第14話:投資家を跪かせろ
「……いいか、誠よ。この『ベンチャーキャピタル』とやらは、かつての異世界で言うところの『商人ギルド』や『軍資金パトロン』と同じようなものだろう?」
デモンズ・ゲート社の初拠点となった雑居ビルの一室で、剛はネクタイを緩めながら、不敵な笑みを浮かべていた。窓の外には、大学近くの街並みが広がっている。手元には、誠が作成した投資家候補のリストがあった。
「まあ、概念としては近いけど……剛、態度は改めてくれよ。彼らは君の『配下』じゃない。僕らの将来性に賭けてくれる『パートナー』なんだから」 副社長の誠は、ノートパソコンの画面を見つめ、事業計画書の最終チェックを怠らない。 「今日は、国内でも有数の投資実績を持つ『一条ベンチャーキャピタル』のシニアパートナーに会える貴重なチャンスなんだ。君の豪快さは武器になるけど、失礼なことだけは言わないでくれ」
「ガハハ! 心配するな、誠。俺は礼節を重んじる魔王だ。……ただし、相手が俺の価値を理解できるだけの『眼』を持っていればの話だがな」 剛は椅子にふんぞり返り、185cmの長身を大きく伸ばした。
その傍らで、リンは無心にノートPCのキーボードを叩き、デモンズ・ゲート社が開発中のAIアルゴリズムを調整していた。 「……佐藤くん。データのシミュレーションは終わったわ。通信の遅延も、私の書いた新しいプロトコルで従来の10分の1まで抑え込んでいる。あとは、あなたがどれだけハッタリをかませるかよ」 リンはポニーテールを揺らし、鋭い目つきでモニターを睨む。彼女はすでに「工匠頭(CTO)」としての役割を完璧にこなしていた。
一行が向かったのは、六本木の超高層ビルに入っている高級オフィスだった。 通された会議室に現れたのは、仕立てのいいスーツを着こなし、眼鏡の奥に冷徹な光を宿した投資家、鮫島という男だった。
「……デモンズ・ゲート。資本金10万円、代表は大学生。失礼ですが、遊びの延長線ならお帰りいただきたい。私は忙しいんだ」
鮫島は資料を一瞥もせず、冷たく言い放った。誠が慌ててフォローしようとするが、剛がそれを手で制した。
「小僧。いや、鮫島と言ったか。貴様は『市場』という戦場において、何を見て戦っている?」 剛の低く、重厚な声が室内に響く。鮫島は一瞬、その覇気に圧倒されたように沈黙した。
「……何だと?」
「貴様の言う『遊び』とは、この世界における最大の経済活動だ。娯楽を制する者は、民の心と時間を支配する。俺たちは、その支配のための絶対的な『兵器』を持ってきた」
剛の合図で、リンがノートPCを開く。画面には、リンが磨き上げたAIアルゴリズムが弾き出す、リアルタイムの格闘ゲームの勝率予測と、それに伴う視聴者の動向、そして「勝敗が決まる数秒前の感情の起伏」がグラフ化されていた。
「これは……予測アルゴリズムか? だが、この精度はありえない」 鮫島が初めて身を乗り出した。
「当たり前だ。これは俺の『魔導戦術』……いや、究極の勝負勘をリンが数式化したものだ。このアルゴリズムは、eスポーツの勝敗だけでなく、数秒後の金融市場のノイズを捉え、物流の滞りさえも先読みする。既存の古いAIなど、俺たちの前ではただの計算機に過ぎん!」
剛は、鮫島を射抜くような視線で見つめ、不敵に言い放った。 「鮫島よ。俺に投資しろ。いや、俺の覇道に同行する権利を、今のうちに買っておけ。今なら、貴様を俺の『最初のパトロン』として、末席に加えてやってもいいぞ」
「剛! 言い方!」 誠が横から泣きつくように叫んだが、鮫島の反応は意外なものだった。
「……ふ。あはははは!」 鮫島は声を上げて笑った。その瞳からは先ほどまでの冷徹さが消え、肉食獣のような欲望が宿っていた。
「面白い。採用だ。……いや、出資させていただこう、佐藤代表。君のような狂った男は久しぶりだ。その『魔王のロジック』、どれほど世界を蹂躙できるか見せてみろ」
ビルを出た三人の前には、夜の帳が下りた東京の街が広がっていた。
「……やったね、剛! これで数千万円規模のシード資金が確定だ。ついに本格的な拠点を構えられるよ!」 誠が興奮した様子で通帳(管理画面)を確認する。
「フン、当然だ。あのような男、俺の覇気に当てられれば跪くしかなかろう。……さて、誠、リンよ。軍資金は手に入った。次は拠点作りだ」
剛は、近くにあるコンビニの看板を見つめ、満足そうに頷いた。 「祝杯を挙げるぞ。リン、貴様には最高級のプリンを、誠には特大のLチキを奢ってやる。デモンズ・ゲートの最初の凱旋だ!」
「……なんでコンビニなのよ、相変わらず安上がりね。でも、まあ……今日だけは付き合ってあげるわ」 リンは呆れ顔ながらも、その頬をわずかに緩めていた。
魔王が手に入れた、現代社会における最初の「魔力(資金)」。 それは、IT業界という城壁を粉砕するための、巨大な槌となる。




