第4話:再会は、静かに幕を開ける
中学を卒業し、剛は地域でも有数の進学校へと進んだ。 魔王としての「征服欲」は、現代社会において「知識」と「地位」という最強の武器を揃える方向へと向かっていた。
高校の入学式。 剛は、指定のスクールバッグを無造作に肩にかけ、窮屈なブレザーの襟を正した。
「ふむ……。中学のスポーツバッグすら捨て去り、この薄く洗練された学生鞄を手にする日が来るとはな。これぞ、一兵卒から士官へと昇格した証か」
相変わらずの独り言をこぼしながら、掲示板に張り出されたクラス名簿を確認する。 1年A組。自分の名前の数行下にある「その名前」を見た瞬間、剛の背筋に、かつて経験したことのないほど鋭い戦慄が走った。
(……この名。海藤、誠……か。まさかな。ありふれた姓名だ。あの男がこの平和な島国に、しかも俺と同じ教室にいるはずがない)
剛は内心の動揺を打ち消し、教室のドアを潜った。 窓際の席に座り、何食わぬ顔でクラスメイトたちの様子を観察する。かつての配下を選ぶかのように、一人一人の「器」を推し量る視線。
その時だ。
「失礼します」
教室に入ってきた一人の少年。端正な顔立ちに、どこか生真面目そうな眼鏡をかけたその姿。 周囲の女子生徒たちが微かに色めき立つほどの清廉な空気を纏いながら、少年は迷いのない足取りで自分の席へと向かった。
剛の心臓が、ドクンと大きく跳ねた。 背負っているのは聖剣ではない。右手に持っているのは盾でもない。だが、その歩き方、重心の置き方、そして時折見せる隙のない眼光。
(……間違いない。あの気配は、戦士の……それも、極めて高潔な光の側のものだ)
少年は剛の斜め前の席に座った。 剛の視線に気づいたのか、少年はふと振り返り、軽く会釈をした。
「……こんにちは。隣の席だね。よろしく、佐藤くん」
その声、その微笑み。 間違いなく、漆黒の玉座の間で自分を討ち果たした「勇者」そのものであった。 だが、今の少年——海藤誠には、前世の記憶があるようには見えない。ただの成績優秀で礼儀正しい高校生として、そこに存在していた。
「……ああ。よろしく、海藤」
剛は不敵な笑みを浮かべ、あえて短く応えた。 かつての宿敵が、隣の席でノートを広げている。この奇妙な運命をどう転がすべきか。
(面白い。今はまだ、牙を隠しているというわけか。ならば、どちらがこの世界の覇者に相応しいか、まずは『盤外』で見極めてやろうではないか)
放課後のチャイムが鳴り響く。 剛は、誠が部活動の勧誘を断り、一人で校門を出ていくのを見逃さなかった。 その後を追うように、剛もまた、駅前の喧騒へと足を踏み入れた。
向かう先は、電子の咆哮が響き渡る、現代の闘技場。 そこで剛は、かつての勇者の「真の姿」を目の当たりにすることになる。




