勝の舞台。 壇上のモニターに映し出された対戦相手を見て、剛は初めて眉を動かした。
「ほう……。女子か」
そこに立っていたのは、同じ高校の制服を着た少女だった。 凛とした佇まい、一点の曇りもない氷のような瞳。クラスの委員長であり、「氷の令嬢」と噂されるリンである。
彼女が選択したのは、鋭い蹴りと素早い動きで相手を翻弄する『キャミィ』。 リンは無表情のまま、剛を冷徹に見据えた。
「……佐藤くん。学校では大人しくしていると思ったけれど、こんなところで野蛮な叫び声を上げているのね」 「ガハハ! 委員長、貴様こそその細い指で何ができる? ピアノでも弾いていればよかろうに」 「……黙りなさい。あなたのその傲慢な鼻を、フレームの海に沈めてあげる」
リンが筐体の前に座った瞬間、その指先がわずかに震えた。それは恐怖ではなく、極限まで高められた集中——「戦士」のそれだった。
実況の声が会場に響き渡る。 「さあ、決勝戦! 圧倒的な破壊力を見せる『野生の魔王』ザンギエフ VS 精密機械のような立ち回り、リンのキャミィ! レディー……ファイッ!」
現代の「覇権」をかけた、最初の大きな戦いの幕が上がった。




