第13話:魔王軍(スタートアップ)、IT業界へ宣戦布告
大学近くの雑居ビルの一室。窓から差し込む夕日が、何もない空間をオレンジ色に染め上げていた。 「デモンズ・ゲート社」の初拠点となるこの場所には、剛が各地の格ゲー大会で略奪してきた賞金と、わずかな貯金を注ぎ込んで揃えた最低限の機材が並んでいる。
「……さて。誠、リン。この城を拠点に、我らが『魔王軍』の最初の進撃を開始するぞ」
剛は、中古のオフィスチェアにふんぞり返り、不敵な笑みを浮かべた。 「ガハハ! この10万円の資本金と格ゲーで稼いだ種銭が、数カ月後にはこの都市を飲み込むほどの金貨に変わるのだ!」
「剛、さっそく景気のいい話をしてるところ悪いけど、現実はそんなに甘くないよ」 副社長に就任した誠は、慣れた手つきでホワイトボードに現状の課題を書き出していく。 「登記は完了した。法務的な盾は僕が完璧に固めたよ。でも、今の僕らには『商品』がない。ただ格ゲーが強い大学生の集まりじゃ、投資家も大手企業も相手にしてくれない」
「商品なら、もうここにあるわよ」 リンが、最新のゲーミングPCのモニターを剛と誠の方へ向けた。 画面には、幾何学的な模様が複雑に絡み合い、呼吸するように明滅する奇妙なプログラムコードが映し出されている。
「これは……佐藤くんが大会で見せていた、あの『異様な読み』をアルゴリズム化したものよ」 リンは、ポニーテールを揺らしながらキーボードを叩く。 「異世界の戦術理論だか何だか知らないけど、彼の判断基準をAIに学習させたら、既存のどの予測アルゴリズムよりも正確な数値が出たの。これを応用すれば、金融、物流、そしてeスポーツ……あらゆる市場の『先』が読めるわ」
剛は立ち上がり、モニターに映るコードを愛おしそうに見つめた。 「そうだ。これは俺が異世界で軍を指揮した際に使っていた、敵陣の隙を突く『魔導戦術』の現代版だ。魔法はないが、この国のデジタルという波の上では、このロジックこそが最強の魔導書となる!」
「……なるほど。剛の直感的な『王の器』を、リンの精密な技術でパッケージングしたわけか」 誠は眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせた。 「それなら戦える。……剛、まずはどこを落とす?」
剛は窓の外、大手IT企業が軒を連ねる高層ビル群を指差した。 「まずは、あの傲慢なエリート共が集まる『IT見本市』だ。そこで、古い体質の連中が作ったゴミのようなアルゴリズムを粉砕してやる。奴らの築いた『城』を情報の力で焼き払い、デモンズ・ゲートの名を業界に刻みつけるのだ!」
「ちょっと、佐藤くん! だから物騒な言い方はやめてってば!」 リンが抗議の声を上げるが、剛の耳には届いていない。 「誠! 出撃の準備をせよ! リン! 貴様の魔導をさらに磨き上げておけ!」
「……はぁ、また始末書は僕が書くのかい?」 誠はため息をつきながらも、その口元には楽しげな笑みが浮かんでいた。 かつて死闘を繰り広げた宿敵と、その背中を追う天才少女。 三人の異なる才能が、ガレージから飛び出し、現代社会という巨大な「戦場」へと宣戦布告を行った瞬間だった。
「ガハハ! 面白い、採用だ!」 剛の豪快な笑い声が、狭いオフィスに響き渡る。 デモンズ・ゲート社の進撃は、ここから加速していくことになる。




